2035 日本の「移動」再設計
――「バスを残す」から、「移動できる暮らしを残す」へ
2026年9月9日|2035日本再設計プロジェクト|地方創生・交通・医療・介護・AI編
昨日の#037では「日本のエネルギー再設計」を考えました。
その前には、安全保障、行政、住宅、働き方、介護、教育、医療、共生City、少子化・家族形成などを扱ってきました。
2035日本再設計白書を改めて俯瞰すると、生活を成立させるために不可欠でありながら、独立した国家設計としてまだ十分に掘り下げていない領域があります。
「移動」です。
病院があっても、行けなければ意味がない。
スーパーがあっても、行けなければ買えない。
仕事があっても、通えなければ働けない。
共生Cityを作っても、住宅・医療・介護・学校・買い物がつながらなければ生活圏にはなりません。
そして人口減少が進む日本では、
「すべての地域に、今までと同じ路線バスを残す」
ことも難しくなっています。
2026年8月1日時点の日本の総人口は概算1億2,268万人。前年同月から59万人減少しました。15~64歳人口も減少しています。総務省統計局
国土交通省も、タクシーやバスなどを利用しにくい地域を「交通空白」と位置付け、2025~2027年度を集中対策期間として対策を進めています。国土交通省道路局
しかしJapan Compassでは、さらに一歩進めます。
守るべきなのは「バス路線」ではありません。
守るべきなのは、
「移動できる生活」
です。
Executive Summary
2035年の地域交通には三つの大きな変化が重なります。
人口減少。
高齢化。
運転手不足。
利用者が減れば、固定路線バスは採算が悪化します。
しかし高齢者が増えれば、
病院。
買い物。
介護。
行政。
への移動需要そのものはなくなりません。
つまり、
利用者は減るのに、移動を必要とする人の重要度は上がる
という難しい問題が起きます。
政府の「地方創生2.0」も、人口減少を正面から受け止めながら、社会・経済機能を維持すること、官民連携や広域連携、新技術の活用を重視しています。内閣官房
Japan Compassでは2035年までに、日本の地域交通を次の7本柱へ再設計することを提案します。
① 路線ではなく「移動権」を守る
② バス・タクシー・送迎車を一つの地域交通網として統合
③ AIオンデマンド交通を全国展開
④ 医療・介護・教育の送迎資源を条件付きで共有
⑤ 高齢者・障害者にはDoor-to-Doorを用意
⑥ 自動運転を地方から社会実装
⑦ 交通単体の赤字ではなく「地域全体の社会コスト」で評価する
2035年の公共交通は、
「時刻表に人が合わせる交通」から、「人の需要に交通が合わせる交通」へ。
これを目指します。
1|地方交通の問題は「赤字路線」の問題ではない
地方のバスについて、
「利用者が少ないのだから廃止も仕方ない」
という議論があります。
経営だけを見れば合理的です。
しかし、そのバスを利用している人が、
車を運転できない高齢者。
学生。
障害のある人。
低所得者。
であれば話は変わります。
交通がなくなることは、
単にバスがなくなることではありません。
生活圏から切り離されること
だからです。
2|車を運転できる人には見えにくい問題
自家用車を持っていれば、
病院まで20分。
スーパーまで15分。
市役所まで25分。
は、それほど大きな問題ではありません。
しかし免許を返納した瞬間、
同じ距離が、
「行けない距離」
へ変わることがあります。
2035年の移動政策は、
道路を作る政策だけではなく、
車を運転できない人の生活設計
でなければなりません。
3|「交通空白」はすでに国家課題
国土交通省は2024年に「交通空白」解消本部を設置しました。
現在は、
タクシー。
乗合タクシー。
日本版ライドシェア。
公共ライドシェア。
などを組み合わせ、「地域の足」「観光の足」を確保する政策を進めています。国土交通省
さらに交通だけでなく、
医療・福祉・教育など他分野の輸送資源を活用すること
も検討対象になっています。国土交通省
これは非常に重要な方向転換です。
4|Japan Compass政策提案
「Mobility Guarantee」
まず発想を変えます。
政府が守るものを、
「○○バス路線」
から、
「生活に必要な移動機会」
へ変えます。
例えば地域住民が、
医療。
買い物。
教育。
行政。
仕事。
へ一定時間以内にアクセスできるか。
これを交通政策のKPIにします。
5|「バスがある」では評価しない
1日2本バスが走っていても、
病院の予約時間に合わない。
帰りの便がない。
スーパーで買い物する時間が取れない。
なら、実質的には利用できません。
そこで、
Access Time
を測ります。
6|Japan Compass政策提案
「30-Minute Living Access」
人口規模や地域条件によって基準は変える必要がありますが、
日常生活に必要な、
スーパー。
診療所。
行政。
交通結節点。
などへ、
原則30分程度でアクセスできる生活圏
を一つの目標とします。
離島・山間地域などでは別基準を設定します。
重要なのは、
距離ではなく、
実際に到達できる時間
