外国人受入れと「住まい・地域共生」
――働く場所だけ用意して、暮らす場所は市場任せでいいのか
2026年8月25日|2035日本再設計プロジェクト|外国人受入れ特別特集⑥
#018から続けてきた外国人受入れ特集では、
#018 受け入れルール
#019 犯罪・不法滞在・不法就労
#020 社会保障
#021 日本語・教育・社会参加
#022 労働市場・賃金・キャリア
までを検証しました。
ここまでで、「誰を受け入れるのか」「どのように働いてもらうのか」という入口の制度はかなり見えてきました。
しかし、一つ大きな領域が残っています。
住まいです。
日本で働く以上、その人は必ずどこかの地域で暮らします。
アパートを借りる。
ごみを出す。
買い物をする。
病院へ行く。
子どもを学校へ通わせる。
地域の道路や公共交通を使う。
つまり外国人受け入れ政策とは、労働政策であると同時に、
住宅政策であり、地域政策でもあります。
今回は、
「外国人を何人受け入れるか」
から一歩進み、
「受け入れた人が、どこで、どのように暮らすのか」
を2035年の日本から逆算して考えます。
Executive Summary
2025年末、日本の在留外国人数は412万5,395人に達しました。
東京都だけで80万1,438人。
全国の在留外国人の19.4%が東京都に暮らしています。
次いで、
大阪府 37万5,319人
愛知県 35万7,800人
神奈川県 31万7,353人
埼玉県 29万937人
となっています。法務省
一方、日本の住宅政策も大きく変わりました。
2025年10月には改正住宅セーフティネット法が全面施行され、住宅を確保することが難しい人に対して、入居だけではなく見守りや相談など入居後の支援まで組み合わせる「居住サポート住宅」制度が始まっています。国土交通省
この制度が重要なのは、
「住宅問題は鍵を渡せば終わりではない」
という考え方が制度に入り始めたことです。
これは外国人政策にも応用できます。
ただし、注意すべきこともあります。
外国人だけを特定地域や企業寮へ集めれば、生活支援は効率化できます。
その一方で、
地域社会との分断。
学校の外国人児童集中。
行政負担の偏在。
住宅価格・家賃への影響。
生活ルールをめぐる摩擦。
そして、
「外国人の街」と「日本人の街」が分かれていく居住分離
を招く可能性があります。
Japan Compassでは、
外国人の住宅確保と地域統合を、受け入れ人数を決める段階から一体で設計する
ことを提案します。
1|外国人412万人は、必ずどこかの地域住民になる
外国人政策では、
技能実習。
特定技能。
留学生。
高度人材。
永住者。
といった「在留資格」が中心に語られます。
しかし自治体から見れば、在留資格より先に、
住民です。
外国人が増えれば、
住宅。
学校。
保育園。
病院。
公共交通。
ごみ処理。
上下水道。
行政窓口。
日本語支援。
防災。
地域コミュニティ。
への需要が増えます。
2025年末の在留外国人数は412万5,395人。
しかも前年末から35万6,418人、9.5%増加しました。法務省
このペースで外国人受け入れを続けるなら、
「働く場所は企業が決める。住む場所は本人が探す」
だけでは、制度として不十分になっていきます。
2|外国人住宅問題は「外国人だけの問題」ではない
日本では今後、
単身高齢者。
低所得者。
障害のある人。
ひとり親世帯。
子育て世帯。
外国人。
など、民間賃貸住宅への入居に支援を必要とする人が増えると考えられています。
国土交通省も、単身世帯の増加や持ち家率の低下を背景に、住宅確保要配慮者の住まい確保が重要になるとしています。国土交通省
つまり外国人住宅問題だけを切り離すより、
日本全体の「住宅弱者問題」の一部として設計した方が合理的
です。
これは重要です。
「外国人専用住宅」を大量につくれば、短期的には簡単です。
しかしそれが地域から切り離された巨大な外国人居住区になれば、長期的には別の問題を生みます。
3|大家側にも現実的な不安がある
外国人の住宅問題を、
「大家の差別」
だけで説明するのも正確ではありません。
賃貸住宅を貸す側には、
家賃滞納。
保証人。
言語。
契約内容の理解。
退去時の手続き。
生活ルール。
緊急時の連絡。
などへの不安があります。
これは高齢者や低所得者など他の住宅確保要配慮者でも同じです。
実際、住宅セーフティネット法の改正も、賃貸人側が抱える家賃滞納や死亡時の残置物処理などへの不安を減らすことを重要な目的としています。国土交通省
必要なのは、
「貸してください」と大家にお願いすることだけではありません。
貸す側のリスクも制度で下げることです。
4|2025年、「居住サポート住宅」が始まった
ここは今回の重要なポイントです。
2025年10月1日、改正住宅セーフティネット法が全面施行されました。
新しく始まったのが、
