薬が足りないとき、誰にどう優先して届けるのか
――供給不足を「薬局が探し回る問題」にせず、在庫・代替薬・生産能力をつなぐ
2026年9月26日|2035日本再設計プロジェクト|医療・医薬品安定供給編
病院へ行く。
診察を受ける。
医師が薬を処方する。
薬局へ処方箋を持っていく。
私たちは、その先に薬があることを、ほとんど当然だと思っています。
しかし、
処方箋は出せても、
薬がない。
いつ入荷するか分からない。
別の薬局を探す。
医師に処方変更を相談する。
卸にも在庫が少ない。
メーカーは限定出荷している。
別メーカーの商品へ注文が集中し、そちらまで品薄になる。
こうしたことが、現在の日本では珍しい話ではありません。
厚生労働省が公表した最新の2026年8月実績では、医療用医薬品のうち、製造販売業者が「限定出荷」または「供給停止」としているものは合計**1,855品目、12%**でした。
通常出荷は**13,713品目、88%**です。
内訳を見ると、供給停止は889品目、限定出荷は966品目。限定出荷品の63%、供給停止品の58%を後発医薬品が占めています。厚生労働省
ただし、ここは慎重に読まなければなりません。
「12%」という数字は、
12%の患者が薬を受け取れていない、
という意味ではありません。
限定出荷には、医療現場へ一定量は供給されている商品も含まれます。
同じ成分の別メーカー品。
別規格。
代替可能な薬。
が利用できる場合もあります。
それでも、
医薬品の約8品目に1品目が通常通りの供給状態ではない。
という事実は、医療インフラとして軽視できません。
今日のJapan Compassは、
薬が足りない時、医療機関や薬局が個別に探し回るのではなく、国全体で「どこに、どれだけあり、誰に優先すべきか」を判断できる仕組みにできないか
を考えます。
Executive Summary
最初に結論です。
日本にはすでに、
医薬品の供給不足を把握する仕組みがあります。
製造販売業者には、限定出荷や供給停止などを厚生労働省へ報告する制度があり、その情報は日々更新・公開されています。
月ごとの供給状況も公表されています。厚生労働省
2025年の薬機法等改正では、さらに、
供給体制管理責任者。
供給状況の届出。
供給不足時の増産等の協力要請。
重要な医薬品の平時モニタリング。
電子処方箋管理サービスのデータを活用した需給把握。
などを含む安定供給体制の強化が法定化されました。
制度は段階的に施行されており、2027年5月施行分についても政令・省令がすでに整備されています。厚生労働省
また2025年11月からは、
「供給確保医薬品」
「重要供給確保医薬品」
を指定し、安定供給を重点的に確保する制度も始まっています。厚生労働省
さらに後発医薬品については、
「少量多品目生産」による生産効率低下などを改善するため、
後発医薬品製造基盤整備基金
が設けられ、品目統合、事業再編、設備投資などへの支援も始まっています。2026年度の公募は7月27日から9月14日まで行われました。厚生労働省
つまり、
今回も問題は、
「日本には制度がない」ことではありません。
むしろ、
制度はかなり整い始めています。
次の課題は、
報告された供給情報を、実際の医療現場で「必要なところへ薬を動かす能力」に変えられるか
です。
Japan Compassでは、
既存制度を土台に、
重要薬の需給を全国で把握し、代替困難性や治療中断リスクに応じて不足段階を判定し、必要なら地域間で再配分する「医薬品供給の運用体制」
を整えることを提案します。
新しい巨大組織を作るのではありません。
いま持っている情報を、
「公表する情報」から「供給を動かす情報」へ変える。
そこが今日の提言です。
1|日本の医薬品不足は、まだ解消したとは言えない
厚生労働省は現在、
製造販売業者から提出される供給状況報告を基に、
医療用医薬品の供給情報を毎日更新しています。
さらに、
限定出荷。
供給停止。
の状況を月次で集計しています。厚生労働省
最新の2026年8月実績では、
通常出荷88%。
限定出荷6%程度。
供給停止6%。
合計1,855品目が限定出荷または供給停止です。厚生労働省
このうち限定出荷966品目について、
「自社の事情」によるものが482品目。
「他社品の影響」によるものが413品目。
その他が71品目でした。
ここで注目したいのは、
他社の供給不足が、別会社の商品へ波及していることです。
あるメーカーが供給を止める。
病院や薬局が同じ成分の別会社製品へ切り替える。
注文が集中する。
その会社も通常供給できなくなる。
こうして不足が連鎖します。
薬の供給は、
一社だけを見ても分かりません。
同じ成分、代替薬、メーカー、生産能力、在庫を一つの市場として見る必要があります。
2|なぜ薬が足りなくなるのか
供給不足には、
一つの原因だけがあるわけではありません。
厚生労働省の8月データでも、
原材料調達。
製造トラブル。
品質トラブル。
需要増。
他社製品の供給不足。
など複数の要因が示されています。厚生労働省
例えば、
一つの工場で品質問題が起きる。
製造を止める。
同じ成分を作っている他社へ注文が集中する。
その会社の生産能力を超える。
限定出荷になる。
という流れがあります。
また、
感染症が流行すれば、
抗菌薬。
解熱鎮痛薬。
鎮咳薬。
などの需要が短期間で増えます。
一方で医薬品は、
需要が増えたからといって、
翌日に生産量を倍にできる商品ではありません。
原薬。
製造ライン。
品質検査。
包装。
出荷判定。
などの工程があります。
「不足したら作ればいい」