です。
7|固定路線バスが向いていない地域もある
人口密度が低い地域で、
大型バスが、
毎日。
決まった時間。
決まった道路。
を走る。
乗客が一人でもゼロでも走る。
これは2035年には維持できない地域が増えるでしょう。
そこで必要になるのが、
Demand Responsive Transport=DRT
です。
8|海外事例
英国のオンデマンド交通
イギリスでは、地方・郊外でDemand Responsive Transportの実証が進められてきました。
英国運輸省はRural Mobility Fundを通じて15自治体でDRTを実証し、2025年12月にはその運用経験をまとめたガイダンスを公開しました。GOV.UK
固定路線ではなく、
利用者が予約。
↓
システムが需要をまとめる。
↓
車両が最適ルートを走る。
という方式です。
9|実際に何が変わるのか
例えば人口5,000人の町で、
午前9時。
Aさんは病院。
Bさんはスーパー。
Cさんは駅。
へ行きたい。
それぞれタクシーを走らせるのではありません。
AIが予約をまとめ、
一台の車両で効率的に送る。
これが基本です。
10|Japan Compass政策提案
「AI Community Mobility」
全国の人口減少地域で、
AIオンデマンド交通を地域交通の標準選択肢にします。
アプリだけではありません。
電話。
自治体窓口。
介護施設。
病院。
からも予約できるようにします。
高齢者に、
「スマートフォンを使えなければ乗れません」
という制度にはしません。
11|しかしDRTにも弱点がある
オンデマンド交通は万能ではありません。
利用者が多すぎると、
待ち時間が長くなる。
迂回が増える。
予約が取りにくい。
固定路線より運行効率が悪くなる場合もあります。
つまり、
人口密度が高い場所では鉄道・固定路線バスの方が効率的
です。
12|Japan Compass政策提案
「Density Based Mobility」
人口密度によって交通方式を変えます。
高密度地域:
鉄道+高頻度バス。
中密度地域:
幹線バス+DRT。
低密度地域:
DRT+乗合タクシー+公共ライドシェア。
超低密度地域:
Door-to-Door+地域輸送。
つまり、
全国同じ交通制度にしません。
13|地域には実は「車」がたくさんある
人口の少ない町でも、
スクールバス。
病院送迎車。
介護施設送迎車。
ホテル送迎。
企業バス。
自治体車両。
タクシー。
があります。
しかし多くは、
それぞれの組織だけで使われています。
14|Japan Compass政策提案
「Mobility Pool」
安全性・保険・運行責任を明確にした上で、
地域の輸送資源を一つのプラットフォームへ登録します。
例えば、
午前はスクールバス。
昼間は高齢者の買い物支援。
夕方は再びスクールバス。
という使い方です。
15|ただし「空いている車だから使えばいい」では危険
ここには重大な問題があります。
事故責任。
保険。
運転資格。
車両安全。
利用者の個人情報。
介助。
運行管理。
です。
だから善意の相乗りではなく、
制度化されたMobility Pool
にします。
16|高齢者にはDoor-to-Doorが必要
バス停まで500メートル。
健康な人には歩けます。
しかし、
杖を使う。
歩行器を使う。
認知機能が低下している。
暑さが厳しい。
場合、500メートルが大きな壁になります。
だから高齢社会の交通は、
バス停から考えてはいけません。
17|海外事例
ニュージーランド「Total Mobility」
ニュージーランドには、障害などによって通常のバス・鉄道・フェリーを利用することが難しい人に、認可タクシー利用を補助するTotal Mobility Schemeがあります。
2026年7月から補助率は65%となっています。ANZ Transport
重要なのは、
公共交通を、
大型バスや鉄道だけで定義していないこと
です。
18|Japan Compass政策提案
「Mobility Credit」
一定の条件を満たす、
免許返納者。
障害者。
要介護者。
低所得者。
などへ、
年間一定額の、
Mobility Credit
を付与します。
バス。
DRT。
タクシー。
公共ライドシェア。
などに使えるようにします。
19|これは高齢者福祉費なのか、交通費なのか
ここが非常に重要です。
例えば移動手段がなく、
高齢者が家へ閉じこもる。
↓
運動量が減る。
↓
フレイルが進む。
↓
要介護になる。
とすれば、
交通費を削った結果、
介護費が増える
可能性があります。
20|交通政策を単独会計で評価しない
これはJapan Compassが今回最も強調したい点です。
赤字バスへ年間5,000万円補助する。
これだけ見れば、
「赤字」です。
しかしその交通によって、
通院できる。
買い物できる。
働ける。
学校へ行ける。
孤立を防げる。
介護予防になる。
なら、
別の社会コストを減らしている可能性があります。
21|Japan Compass政策提案
「Mobility Social ROI」
交通政策を、
運賃収入-運行費
だけで評価しません。
