日本のインフラ老朽化
――道路・橋・トンネルを「全部残す」時代は終わる。2035年、何を守り、何を再編するのか
2026年8月30日|2035日本再設計プロジェクト|インフラ・国土・地方再設計編
#024ではエネルギー。
#025では食料。
#026では水。
#027ではサイバー。
ここまで、日本を止めないための「国家基盤」を検証してきました。
今日取り上げるのは、それらすべてを物理的につないでいる、
道路・橋・トンネル・河川施設・上下水道・港湾などの社会インフラです。
日本では高度経済成長期以降、大量のインフラを整備してきました。
その結果、これから2035年前後にかけて、多くの施設が一斉に「高齢期」に入ります。
国土交通省によれば、建設後50年以上となる道路橋は2023年時点の約37%から2030年に約54%、2040年には約75%へ増える見込みです。
トンネルは25%から52%。
河川管理施設は22%から65%。
港湾施設は27%から68%へ増えます。国土交通省
そして、もう一つ重要な問題があります。
直す人も減っていきます。
人口減少。
地方財政。
建設技術者不足。
資材高騰。
災害激甚化。
これらが同時に進む2035年。
日本は本当に、
今あるインフラを全部維持できるのでしょうか。
今回は、この難しい問題に踏み込みます。
Executive Summary
日本のインフラ問題は、
「古くなる」という問題だけではありません。
「古くなる施設が急増する」
「維持する人口が減る」
「維持する技術者も減る」
「災害対応は増える」
という四つの問題が同時に進んでいます。
国土交通省の推計では、2040年に建設後50年以上となる割合は、
道路橋 約75%
トンネル 約52%
河川管理施設 約65%
水道管路 約41%
下水道管渠 約34%
港湾施設 約68%
となります。国土交通省
一方、全国約73万橋のうち、7割以上となる約52万橋を市区町村が管理しています。国土交通省
つまり老朽化対策の最前線に立つのは、必ずしも国ではありません。
人口減少と職員不足に直面する地方自治体です。
さらに国土交通省は、事後保全を続けた場合、2048年度の年間維持管理・更新費が2018年度の約2.4倍になる一方、予防保全へ転換すれば2048年度の年間費用を事後保全比で約5割、30年間累計で約3割縮減できると試算しています。国土交通省
Japan Compassでは2035年に向け、
「全部残すインフラ政策」から「選び、つなぎ、長く使うインフラ政策」へ
転換することを提案します。
1|2035年、日本は「インフラ高齢社会」になる
人間に高齢化があるように、インフラにも高齢化があります。
道路橋。
トンネル。
ダム。
港。
下水道。
高度経済成長期に集中的に建設された施設が、一斉に建設後50年を超えていきます。
道路橋は、
2023年 約37%
2030年 約54%
2040年 約75%。
トンネルは、
25%
35%
52%。
河川管理施設は、
22%
42%
65%。
港湾施設は、
27%
44%
68%。
です。国土交通省
ただし注意も必要です。
「50年=危険」ではありません。
立地条件、構造、施工品質、交通量、塩害、維持管理によって劣化速度は異なります。
50年という数字は寿命ではなく、
老朽化リスクを考える一つの目安
です。
2|道路陥没は「突然起きた事故」ではない
2025年1月、八潮市で大規模な道路陥没事故が発生しました。
国土交通白書2025も、この事故を踏まえ、インフラ老朽化を「喫緊の課題」と位置付けています。国土交通省
さらに、2025年度に確認された道路陥没は、
直轄国道 101件
都道府県管理道路 1,282件
市町村管理道路 9,844件
でした。国土交通省
原因は下水道だけではなく、道路排水施設などさまざまです。
重要なのは、
道路の下にも巨大なインフラが存在している
ということです。
水道。
下水道。
ガス。
通信。
電力。
道路だけ直せば終わる問題ではありません。
3|インフラは「見えない資産」
新しい橋。
新幹線。
高速道路。
空港。
こうした新規建設は目立ちます。
一方、
橋脚の補修。
トンネル内部の補強。
水道管交換。
排水設備更新。
はほとんど目立ちません。
政治的にも、
「新しく何を造ったか」
の方が説明しやすい。
しかし成熟国家では、政策の重点を、
BuildからMaintainへ
移さなければなりません。
4|問題は「お金」だけではない
「予算を増やせば解決する」
とも限りません。
国土交通白書2025は、建設業や運輸業について、高齢化と若年入職者の減少による中長期的な担い手不足を重要課題として挙げています。国土交通省
つまり、
予算がある。
修理する橋も分かっている。
