Japan Compass#021

外国人受入れと「日本語・教育」

――働く人を受け入れるだけで、家族と地域は共生できるのか

2026年8月23日|2035日本再設計プロジェクト|外国人受入れ特別特集④

#018では外国人受け入れの基本ルール、#019では犯罪・不法滞在・不法就労、#020では社会保障の負担と給付を検証しました。

ここまで制度を追ってくると、次の課題が見えてきます。

日本は外国人を「労働力」として受け入れる制度を急速に整備してきました。

しかし、その人が日本で暮らし、家族を持ち、子どもを育て、地域社会の一員になっていくための仕組みは十分でしょうか。

日本語が分からない。

行政から届く通知が読めない。

子どもの学校制度が分からない。

病院で症状を説明できない。

災害時の避難情報を理解できない。

地域住民との接点がない。

こうした問題を放置したまま外国人だけを増やせば、外国人本人だけでなく、学校、自治体、企業、医療機関、そして地域住民にも負担が集中します。

今回は「外国人に日本語を学んでもらう」という話だけではありません。

日本が外国人を受け入れるのであれば、社会参加に必要な言語・教育・生活ルールを、誰が、いつ、どこまで教える責任を負うのか。

2035年の外国人受入れ制度を、教育という視点から再設計します。


Executive Summary

現在、日本では日本語教育が必要な子どもが急増しています。

政府が2025年9月に閣議決定した日本語教育の基本方針では、日本語指導が必要な児童生徒は約6万9千人

さらに、外国人の子どものうち、約8,600人が不就学の可能性、または就学状況を確認できない状態にあることが課題として示されています。文部科学省

そして重要なのは、日本語指導が必要な子どもとは、

「日常会話ができない子ども」

だけではないことです。

文部科学省は、

日常会話ができても、授業を理解するための学習言語能力が不足している子ども

も日本語指導の対象としています。文部科学省

一方、日本語教育推進法では、日本語教育について国や自治体だけでなく、外国人を雇用する事業主にも責務があることが明記されています。文化庁

つまり外国人受け入れは、

入管政策だけでも、

労働政策だけでも、

教育政策だけでも成立しません。

Japan Compassは、2035年までに、

「入国→就労→日本語→生活→子どもの教育→地域参加」

を一つの受け入れシステムとして設計する必要があると考えます。


1|「日本語が話せる」と「日本で生活できる」は違う

外国人政策で最初に整理すべきなのが、日本語能力です。

例えば、

「コンビニで買い物ができる」

「職場で簡単な指示が分かる」

ことと、

役所から届いた通知を理解する。

学校の保護者説明会を理解する。

医師に症状を説明する。

税や社会保険制度を理解する。

災害時の避難情報を理解する。

子どもの進路について教師と相談する。

ことは、まったく違います。

文部科学省も、日常会話能力と学習に必要な日本語能力を区別しています。文部科学省

外国人受け入れ政策で必要なのは、

「日本語試験に合格したか」だけではなく、「日本社会で生活できる言語能力があるか」

という視点です。


2|日本語指導が必要な子どもは約6万9千人

2026年5月、文部科学省は最新の「日本語指導が必要な児童生徒の受入状況等に関する調査」を公表しました。

調査は2025年5月1日時点の全国の学校を対象にしています。文部科学省

政府の基本方針では、日本語指導が必要な児童生徒は外国籍・日本国籍を合わせて約6万9千人に達しています。文部科学省

しかも問題は人数だけではありません。

出身国の多様化によって母語も多言語化しています。

外国人が集中して暮らす地域がある一方、少人数が全国に散在する地域もあります。

10人、20人の外国人児童がいる学校なら専任支援者を置けても、

学校に1人だけポルトガル語、

別の学校に1人だけベトナム語、

さらに別の学校に1人だけネパール語、

となれば、すべての学校へ専門人材を配置するのは困難です。

外国人の増加だけではなく、「多言語化」と「散在化」が教育現場を難しくしています。


3|約8,600人の子どもの就学が確認できない

さらに深刻なのが就学問題です。

政府の基本方針では、外国人の子どものうち、

約8,600人が不就学の可能性、または就学状況を確認できない状態

にあるとしています。文部科学省

日本国籍の子どもについては義務教育があります。

