少子化対策は「子どもが生まれてから」では遅い
― 2035年、日本が再設計すべきは「結婚・住居・仕事・時間」の4つである ―
2026年8月15日|2035 日本再設計プロジェクト
昨日の#012では、2035年の医療・介護を支える「人」が不足する問題を取り上げました。
では、その担い手が減り続ける根本原因は何か。
今日はJapan Compassの中核テーマである少子化・人口減少に踏み込みます。
日本政府はすでに総額3.6兆円規模の「こども・子育て支援加速化プラン」を進めています。児童手当、育休給付、通園支援など、子どもがいる家庭への支援は確実に厚くなりました。コンピュータファームアソシエーション
しかし、ここには一つ大きな問いがあります。
「子育て支援」を強化するだけで、そもそも結婚・出産に至る若者を増やせるのか。
Japan Compassは、少子化政策の主戦場を「出産後」だけでなく、出産前の生活基盤へ移す必要があると考えます。
Executive Summary
2025年の出生数は、速報ベースで70万5,809人となり、10年連続で減少しました。ただし、この速報値には日本国内の外国人などが含まれます。日本人に限った2025年の月報年計概数では出生数は67万1,236人、合計特殊出生率は1.14です。統計の母集団が異なるため、両数字を混同してはいけません。厚生労働省
さらに重要なのは、2024年の日本人出生数68万6,173人が、2023年に公表された将来推計では2039年ごろに到達すると想定されていた水準に、約15年早く達してしまったことです。厚生労働省もこの乖離を資料で示しています。厚生労働省
一方、未婚者の結婚意向が完全に消えたわけではありません。2021年調査では未婚者のうち「いずれ結婚するつもり」と答えた割合は男性81.4%、女性84.3%でした。コンピュータファームアソシエーション
夫婦についても、理想の子ども数と予定する子ども数には依然として差があり、その理由として経済負担が強く意識されています。国立公文書館
したがって少子化を、
「若者が子どもを欲しがらなくなったから」
だけで説明するのは不十分です。
問題は、
結婚したい、子どもを持ちたいという希望を、現実の生活設計へ変換しにくい社会構造
にもあります。
1|出生数は「予測より速く」減っている
少子化そのものは新しいニュースではありません。
しかし現在の問題は、減少速度です。
2025年の人口動態統計速報では出生数70万5,809人、死亡数160万5,654人で、自然増減はマイナス89万9,845人でした。厚生労働省
単純化すれば、
1年間で約90万人分、出生と死亡の差によって人口が減った
ことになります。
しかも日本人に限った出生数は2025年に67万1,236人まで低下しました。茨城県公式サイト
2024年時点ですでに68万6,173人でした。
これは国立社会保障・人口問題研究所の2023年推計で2039年ごろに想定していた出生規模に、はるかに早く到達したことを意味します。厚生労働省
つまり2035日本再設計では、
「従来予測どおり人口が減る」ことだけを前提にしてはいけない。
人口減少が想定以上に速まるケースも政策設計に組み込む必要があります。
2|少子化対策と子育て支援は、同じではない
政府の「こども未来戦略」は重要な前進です。
約3.6兆円規模の加速化プランでは、
児童手当の拡充、
妊娠・出産支援、
育児休業給付、
育児時短就業給付、
こども誰でも通園制度、
などが進められています。コンピュータファームアソシエーション
これらは子育て家庭の生活を改善する政策として重要です。
しかし、
子育て支援
=
出生率上昇政策
とは限りません。
子どもが生まれる前には、
就職 → 所得 → 住居 → パートナー形成 → 結婚 → 出産
という長い意思決定があります。
この入口部分が不安定なら、出産後の支援をどれだけ拡充しても政策効果には限界があります。
3|若者は本当に結婚したくなくなったのか
価値観の変化は確かにあります。
結婚しない人生、子どもを持たない人生を選択する人が増えること自体は、個人の自由として尊重されるべきです。
OECDも、親になること以外に人生の意味を見いだす若者が増え、子どもを持たない生き方への社会的受容が広がっていると分析しています。OECD
しかし、それだけでは日本の現状を説明できません。
2021年の出生動向基本調査では、未婚者のうち、
男性 81.4%
女性 84.3%
が「いずれ結婚するつもり」と回答しています。コンピュータファームアソシエーション
つまり、
結婚意向と実際の結婚行動の間にギャップがある。
政策が見るべきなのはここです。
4|第一の壁――所得と雇用