しかし、
施工する人がいない。
という事態も起こり得ます。
5|地方ほど難しくなる
全国約73万橋のうち、7割以上の約52万橋は市区町村管理です。国土交通省
そして地方自治体では、
土木技術職。
橋梁技術者。
建築職。
設備職。
など専門人材の確保が難しくなっています。
国土交通白書では、福島県平田村の例として、技術系職員がゼロの状態で、事務系職員が約70橋の維持管理を補っていたケースも紹介されています。国土交通省
人口減少地域ほど、
人口当たりの道路。
橋。
水道管。
公共施設。
が多くなる可能性があります。
つまり、
利用者は減るのに、維持する面積は減らない。
これは昨日までの水道問題とも同じ構造です。
6|だから「全部残す」は現実的なのか
ここで避けて通れない問題があります。
人口1万人だった地域が、
5,000人。
3,000人。
と減っても、
すべての道路。
橋。
公共施設。
上下水道。
を同じ規模で維持するべきでしょうか。
理想としては残したい。
しかし、
財源。
人材。
利用頻度。
代替ルート。
災害リスク。
を考えれば、
維持するインフラの優先順位を決める時代
に入っています。
7|「廃止」という言葉だけでは議論できない
ただし、
「使われない橋だから廃止」
と単純に決めることも危険です。
その橋が、
救急車のルート。
災害時の避難路。
農業物流。
学校への通学路。
地域唯一のアクセス。
かもしれません。
利用者数だけで判断してはいけません。
必要なのは、
社会的重要度×代替性×災害リスク×維持費
による評価です。
8|Japan Compass政策提案
「National Infrastructure Priority Map」
全国の主要インフラを一つの地図へ統合します。
道路。
橋。
トンネル。
上下水道。
港湾。
河川。
鉄道。
病院。
避難所。
電力。
通信。
そして、
人口。
産業。
物流。
災害リスク。
を重ねます。
その上で、
この橋が止まったら何が止まるのか
を評価します。
単なる施設台帳から、
国家インフラ依存関係マップ
へ変えます。
9|「壊れてから直す」は最も高くつく
インフラ管理には大きく二つの考え方があります。
事後保全
壊れてから修理する。
予防保全
壊れる前に補修する。
国土交通省の推計では、事後保全を続けた場合、2048年度の年間維持管理・更新費は2018年度の約2.4倍。
予防保全へ転換した場合、2048年度の年間費用は事後保全ケースより約5割低くなり、30年間累計でも約3割縮減できる見込みです。国土交通省
つまり、
早く直す方が、長期では安い。
これは住宅や自動車と同じです。
10|しかし予防保全にも問題がある
予防保全には、
点検。
データ。
技術者。
予算。
が必要です。
全国すべての施設を同じ頻度・精度で点検すれば、膨大なコストになります。
そこで必要になるのが、
リスクベース・メンテナンス
です。
11|AIで「壊れる順番」を予測する
橋やトンネルに、
センサー。
カメラ。
ドローン。
振動計。
ひずみ計。
衛星。
を使います。
そこへ、
建設年。
材料。
交通量。
気象。
塩害。
過去の補修。
地震。
などのデータを組み合わせます。
AIで、
どこから劣化する可能性が高いか
を推定します。
人間がすべてを同じように点検するのではなく、
AIが優先順位を付け、
技術者が最終判断する。
この形へ移行します。
12|デジタルツインで「未来の劣化」を見る
参考になる技術が、
Digital Twin
です。
イギリス政府の技術評価でも、デジタルツインは物理的な設備とデジタルモデルをデータで結び、遠隔監視、予知保全、効率化、コスト削減、リスク低減などに活用できると整理されています。GOV.UK
橋。
トンネル。
港。
ダム。
をデジタル空間にも再現し、
現実のセンサーデータを送り続ける。
すると、
劣化。
変形。
振動。
などの変化を継続的に監視できます。
13|日本も建設DXを始めている
日本でも国土交通省が、
i-Construction 2.0
を進めています。
目標は2040年度までに、
建設現場の省人化を少なくとも3割
つまり、
生産性を1.5倍
へ向上させることです。国土交通省
施工のオートメーション。
データ連携。
施工管理の自動化。
を進めます。
2025年度には自動施工9件、遠隔施工41件となり、前年度から増加しました。国土交通省
これは単なる建設業DXではありません。
人口減少時代にインフラを維持するための、
国家基盤技術
です。
14|Japan Compass政策提案
「Infrastructure Digital Twin Japan」
国。
都道府県。
市町村。
で分散しているインフラデータを標準化します。