しかし外国籍の子どもの保護者には、日本の義務教育制度上、日本人と同じ就学義務が課されていません。

一方、希望すれば公立の義務教育諸学校に受け入れられ、授業料や教科書などについて日本人児童生徒と同様の扱いを受けます。文部科学省

ここに制度上の空白があります。

日本で長期間暮らしているにもかかわらず、

学校へ行っていない。

外国人学校にも通っていない。

自治体も所在や就学状況を十分確認できていない。

という子どもが発生する可能性があります。

これは外国人政策というより、

日本社会で暮らす子どもの権利の問題

として考える必要があります。


4|教育を受けられないことは将来の社会問題につながる

子どもが日本語を十分習得できない。

学校教育を十分受けられない。

高校へ進学できない。

安定した仕事に就けない。

社会との接点が減る。

こうした状態が長期間続けば、本人の人生だけではなく社会にも影響します。

外国人受け入れ政策を考える際、

「働き手が必要だから外国人を呼ぶ」

という入口だけを設計して、

その子どもの教育を自治体や学校へ丸投げすることは持続可能ではありません。

外国人労働政策と外国人児童教育政策は、最初から一体で設計する必要があります。


5|日本語教育は誰の責任なのか

日本語教育推進法は、この点について重要な考え方を示しています。

法律は、日本語教育を推進する責務を、

地方公共団体

そして、

外国人を雇用する事業主

にも求めています。文化庁

これは重要です。

外国人を採用することで利益を得る企業が、

「仕事だけ教えます。日本語や生活は自治体でお願いします」

では、受け入れコストを地域社会へ転嫁することになります。

前回まで提案してきた、

「外国人材受入企業責任原則」

に、日本語教育も含めるべきです。


6|ボランティア頼みでは持続できない

日本各地には地域日本語教室があります。

多くは自治体、国際交流協会、NPO、そして地域ボランティアによって支えられています。

地域交流という意味では非常に重要です。

しかし、

外国人人口が数百万人規模になり、

さらに増加することを前提とするなら、

日本語教育という社会インフラを善意のボランティアだけに依存することには限界があります。

文化庁も以前から、地域日本語教育について、学習機会や指導者育成が十分ではないという課題を指摘しています。文化庁

専門的な教育は専門職が担う。

地域住民は交流や会話を支える。

この役割分担が必要です。


7|2027年度から「育成就労制度」が始まる

日本の外国人労働政策も大きく変わります。

2027年度から新しい育成就労制度が始まる予定です。

この制度では、外国人労働者に対して認定日本語教育機関による日本語講習を行う仕組みが制度化されます。

文部科学省も2026年6月、日本語教育機関が就労目的の外国人など多様な学習者に対応できるよう、新しい教育カリキュラム整備を進めています。文部科学省

方向性は正しいと思います。

ただし問題は、

入国前や就労開始時だけ日本語を教えれば十分なのか

という点です。

生活が長期化すれば必要な日本語も変わります。

仕事の日本語。

生活の日本語。

子育ての日本語。

行政手続きの日本語。

地域社会での日本語。

段階的に学べる仕組みが必要です。


8|海外事例:カナダは「言語」だけを教えていない

外国人受け入れ国として参考になるのがカナダです。

カナダ政府のSettlement Programでは、新規移住者に対して単なる語学教育だけではなく、

公用語教育

就職支援

資格認証支援

メンタリング

地域コミュニティとの接続

公共機関へのアクセス支援

などを組み合わせています。Canada

ここから日本が学べるのは、

「語学教育」と「社会統合」を別々に考えない

ことです。

日本語教室で文法を覚えて終わりではありません。

役所へ行ける。

病院へ行ける。

仕事を探せる。

学校と話せる。

地域社会に参加できる。

そこまで含めて「生活できる状態」を作る。

日本にも、この発想が必要です。


9|賛成側の主張

日本語教育への公費投入は社会への投資である

外国人向け日本語教育へ税金を使うことに、

「なぜ外国人の日本語教育を日本人の税金で負担するのか」

という疑問は当然あります。

一方で、

日本語能力が上がれば、

行政手続きが円滑になる。

就労機会が増える。

税・社会保険制度への理解が進む。