居住サポート住宅
です。
住宅確保要配慮者に住宅を提供するだけではなく、
見守り。
福祉サービスへのつなぎ。
生活相談。
などを組み合わせます。国土交通省
これは以前Japan Compassで提案した2035共生City構想とも非常に相性が良い制度です。
住まい。
福祉。
医療。
子育て。
地域。
を別々に考えない。
住宅を社会政策の入口にする。
この方向は今後の日本に必要だと思います。
5|外国人住宅にも「入居後支援」が必要
外国人の場合には、さらに独特の問題があります。
例えば、
ごみの分別方法が分からない。
自治会の仕組みが分からない。
騒音ルールが分からない。
災害時の避難場所を知らない。
契約更新の仕組みが分からない。
退去時の原状回復を理解していない。
これは必ずしも、
「日本のルールを守る気がない」
から起こるわけではありません。
単純に知らない場合もあります。
だから入居時に、
契約。
ごみ。
騒音。
防災。
自治会。
公共施設。
緊急連絡。
などを多言語または「やさしい日本語」で説明する。
これだけでも地域トラブルの一部は減らせるはずです。
6|企業寮だけに依存する危険
外国人労働者の住宅を企業が用意することにはメリットがあります。
来日直後から住める。
家賃が安い。
通勤しやすい。
生活支援をまとめて提供できる。
しかし、企業と住宅が完全に一体化すると問題もあります。
仕事を辞めたら、
同時に家も失う。
これは労働者を企業へ強く依存させます。
前回#022で転職の自由を取り上げましたが、
転職できても住宅を失うのであれば、
実質的な転職自由はありません。
したがって、
雇用と住宅を完全に同じ契約へ縛り付けない
という原則が必要です。
7|海外事例:シンガポールの外国人労働者住宅
外国人労働者の住宅を制度的に管理している代表例の一つがシンガポールです。
シンガポールでは一定規模以上の外国人労働者用宿舎について、
居住スペース。
居室人数。
トイレ。
調理設備。
洗濯設備。
Wi-Fi。
レクリエーション施設。
感染症対策。
などの基準が設けられています。Ministry of Manpower Singapore
さらに建設・海事・プロセス分野の一部労働者については、入国前に適切な住居を確保していることを確認する仕組みもあります。
シンガポール政府は、
住居を確保できていなければ、新しい労働者を入国させない
という考え方を示しています。Ministry of Manpower Singapore
これは非常に明確です。
8|しかしシンガポール型をそのまま日本へ入れてはいけない
一方で、日本が外国人労働者を大規模な専用寮へ集める政策をそのまま採用すべきかというと、慎重になる必要があります。
大規模集住には、
行政サービスを提供しやすい。
住宅確保が容易。
企業管理がしやすい。
というメリットがあります。
しかし、
地域住民との交流が減る。
外国人だけの生活圏が形成される。
社会的孤立。
感染症など集団生活特有のリスク。
労働者と地域社会の分断。
などの問題もあります。
日本が目指すのが一時的な出稼ぎ労働者制度ではなく、
長期的な共生社会
なのであれば、住宅政策も違う設計が必要です。
9|海外の研究が示す「居住分離」の問題
OECDも、移民統合政策において住宅を重要な政策分野としています。
特に注意されているのが、
residential segregation=居住分離
です。
特定の地域へ移民が集中し、他の地域住民との接点が少なくなる状態です。
社会住宅は移民の住宅確保に役立つ一方、どこに建設し、どのように入居者を配置するかによっては、逆に居住分離を強める可能性があるとOECDは指摘しています。OECD
つまり、
住宅を用意すれば解決ではありません。
「どこに、誰と一緒に暮らすのか」
まで都市政策として考える必要があります。
10|外国人が一部地域へ集中すると何が起きるのか
外国人が特定地域へ集中すると、行政サービスの効率は上がる面があります。
日本語教室。
通訳。
外国人相談窓口。
学校支援。
医療通訳。
などを集中配置できます。
一方、
一部学校だけ外国人児童が急増する。
自治体の日本語支援費が増える。
住宅需要が集中する。
生活習慣をめぐる摩擦が増える。
地域住民が急激な変化を感じる。
といった問題も起こります。
だから必要なのは、
「外国人を分散させる」ことそのものではありません。
地域インフラに対して、
どの程度の人口増加まで対応できるのかを把握することです。
11|賛成側の主張
外国人住宅支援は日本経済に必要
企業が外国人を採用したくても、
住む場所が見つからない。
これでは外国人受け入れ制度は機能しません。
地方では空き家がある一方で、
外国人労働者が住める住宅が不足するというミスマッチも起こり得ます。
適切な住宅支援があれば、
空き家活用。
地域人口維持。