医療。
介護。
教育。
雇用。
観光。
地域消費。
孤立対策。
まで含め、
Social Return on Investment
を評価します。
22|自動運転は「都会の便利機能」ではない
自動運転というと、
東京のロボタクシー
を想像しがちです。
しかしJapan Compassでは逆に考えます。
最も必要なのは、
運転手がいなくなる地方
です。
23|Japan Compass政策提案
「Rural First Autonomous」
自動運転の社会実装を、
地方。
離島。
ニュータウン。
限定された生活圏。
から優先します。
走行ルート。
速度。
道路環境。
が限定される地域なら、技術的にも導入しやすい可能性があります。
24|自動運転で運転手は不要になるのか
完全にはそうなりません。
高齢者。
車椅子利用者。
観光客。
子ども。
には、
乗降支援。
荷物。
案内。
緊急対応。
が必要です。
だから運転手をゼロにするだけではなく、
DriverからMobility Supporterへ
仕事を変える発想も必要です。
25|Japan Compass政策提案
「Mobility Supporter」
運転だけではなく、
高齢者の乗降。
買い物荷物。
病院受付までの案内。
観光案内。
子どもの見守り。
などを担当する新しい地域職種を作ります。
これは#033働き方再設計ともつながります。
26|交通と「共生City」を接続する
#014共生Cityでは、
住宅。
医療。
介護。
教育。
買い物。
仕事。
公園。
相談。
を一つの生活圏にまとめる構想を提示しました。
今回、
そこへ、
Mobility Layer
を追加します。
27|Japan Compass政策提案
「Family Support Center + Mobility」
Family Support Centerへ、
「病院へ行きたい」
「買い物へ行けない」
「子どもの送迎が難しい」
と相談すれば、
DRT。
タクシー。
地域車両。
Mobility Credit。
などから最適な方法を案内する。
交通窓口を別に作りません。
生活相談の中に移動を入れます。
28|地方創生2.0との接続
政府の地方創生2.0も、
「安心して働き、暮らせる地方の生活環境」
AI・デジタルなど新技術の活用、
広域リージョン連携などを政策の柱としています。内閣官房
Japan Compass案はこの方向性と重なります。
ただし、
「交通サービスを増やす」
だけではなく、
生活圏全体を再設計する
ところまで踏み込みます。
29|自治体ごとに交通を完結させる必要はない
病院。
高校。
大型スーパー。
駅。
は、市町村境界とは関係なく配置されています。
しかし行政制度は市町村単位になりがちです。
住民の生活圏と行政境界が一致していません。
30|Japan Compass政策提案
「Regional Mobility Authority」
複数自治体が、
交通計画。
DRT。
運賃。
予約システム。
車両。
を共同運営できる、
広域Mobility Authority
を設置します。
自治体ごとに小さなシステムを作るより、
効率化できる可能性があります。
31|観光客も同じ交通を使う
これは地方にとって重要です。
地域住民だけでは利用者が少ない。
しかし、
観光客。
出張者。
外国人旅行者。
も同じDRTを利用できれば、
利用率が上がります。
住民交通と観光交通を完全に分けません。
32|八重山モデル
八重山はこの実証に非常に向いています。
石垣島には、
住民。
高齢者。
観光客。
ホテル送迎。
空港。
港。
病院。
スーパー。
があります。
一方、離島ではさらに交通条件が違います。
そこで、
「Yaeyama Mobility Sandbox」
を提案します。
33|Yaeyama Mobility Sandbox
石垣島では、
路線バス。
タクシー。
レンタカー。
ホテル送迎。
DRT。
公共ライドシェア。
をデータ連携。
一つのアプリ・電話窓口から検索・予約できるようにします。
そして竹富・西表・小浜などでは、
島ごとの人口・観光需要に合わせた小型DRTを実証します。
34|ただし観光客優先にしてはいけない
観光需要は収益になります。
一方で、
予約が観光客で埋まり、
住民が病院へ行けない
ということが起きれば本末転倒です。
そこで、
医療。
通学。
介護。
など一定の生活移動には優先枠を設けます。
35|反対意見
「そこまで税金で交通を支える必要があるのか」
当然出る議論です。
人口50人の集落へ、
高額な交通サービスを維持する。
それが社会全体として合理的なのか。
これは避けてはいけない問題です。
36|居住政策とのセットが必要
Japan Compassでも、
すべての場所に同じ行政サービスを永久に維持できる
とは考えません。
人口が極端に減少した地域では、
住宅。
医療。
買い物。
交通。
を集約する、
コンパクト化
も選択肢になります。
ただし強制移住にはしません。
移転支援。
住宅支援。
地域コミュニティ維持。
をセットにします。
37|もう一つの反対意見
「AI・アプリについていけない」
その通りです。
だから、