子どもの教育環境が改善する。

地域住民とのトラブルを減らせる。

災害時の情報伝達も改善する。

可能性があります。

つまり日本語教育は、

外国人本人への福利厚生だけではなく、社会全体の行政コストや摩擦を減らす投資

として見ることもできます。


10|慎重側の主張

受け入れコストを国民だけに負担させてよいのか

一方で、公費だけで支える制度にも問題があります。

外国人を雇うことで企業が利益を得る一方、

日本語教育。

子どもの教育。

生活相談。

医療通訳。

行政手続き。

地域トラブルへの対応。

といった費用を自治体と国民だけが負担すれば、

利益は企業、コストは社会

という構造になります。

これは持続可能ではありません。

したがって、

自治体

外国人本人

受け入れ企業

が適切に負担を分ける必要があります。


11|Japan Compass政策提案

「Japan Integration Program」

Japan Compassでは、中長期で日本に暮らす外国人を対象に、

Japan Integration Program

の創設を提案します。

内容は、日本語だけではありません。

日本語

社会保険

労働法

医療

子育て

学校制度

交通ルール

ごみ出し

災害対応

地域ルール

行政手続き

など、日本で生活するために必要な基礎知識を一つの教育プログラムにします。


12|入国時に一度教えて終わりにしない

プログラムは3段階とします。

STEP 1|入国・在留開始時

最低限の生活ルール、行政手続き、労働法、緊急時対応を学ぶ。

STEP 2|就労・生活開始後

職場日本語、税、社会保険、住宅、医療などを学ぶ。

STEP 3|長期在留・永住を目指す段階

より高度な日本語、日本社会制度、地域参加などを学ぶ。

長く日本で暮らすほど、

日本社会について理解を深める仕組み

にします。


13|子どもは「全員就学確認」へ

外国人の子どもについては、さらに明確な原則が必要です。

Japan Compassでは、

日本国内に中長期在留する学齢期の子どもについて、自治体が全員の就学状況を確認する

仕組みを提案します。

公立学校。

私立学校。

外国人学校。

インターナショナルスクール。

その他適切な教育。

選択肢は一つである必要はありません。

重要なのは、

「どこにも通っていない子どもを把握できない状態」をなくすこと

です。


14|「外国人教育支援センター」を広域設置する

外国人児童が少数しかいない自治体に、

ベトナム語、ポルトガル語、中国語、ネパール語、タガログ語などの専門スタッフをすべて配置するのは現実的ではありません。

そこで都道府県または広域自治体単位で、

外国人教育支援センター

を設置します。

オンラインも活用して、

日本語教育

母語支援

学校への通訳

保護者面談

進路相談

教材提供

教師への専門支援

を複数自治体で共有します。

これなら外国人が散在する地方でも対応できます。


15|企業にも教育費を負担してもらう

外国人材を一定人数以上雇用する企業については、

日本語教育費や生活オリエンテーション費用の一部負担を求めます。

ただし、中小企業へ過大な負担を課せば外国人採用そのものが困難になります。

そこで、

企業負担

国の助成

自治体支援

本人負担

を組み合わせます。

適切な日本語教育を実施する企業には助成や受け入れ手続きの簡素化。

教育を放置する企業には改善を求める。

企業責任と企業支援をセットにします。


16|日本人側にも「共生教育」が必要

共生は外国人だけが努力するものでもありません。

外国人が日本語を学ぶ。

日本の法律を守る。

日本の生活ルールを理解する。

これは当然必要です。

一方、日本人側も、

異なる文化背景を持つ住民との接し方。

やさしい日本語。

学校や職場でのコミュニケーション。

外国人住民を地域社会へ迎える方法。

を学ぶ機会が必要です。

ただし、

日本人が外国人文化に全面的に合わせるという意味ではありません。

共通ルールは日本社会のルール。

そのうえで、互いに理解できる部分を増やす。

この順番が重要です。


17|制度の副作用も考える

日本語能力を在留資格と強く結び付けすぎれば、

高齢者。

学習障害のある人。

教育機会の少なかった人。

家庭事情で学習時間を確保できない人。

などが不当に排除される可能性があります。