商店の利用者増加。
公共交通維持。
学校の児童数維持。
など、地方創生につながる可能性があります。
住宅政策は、
外国人支援ではなく地域維持政策
にもなり得ます。
12|慎重側の主張
地域の受け入れ能力を無視してはいけない
一方で、
企業が外国人を大量採用する。
住宅を確保する。
あとは自治体へ。
という仕組みも公平ではありません。
外国人が増えれば、
日本語教育。
学校。
保育。
医療。
防災。
ごみ処理。
行政相談。
などの費用は自治体が負担します。
つまり、
利益は企業、社会コストは自治体
となる可能性があります。
前回までと同じ問題です。
外国人受け入れには、
企業の雇用責任だけでなく、
地域への責任
も必要です。
13|Japan Compass政策提案
「外国人受入れ地域キャパシティ指標」
Japan Compassでは、自治体ごとに、
外国人受入れ地域キャパシティ指標
を設けることを提案します。
見るのは外国人人口比率だけではありません。
住宅空室率。
家賃。
学校の受け入れ能力。
日本語指導体制。
医療。
保育。
公共交通。
行政相談体制。
地域日本語教育。
災害対応。
外国人を雇用する企業数。
などを総合評価します。
目的は、
外国人に上限を付けることではありません。
地域インフラへの投資が必要な場所を早く発見することです。
14|受け入れ企業に「住宅確保計画」を求める
一定人数以上の外国人を新規採用する企業には、
簡易的な、
外国人材住宅・生活支援計画
を提出してもらいます。
例えば、
どこに住むのか。
家賃はいくらか。
過密ではないか。
通勤手段はあるか。
緊急連絡先はあるか。
生活オリエンテーションを誰が行うか。
転職・退職した場合、いつまで住宅を利用できるか。
などです。
これにより、
採用してから住む場所を探す
という状態を減らします。
15|企業住宅には最低基準を設ける
企業が外国人へ提供する住宅については、
最低居住面積。
入居人数。
トイレ・浴室。
冷暖房。
通信環境。
プライバシー。
家賃の透明性。
給与からの控除額。
退職時の退去猶予。
などの基準を設けます。
特に重要なのが、
給与から差し引かれる住宅費の透明化
です。
賃金を適正に払っていても、
高額な寮費や管理費を控除すれば、実質的な手取りは下がります。
賃金政策と住宅政策はセットで見る必要があります。
16|Japan Compass政策提案
「地域共生オリエンテーション」
中長期で日本に暮らす外国人については、転入時に短時間の、
地域共生オリエンテーション
を実施します。
内容は、
ごみ。
騒音。
交通。
防災。
学校。
医療。
自治体窓口。
自治会・地域活動。
緊急連絡。
住宅契約。
です。
#021で提案したJapan Integration Programの「地域版」と考えればよいでしょう。
ただし、
日本文化を一方的に教え込む場にはしません。
外国人側からも、
「分からない制度」
「困っていること」
を伝えられる双方向型にします。
17|住民同士の支え合いは「任意」にする
ここは2035共生City構想でも重要な原則です。
外国人が増えたから、
地域住民に、
「面倒を見てください」
と押し付けてはいけません。
ごみ指導。
生活相談。
通訳。
学校支援。
トラブル対応。
これらを自治会や善意の住民へ丸投げすると、必ず疲弊します。
専門支援は、
自治体。
企業。
居住支援法人。
日本語教育機関。
専門職。
が担う。
地域住民は、
参加したい人が参加する。
この線引きが必要です。
18|空き家を外国人住宅へ活用できるか
日本には空き家問題があります。
一方で、人手不足地域では外国人の住宅確保が問題になります。
ならば、
空き家を外国人材住宅へ転用する
という発想は合理的です。
ただし、
古い空き家へ外国人をまとめて住ませればいい、
という話ではありません。
耐震。
断熱。
水回り。
通信環境。
交通。
病院。
スーパー。
職場。
学校。
まで確認する必要があります。
外国人向け住宅政策を、
空き家再生・地方創生政策と接続する
価値は十分あります。
19|外国人専用団地はつくらない
Japan Compassでは原則として、
大規模な外国人専用住宅地区を政策的につくることには慎重であるべき
と考えます。
代わりに、
日本人。
外国人。
若者。
子育て世帯。
高齢者。
単身者。
などが同じ地域で暮らす、
混住型住宅
を基本にします。
これは、以前提案した多世代型の2035共生Cityともつながります。
外国人だけの共生ではありません。
世代も国籍も異なる人が同じ生活圏を共有する都市設計
です。
20|ただし「分散の強制」もしない
一方で、
外国人が一定割合を超えたら別地域へ移す、
といった政策も問題があります。
住む場所を選ぶ自由があります。
家族。
友人。
宗教施設。
母国食品店。
コミュニティ。