建設時の設計。
点検履歴。
補修履歴。
センサー。
災害。
利用量。
維持費。
をデジタル資産台帳へ統合。
主要インフラについて段階的に、
Infrastructure Digital Twin Japan
を構築します。
ただし、サイバー攻撃でインフラ情報が悪用されないよう、#027で扱ったサイバー安全保障とセットで設計します。
15|海外から学ぶべきこと
海外でもインフラ政策は、
「新しく造る」
から、
Asset Management
へ比重が移っています。
例えば英国では、道路・橋梁等について、GIS、劣化モデル、ライフサイクル計画、投資シナリオなどを組み合わせた資産管理手法が公共調達でも利用されています。Apply to Supply
重要なのは技術そのものより、
インフラを「建設プロジェクト」ではなく「数十年間運用する資産」として考える
思想です。
日本にも必要な発想です。
16|Japan Compass政策提案
「広域Infrastructure Utility」
昨日はRegional Cyber Utility。
その前は広域Water Utility。
インフラ全体にも同じ考え方を広げます。
人口の少ない自治体が、
橋梁技術者。
道路技術者。
ドローン。
AI解析。
点検機材。
契約。
をすべて単独保有する必要はありません。
複数自治体で、
技術者・設備・データ・調達を共同化
します。
自治体の境界ではなく、
生活圏。
流域。
交通圏。
で管理します。
17|国も「群マネジメント」へ進み始めている
国土交通省も、複数・広域・多分野のインフラを「群」として捉える考え方や、施設の集約・再編を含む持続可能なメンテナンスへの転換を進めています。国土交通省
Japan Compassの提案は、この方向をさらに2035年型へ進め、
自治体単位からインフラ圏単位へ
管理主体を再設計するものです。
18|賛成意見
インフラを集約・廃止するべき
人口減少を前提とすれば、
利用されない道路。
橋。
公共施設。
上下水道。
をすべて維持するのは非効率です。
維持費を重要インフラへ集中した方が、
安全性。
サービス品質。
財政。
の面で合理的です。
コンパクトシティ政策とも整合します。
19|反対意見
地方切り捨てになる
一方で、
利用者が少ないから廃止。
という政策は、
地方居住者。
高齢者。
農業。
林業。
観光。
離島。
を切り捨てる可能性があります。
インフラがなくなれば、
人口減少がさらに進む。
↓
利用者がさらに減る。
↓
さらにインフラを廃止する。
という、
縮小スパイラル
に入る危険があります。
だから、
人口だけで判断してはいけません。
20|Japan Compass政策提案
「廃止」ではなく「サービス転換」
橋を維持できないなら、
代替道路。
小型橋。
渡船。
道路を維持できないなら、
オンデマンド交通。
公共施設なら、
複合施設。
水道なら、
小規模分散型給水。
というように、
施設を残すか消すかではなく、必要な機能をどう残すか
を考えます。
守るべきなのはコンクリートではありません。
生活サービスです。
21|住民参加はどこまで許されるか
国土交通白書では、福島県平田村で住民が橋の状態確認や清掃などに参加する「橋のセルフメンテナンス」の事例が紹介されています。国土交通省
これは地域参加の興味深いモデルです。
しかし、
専門点検。
補修。
安全判断。
まで住民へ押し付けてはいけません。
Japan Compassでは、
住民=異常発見・清掃・情報提供。
専門職=診断・補修・安全判断。
と明確に役割を分けます。
これは共生Cityで提案した、
「任意の支え合い」と「専門職の責任」を分ける
考え方と同じです。
22|インフラ整備の評価方法を変える
新しい道路を造る時、
建設費だけを見るのをやめます。
例えば橋なら、
建設費。
50年間の点検費。
補修費。
更新費。
撤去費。
人員。
CO2。
災害リスク。
まで含めます。
つまり、
Lifecycle Cost
で評価します。
「造れるか」
ではなく、
「50年間維持できるか」
を建設条件にします。
23|Japan Compass政策提案
「新設1・統廃合1」原則
人口減少地域で新しい公共インフラを造る場合、
既存施設の統廃合や再編を同時に検討します。
ただし、
新しい橋を一つ造ったら古い橋を必ず一つ壊す、
という機械的制度にはしません。
重要なのは、
新設時に将来の維持負担を必ず計算する
ことです。
未来の自治体に請求書だけ残す建設を減らします。
24|災害時には「冗長性」も必要
効率化しすぎると別の問題が起きます。
道路を一本に集約。
橋を一つに集約。
浄水場を一つに集約。
すると、