Digital First
ではあっても、
Digital Only
にはしません。
電話一本。
病院受付。
スーパー。
Family Support Center。
から予約できるようにします。
38|2035日本再設計ロードマップ
2026~2027年
Mobility Gap Map
全国で、
病院。
スーパー。
学校。
駅。
行政。
までの実移動時間を測定。
「交通空白」を路線の有無ではなく、
生活アクセス
として可視化します。
2027~2029年
AI Community Mobility 100
人口減少地域100か所で、
AIオンデマンド交通。
Mobility Pool。
Mobility Credit。
を実証します。
2028~2030年
Medical & Welfare Mobility Integration
医療。
介護。
教育。
自治体。
の送迎資源を安全基準の下で共有します。
2029~2031年
Regional Mobility Authority
複数自治体による広域交通運営を拡大します。
2030~2032年
Rural First Autonomous
地方・離島・ニュータウンを中心に、
限定領域の自動運転を実装します。
2031~2033年
Mobility Credit全国展開
免許返納者。
障害者。
要介護者。
低所得者。
などへ、必要性に応じた移動支援を提供します。
2033~2035年
Mobility Guarantee Japan
最終的に、
「バス路線があるか」
ではなく、
「必要な生活サービスへ到達できるか」
を国・自治体の交通政策KPIにします。
39|2035日本再設計白書での位置付け
今回の「移動再設計」は、
地方創生
を中心に、
人口。
医療。
介護。
教育。
住宅。
働き方。
AI。
エネルギー。
観光。
と接続する横断テーマです。
特に、
#014 共生City
#032 介護再設計
#033 働き方再設計
#034 住宅再設計
#035 行政再設計
#037 エネルギー再設計
と強くつながります。
ここまで来ると2035日本再設計の方向がさらに明確になります。
施設を作るだけでは生活は成立しない。
住宅。
病院。
学校。
仕事。
スーパー。
行政。
そして人。
それらを、
「移動」でつなぐ必要があります。
今日の提言
日本の地方交通政策を、
「赤字バスを残すか、廃止するか」
という議論から卒業させるべきです。
大型バスが必要なら残す。
DRTの方が合理的なら変える。
タクシーが適している人にはタクシーを使う。
地域に空いている車両があるなら共有する。
将来は自動運転も使う。
重要なのは交通手段ではありません。
人が移動できることです。
病院へ行ける。
買い物へ行ける。
学校へ行ける。
仕事へ行ける。
友人に会える。
地域活動へ参加できる。
それは単なる「交通サービス」ではありません。
暮らし続けるための社会インフラです。
2035年。
「バス停まで歩いて時刻表を待つ社会」から、
必要な時に、
必要な大きさの車が、
必要な人のところへ来る社会へ。
そして、
高齢になって車を運転できなくなっても、
障害があっても、
地方に住んでいても、
移動できる限り、その地域で暮らし続けられる。
それが、
2035 日本の「移動」再設計
です。
読者への問い
もしあなたが80歳になり、
車の運転をやめた時。
スーパーまで4km。
病院まで12km。
最寄りのバス停まで800m。
バスは1日3本。
だったら、
その町に暮らし続けられるでしょうか。
逆に、
電話一本で小型車が迎えに来る。
病院へ行ける。
帰りにスーパーへ寄れる。
必要なら玄関近くまで送ってくれる。
そんな交通があれば、
生活は大きく変わるはずです。
人口減少時代に、
すべての道路へバスを走らせ続ける必要はありません。
しかし、
すべての人に「移動する方法」を残す。
そこには国家として投資する価値があるのではないでしょうか。
参考資料
英国政府「Demand Responsive Transport」
英国政府「A Better Deal for Bus Users」
ニュージーランド運輸省「Total Mobility Scheme」
※「Mobility Guarantee」「30-Minute Living Access」「AI Community Mobility」「Density Based Mobility」「Mobility Pool」「Mobility Credit」「Mobility Social ROI」「Rural First Autonomous」「Mobility Supporter」「Regional Mobility Authority」「Yaeyama Mobility Sandbox」は、国内外の既存制度・実証を参考にJapan Compassとして体系化した政策構想です。実装には道路運送法、運転者資格、保険、事故責任、個人情報保護、自治体間財政負担、交通事業者との競争条件、自動運転制度等について詳細な検証が必要です。

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