2025年の若年層賃金を見ると、正社員・正職員の平均月額賃金は、
20~24歳 24万7,500円
25~29歳 28万5,000円
でした。
一方、正社員・正職員以外では、
20~24歳 20万3,500円
25~29歳 22万7,900円
もちろん平均賃金だけで結婚を説明することはできません。
しかし重要なのは、将来所得の予測可能性です。
OECDも日本について、若者や女性に非正規雇用が多いことが家族形成を遅らせ得ると指摘しています。OECD
若者が必要としているのは、
「今月3万円もらえる」
だけではありません。
5年後も生活設計できるという確信
です。
5|第二の壁――住居
結婚・出産には生活空間が必要です。
単身ならワンルームでも生活できます。
しかし、
結婚
↓
第一子
↓
第二子
と進めば、必要な住宅面積は大きくなります。
住宅費が高い都市部ほど、この問題は重くなります。
OECDの国際分析でも、家計支出に占める住宅費の上昇は出生率と負の関係を持つことが示されています。OECD
日本の少子化政策では、
住宅政策を人口政策として扱う
という視点をもっと強めるべきです。
6|第三の壁――時間
お金だけではありません。
子育てには大量の「時間」が必要です。
2025年版男女共同参画白書によると、6歳未満の子どもがいる夫婦では、すべての都道府県で妻の家事関連時間が夫より210分以上長く、逆に夫の仕事関連時間は妻より180分以上長いという構造が残っています。男女共同参画局
これは女性だけの問題ではありません。
男性も、
長時間労働によって家庭参加の選択肢を奪われている
とも言えます。
日本の少子化問題は、
女性の育児負担
+
男性の長時間労働
という表裏一体の問題です。
7|第四の壁――「子どもを持つリスク」が大きい
子どもを持つと、
住宅費
教育費
食費
保育費
時間
キャリア中断リスク
が発生します。
国立社会保障・人口問題研究所の出生動向基本調査でも、理想の子ども数を実現できない理由として「子育てや教育にお金がかかりすぎる」が強く挙げられてきました。国立公文書館
ここで重要なのは、
出産費用だけを無料にしても問題は終わらない
ということです。
子どもを持つ意思決定では、その後20年程度の生活を考えるからです。
8|海外から学ぶ――韓国という警告
日本が最も注意すべき比較対象は、South Koreaです。
韓国も巨額の少子化対策を進めてきました。
保育無償化、児童手当、育児休業、住宅支援など、政策メニュー自体は非常に豊富です。
それでもOECDは2025年の報告書で、家族政策を急速に拡充したにもかかわらず、出生率改善への効果が十分ではなかったと分析しています。OECD
理由として挙げられるのが、
長時間労働、
男女の家事育児分担、
住宅費、
教育競争、
キャリアと家庭の二者択一、
です。OECD
ここから日本が学ぶべき教訓は明確です。
給付金だけでは社会構造は変わらない。
9|現金給付には意味がないのか
ここは慎重に考える必要があります。
「給付金は無意味だ」と断定するのも誤りです。
現金給付は、
子どもの貧困防止、
家計負担軽減、
生活安定、
という重要な効果があります。
一部の研究では出生時期への影響も示されています。
しかしOECDの韓国分析では、直接的な現金支援よりも、
仕事と家庭を両立できる制度、保育、育休、住宅、雇用環境
の改善を優先すべきだとしています。OECD
したがってJapan Compassは、
現金給付をやめるのではなく、現金給付「だけ」に依存しない
という立場です。
10|Japan Compass 政策提案
「子育て支援」から「家族形成支援」へ
ここからが今日の提言です。
日本の少子化政策を、
子どもが生まれた後
から、
若者が家庭をつくる前
まで拡張します。
① 20~39歳向け「家族形成住宅」
国・自治体・民間が連携し、
結婚、出産を希望する若年世帯向けに、
2LDK~3LDK程度の住宅供給を増やします。
重要なのは単なる家賃補助ではありません。
子どもが増えても住み続けられる住宅
を増やすことです。
② 若年層の可処分所得を上げる
給付金だけでなく、
社会保険料、
所得税、
住宅費、
奨学金返済、
まで含め、
25~39歳の可処分所得
を政策KPIにします。
平均年収ではなく、
「毎月いくら自由に使えるのか」
を見るべきです。
③ 父親の育児参加を「制度」から「実態」へ
育休取得率だけでは不十分です。
必要なのは、
取得日数
育児時間
復職後の残業時間
まで測ることです。
男性が育児に参加できない企業文化を放置したまま、
女性に出産を求める政策は成立しません。
④ 第二子の壁を重点支援する
第一子支援だけでなく、