その一つが災害で壊れた時、
すべて止まります。
だからインフラ政策では、
効率性と冗長性のバランス
が重要です。
平時には少し無駄に見える設備が、
災害時には命を守る場合があります。
25|Japan Compass政策提案
「Infrastructure Resilience Score」
インフラを、
新しいか古いか。
だけで評価しません。
評価項目は、
健全度。
利用者数。
重要施設接続。
代替ルート。
災害リスク。
補修費。
復旧時間。
人材。
サイバー耐性。
地域経済。
です。
これを、
Infrastructure Resilience Score
として可視化します。
26|2035日本再設計ロードマップ
2026~2027年|全国インフラ棚卸し
道路、橋、トンネル、上下水道、港湾、河川施設等について、状態・利用量・維持費・災害リスクを統合します。
2027~2029年|National Infrastructure Priority Map
国家・地域に不可欠なインフラを特定し、更新順位を公開します。
2029~2031年|広域Infrastructure Utility実証
人口減少地域を中心に、自治体を越えた技術者・設備・調達・データ共有を実証します。
2031~2033年|Digital Twin本格導入
主要橋梁、トンネル、港湾、河川施設等をデジタル管理へ移行します。
2033~2035年|インフラ再編
維持。
更新。
統合。
用途転換。
廃止。
を地域単位で決定し、
「造る国」から「賢く使い続ける国」
へ転換します。
27|2035日本再設計白書での位置付け
本稿は、
第四部 インフラ・国土
を中心に、
第二部 経済・産業
第七部 地方創生
防災・国土強靱化
行政・制度改革
を横断するテーマとして位置付けます。
#024 Energy
#025 Food
#026 Water
#027 Digital
#028 Infrastructure
ここまでで、
2035年の国家基盤レジリエンス
という一つの大きな政策群が見えてきました。
これらは白書最終版では独立した記事ではなく、
「国家基盤・国土レジリエンス編」
として統合してもよい重要領域です。
今日の提言
日本のインフラ政策を、
「何を新しく造るか」から「何を2035年まで残すか」へ転換すべきです。
2040年には道路橋の約75%が建設後50年以上になります。国土交通省
しかし、
50年だから危険。
古いから壊す。
という単純な話ではありません。
状態を調べる。
重要度を調べる。
代替性を調べる。
災害リスクを調べる。
そして、
直す。
長く使う。
統合する。
用途を変える。
場合によっては廃止する。
その判断をデータで行う。
必要なのは、
「インフラを守ること」ではありません。
守るべきなのは、
そのインフラによって支えられている、
人の生活と経済活動です。
人口が減る日本で、
すべてを昔と同じ形で維持することは難しくなります。
だからこそ、
本当に必要なものには、今まで以上に投資する。
その選択が必要です。
2035年に目指すべきなのは、
新しい道路がたくさんある国ではありません。
古い橋が一つもない国でもありません。
必要なインフラが、必要な場所で、安全に動き続ける国です。
読者への問い
人口が大きく減った地域でも、
道路・橋・上下水道などを現在と同じ形で維持し続けるべきでしょうか。
それとも、
最低限必要な生活サービスを保障したうえで、利用の少ないインフラは統合・転換・廃止する
という選択を受け入れるべきでしょうか。
そしてもう一つ。
新しい公共施設や道路を造る時、
建設費だけではなく、
50年間の維持費と最後の撤去費まで国民に提示してから建設を決める制度
にする。
これは、将来世代に責任を持つために必要ではないでしょうか。
2035年の日本に問われているのは、
「もっと造れるか」ではありません。
「今ある日本を、どう次の世代へ渡すか」です。
データ出典・参考資料
国土交通省「i-Construction 2.0・2025年度取組成果」
英国政府「Rapid Technology Assessment: Digital Twins」
※「建設後50年以上」は施設の安全性や寿命を直接意味する指標ではありません。国土交通省自身も、劣化状態は立地環境や維持管理状況等によって異なるとしています。国土交通省 また、維持管理費の削減率は2018年度に行われた長期推計であり、将来の物価・人件費・技術革新等により実際の費用は変化します。政策判断では施設ごとの健全性・重要性・代替性を個別評価する必要があります。

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