など、同じ文化背景を持つ人の近くで暮らすことには合理性があります。
だから行政が目指すべきなのは、
外国人を散らすことではなく、集中した地域へ必要な公共サービスを先回りして整備すること
です。
21|2035日本再設計ロードマップ
2026~2027年|住宅実態の可視化
自治体ごとに、
外国人人口。
住宅状況。
家賃。
企業寮。
学校。
日本語支援。
地域インフラ。
を把握します。
2027~2029年|企業住宅基準を整備
育成就労制度とも連動し、外国人材を一定人数以上受け入れる企業について、住宅・生活支援計画を導入します。
2029~2031年|地域キャパシティ指標を導入
外国人人口の増加速度と地域インフラの状況を可視化。
不足地域へ国が重点支援します。
2031~2033年|空き家・住宅セーフティネットと統合
空き家再生、居住サポート住宅、企業住宅、地方移住政策を接続します。
2033~2035年|「居住まで含む外国人受入れ制度」へ
外国人受け入れ人数を決める際、
労働需要だけではなく、
住宅。
学校。
医療。
日本語教育。
交通。
地域コミュニティ。
まで含めて評価します。
「仕事があるから受け入れる」から、「地域として受け入れられるから受け入れる」へ。
制度を一段進化させます。
22|2035日本再設計白書での位置付け
本稿は、
第一部 人口
第三部 経済・労働
第六部 住宅・都市
第七部 地方創生
行政・制度改革
を横断するテーマとして位置付けます。
外国人受入れ特集は、
#018 受け入れルール
#019 犯罪・在留管理
#020 社会保障
#021 日本語・教育
#022 労働市場・賃金・キャリア
#023 住宅・地域共生
まで進みました。
ここまで来ると、一つの原則が見えてきます。
外国人受け入れとは、
入管政策ではありません。
人口。
労働。
教育。
社会保障。
住宅。
地域。
これらを統合した、
国家の人口・社会設計そのものです。
今日の提言
日本はこれまで、
「外国人をどう入国させるか」
を中心に制度を作ってきました。
しかし今後必要なのは、
「入国した人が、どの地域で、どのように暮らすのか」
まで設計することです。
外国人を雇う企業には、働く場所だけではなく住む場所にも一定の責任を持ってもらう。
自治体には、外国人人口の増加に合わせて学校、医療、日本語、住宅、行政サービスを整備してもらう。
国には、その費用を外国人が増えた自治体だけへ押し付けない財政支援を求める。
そして外国人本人にも、
日本の住宅契約や地域ルールを理解してもらう。
重要なのは、
誰か一人に責任を押し付けないことです。
企業だけでもない。
自治体だけでもない。
地域住民だけでもない。
外国人本人だけでもない。
国・自治体・企業・住民・外国人本人が、それぞれ合理的な範囲で責任を分担する。
そして住宅政策では、
「外国人だけを集める」のでも、「外国人を無理に分散させる」のでもない。
日本人も外国人も、若者も高齢者も、子育て世帯も単身者も暮らせる地域をつくる。
これは外国人政策というより、
人口減少時代の日本のまちづくりそのものです。
2035年の日本に必要なのは、
外国人労働者を収容する街ではありません。
日本で暮らす人が、国籍にかかわらず地域の一員になれる街です。
読者への問い
企業が外国人を多数採用する場合、
その企業に「適切な住宅を確保する責任」も一定程度求めるべきでしょうか。
そしてもう一つ。
外国人が増える地域には、学校、日本語教育、医療、住宅、行政サービスなど追加の費用が発生します。
その費用を、
自治体だけに負担させるのではなく、
国と外国人受入企業も分担する仕組み
をつくるべきでしょうか。
外国人受け入れを考えるとき、
「何人入れるか」の次に議論すべきなのは、
「その人たちは、どこで、誰と、どう暮らすのか」
なのだと思います。
データ出典・参考資料
出入国在留管理庁「令和7年末現在における在留外国人数について」
国土交通省「住宅セーフティネット法等の一部を改正する法律について」
国土交通省「住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律等の一部改正」
OECD「International Migration Outlook ― Housing and residential segregation」
※在留外国人数は2025年12月末時点です。外国人の住宅問題は地域・在留資格・所得・雇用形態によって状況が大きく異なるため、本稿では「外国人全体が住宅確保に困難を抱えている」とは扱っていません。また、外国人の地域集中それ自体を問題とするのではなく、人口増加速度と住宅・教育・医療・行政など地域インフラとの不均衡を政策課題として捉えています。

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