また日本語教育を企業へ完全に任せれば、

企業ごとに教育の質が大きく変わります。

逆に国がすべて負担すれば、財政負担が膨らみます。

さらに外国人児童を特別クラスへ集めすぎれば、

日本人児童との交流が減り、逆に社会分断を固定化する

可能性もあります。

制度は、

日本語教育

通常学級

専門支援

地域交流

を組み合わせる必要があります。


18|2035日本再設計ロードマップ

2026~2027年|実態把握

外国人の日本語能力、日本語教育へのアクセス、児童の就学状況を全国共通基準で把握します。

2027~2029年|Japan Integration Program開始

育成就労制度と連動し、入国時・就労時の日本語・生活教育を体系化します。

2029~2031年|外国人教育支援センター全国展開

都道府県・広域自治体単位で専門人材を共有し、小規模自治体でも支援できる体制を作ります。

2031~2033年|子どもの就学確認100%へ

住民基本台帳と教育行政を連携させ、学齢期の外国人児童について就学状況を確認できない状態を原則なくします。

2033~2035年|外国人受入れと社会統合政策を統合

入管、雇用、日本語、教育、税、社会保障、地域政策を一つの外国人受入れ基本制度へ統合します。


19|2035日本再設計白書での位置付け

本稿は、

第一部 人口
第三部 経済・労働
第五部 教育・人材
第七部 地方創生
行政・制度改革

を横断するテーマとして位置付けます。

#018から続く外国人受入れ特集では、

#018 受け入れルール
#019 犯罪・不法滞在・不法就労
#020 社会保障
#021 日本語・教育・社会参加

まで進みました。

ここまで来ると、外国人政策の輪郭がかなり明確になります。

必要なのは単なる「移民賛成・反対」の議論ではありません。

誰を受け入れ、何を求め、日本側は何を提供し、その費用と責任を誰が負うのか。

これを制度として決めることです。


今日の提言

外国人を「働く人」としてだけ受け入れる時代は終わりつつあります。

長期間暮らせば、

家族ができます。

子どもが生まれます。

学校へ通います。

病院へ行きます。

税を払います。

地域で暮らします。

だから外国人受け入れ政策は、

労働政策から「生活者政策」へ進化させなければなりません。

そのための最も重要なインフラの一つが、日本語と教育です。

外国人には、日本語と日本社会のルールを学んでもらう。

企業には、受け入れに伴う教育責任を負ってもらう。

国と自治体には、教育機会と制度を整備する責任を持ってもらう。

そして日本人側も、地域社会の一員として適切に共生する方法を考える。

2035年の日本に必要なのは、

外国人に日本文化を捨てて合わせてもらう社会でも、

日本がすべて外国人に合わせる社会でもありません。

共通言語と共通ルールを土台に、違いを認めながら暮らせる社会です。


読者への問い

日本で長期間暮らす外国人に、

一定水準の日本語学習と、日本の法律・社会制度・生活ルールについて学ぶことを求める。

その代わり、日本側も質の高い日本語教育と生活支援を提供する。

そして、その費用を、

国・自治体・企業・外国人本人で分担する。

この仕組みを皆さんは公平だと思うでしょうか。

さらにもう一つ。

日本で暮らす外国人の子どもについて、

国籍にかかわらず「教育を受けていることを社会として確認する」仕組みは必要でしょうか。


データ出典・参考資料

文部科学省「日本語指導が必要な児童生徒の受入状況等に関する調査(令和7年度)」

文部科学省「外国人の子供の就学状況等調査(令和7年度)」

文部科学省「日本語教育の推進に関する施策を総合的かつ効果的に推進するための基本的な方針」

文化庁「日本語教育の推進に関する法律」

文部科学省「日本語教育ニーズの多様化を踏まえた教育カリキュラム編成・質向上支援事業」

カナダ政府 Settlement Program

カナダ政府 Departmental Plan ― Language training and settlement services

※外国人児童の「約8,600人」は、全員が不就学であることを意味する数字ではありません。「不就学の可能性がある、または就学状況を確認できていない」子どもを含むため、本稿では両者を区別して表記しています。

文部科学省文化庁Canada

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