第二子を希望する家庭に対して、
住宅
保育
教育
所得
を重点支援します。
「子どもを持つか」だけでなく、
希望する人数まで持てるか
を見る政策へ変えます。
⑤ 教育費の予測可能性を高める
大学までいくら必要になるのか分からないこと自体がリスクです。
教育支援制度を毎年変更するのではなく、
子どもが生まれた時点で、18~22年後までの公的支援の基本ルールが見える制度
にします。
家族政策には継続性と信頼性が重要だというOECDの指摘とも整合します。OECD
11|それでも出生率は戻らない可能性がある
政策には限界があります。
ここを隠してはいけません。
価値観は変化しています。
結婚しない人、子どもを持たない人も増えるでしょう。
したがって、
出生率2.1を政策目標として無理に追う
ことは現実的ではありません。
さらに、政府が出産を促すこと自体に違和感を持つ人もいます。
その懸念は正当です。
国家が個人に、
「結婚しろ」
「子どもを産め」
と言う社会であってはなりません。
政策の目的は、
産ませることではなく、産みたい人が諦めなくて済む社会をつくること
です。
12|もう一つの現実――少子化対策が成功しても間に合わない
仮に2027年から出生率が上昇しても、
その子どもが18歳になるのは2045年です。
つまり、
2035年の労働力不足には間に合いません。
ここが非常に重要です。
したがって人口政策は、
少子化対策だけでは成立しません。
2035年までについては、
女性・高齢者の就業、
AI・ロボットによる生産性向上、
外国人材政策、
地方の集約化、
などを同時に進める必要があります。
OECDも日本に対し、出生率だけでなく、女性・高齢者の就業障壁の除去や外国人労働者の活用を組み合わせる必要性を指摘しています。OECD
13|2035 日本再設計ロードマップ
2026~2027年|人口政策の再定義
「出生数」だけでなく、
若者可処分所得、
婚姻希望実現率、
住宅費負担率、
第二子希望実現率、
男女育児時間、
を国家KPI化。
2027~2030年|若年生活基盤改革
住宅、雇用、社会保険、奨学金、保育を横断した「家族形成政策」を開始。
2030~2032年|企業制度改革
男性育児時間、長時間労働、育休後のキャリア格差を企業開示指標へ。
2032~2035年|人口減少適応フェーズ
出生率が改善しても人口減少は続く前提で、
AI、医療、介護、交通、行政、地方都市を人口減少仕様へ再設計。
14|2035日本再設計白書での位置付け
#012では、
「高齢者が増える社会をどう支えるか」
を考えました。
#013ではその反対側、
「支える世代がなぜ減っているのか」
を扱いました。
この二つはセットです。
社会保障だけ改革しても、
担い手が減り続ければ限界があります。
少子化対策だけしても、
効果が出るまで20年近くかかります。
したがって2035日本再設計では、
人口政策 × 社会保障 × 労働政策 × AI × 外国人政策
を一つの体系として扱います。
今回を、
第9部「人口・家族・次世代政策」基礎章
と位置付けます。
今日の提言
少子化対策を「子ども政策」だけにしてはいけない。
子どもが生まれる前には、
仕事があり、
所得があり、
住居があり、
パートナーとの生活があり、
時間があります。
そこが不安定な社会で、
「子どもを産んだら支援します」
と言っても遅い。
日本が再設計すべきなのは、
結婚・住居・仕事・時間。
そして政策目標は、
出生率を上げることそのものではなく、「子どもを持ちたい人が経済的・社会的理由で諦めなくてよい国」をつくること
であるべきです。
読者への問い
もし25歳の若者から、
「日本で結婚して子どもを2人育てても、普通に暮らしていけますか?」
と聞かれたら、
私たちは自信を持って、
「大丈夫」
と言えるでしょうか。
2035年の日本を考えるなら、
この質問への答えを変えることから始める必要があります。
#013は、「2035 共生City構想」をJapan Compass独自の政策提言を公開予定
データ出典・参考資料
OECD Economic Surveys: Japan 2024
OECD “Korea’s Unborn Future” 2025
OECD “Fertility, employment and family policy”
Japan Compass #013
2035 日本再設計プロジェクト|第9部 人口・家族・次世代政策
コンピュータファームアソシエーション厚生労働省国立公文書館茨城県公式サイトOECD男女共同参画局

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