では間に合わないのです。
3|後発医薬品には「安く作る」だけでは解決できない構造問題がある
今回の供給データでは、
限定出荷品の63%。
供給停止品の58%。
が後発医薬品です。厚生労働省
ここには、
後発医薬品産業の構造問題があります。
厚生労働省は2025年改正法の資料で、
供給不足の課題の一つとして、
「少量多品目生産」による生産効率の低下
を明記しています。
数多くの会社が、
非常に多くの品目を、
少量ずつ生産する。
その結果、
製造ラインの切替。
洗浄。
品質管理。
原材料管理。
包装。
などの負担が増えます。
そこで国は、
後発医薬品製造基盤整備基金を作り、
品目統合。
企業間連携。
事業再編。
生産性向上設備。
などを支援する方向へ進んでいます。厚生労働省
この方向性は妥当だと思います。
ただし、
企業を統合すれば自動的に供給が安定する、
とも限りません。
企業数や生産拠点を減らし過ぎれば、
今度は一つの工場停止の影響が大きくなる可能性があります。
必要なのは、
効率化と冗長性のバランス
です。
4|「最も安い薬」が「最も強い供給網」とは限らない
医薬品は医療費の一部です。
当然、
価格を抑えることは重要です。
患者負担。
保険料。
税。
すべてにつながります。
しかし、
価格だけを下げ続ければ、
製造設備への投資。
品質管理。
複数原薬調達。
予備生産能力。
工場の冗長化。
在庫。
を維持する余力が減る可能性があります。
これは、
「薬価を一律に上げればよい」
という話ではありません。
高く買えば供給が安定する、
という単純な関係でもありません。
大切なのは、
何にお金を払うのかを変えることです。
安いだけではなく、
複数の原材料調達先がある。
国内または複数地域で生産できる。
予備ラインを持つ。
品質問題が起きても代替生産できる。
一定の供給実績がある。
そうした
「供給の強さ」
も価値として評価する。
という考え方です。
5|日本はすでに「報告を集める段階」から先へ進み始めている
ここは今回、既存政策とJapan Compassの提案を混同しないために整理します。
現在すでに、
製造販売業者には供給状況報告があります。
厚生労働省はその情報を毎日公表しています。厚生労働省
2025年には、
「医療用医薬品の供給問題への対応に係る行動計画」
も策定されました。厚生労働省
そして2025年の薬機法等改正では、
製造販売業者の安定供給体制。
供給不足の報告。
増産等への協力要請。
重要医薬品の指定と平時モニタリング。
電子処方箋管理サービスの調剤データを使った需給把握。
まで法制度に組み込まれました。厚生労働省
ですから、
「メーカーに報告させよう」
「重要な薬を指定しよう」
「電子処方箋データを使おう」
というだけでは、
Japan Compassの新提案にはなりません。
それは、すでに国が進めています。
6|残っている問題は「情報がある」と「薬が動く」の間
ここからが今回の中心です。
国が、
「Aという薬は限定出荷です」
と把握できたとします。
しかし医療現場が本当に知りたいのは、
それだけではありません。
自分の地域に、
あと何日分あるのか。
他院にはあるのか。
同成分の別メーカー品はあるのか。
代替薬はどれか。
代替薬側の在庫は十分なのか。
いつ通常出荷へ戻るのか。
全国の需要は増えているのか。
です。
メーカーの出荷情報と、
卸の在庫。
病院・薬局の在庫。
処方・調剤量。
代替薬。
をつなげなければ、
「不足していることは分かるが、どう動かせばいいか分からない」
という状態になります。
ここが次の政策課題です。
7|「在庫を全部国へ報告」すればよいわけでもない
では、
全国すべての病院や薬局に、
全薬品の在庫を毎日報告させればよいでしょうか。
私は、そうは思いません。
数万品目。
数万の医療機関。
薬局。
卸。
を対象に、
正確な在庫を常時報告させれば、
巨大な事務負担になります。
在庫は刻々と変わります。
返品。
予約分。
院内使用予定。
発注済み未入荷。
などもあります。
さらに、
企業の在庫や生産能力には営業上の機密があります。
だから、
すべてを常時中央管理するのではなく、
重要度と不足段階によって、必要な情報量を変える
べきです。
平時は、
メーカーの供給情報と需要動向を監視。
不足の兆候が出たら、
卸の地域在庫を集計。
重大な不足になったら、
対象品目だけ医療機関・薬局の在庫も集約。
という段階方式です。
8|「誰に優先するか」を不足が起きてから考えない
薬が十分ある時は、
通常の流通でよい。
しかし、
全国で必要量100に対して、
供給が60しかない。
という事態になれば、
どこかへ優先的に届けなければなりません。
ここで最も危険なのは、
早い者勝ち
です。
大量に発注できる大病院。
情報が早い医療機関。
在庫を多く持てる施設。
が先に確保し、
地方の小さな病院や薬局へ届かなくなる。
これは医療として適切ではありません。
一方で、
国が個々の患者を見て、
「あなたには薬を出す、あなたには出さない」
と決めるべきでもありません。
患者ごとの治療判断は、
医師・薬剤師など専門職の責任です。
行政が事前に決めるべきなのは、
個人の順位ではなく、
供給を配分する原則
です。
代替薬がほとんどない。
治療中断による健康影響が大きい。
救急・集中治療など時間的猶予が少ない。
特定の医療機関に患者が集中している。
こうした条件を、
専門家と行政が品目ごとに事前整理する。
その上で卸が、
実際の使用量や患者需要に応じて配分する。
という形が現実的です。
9|「重要な薬」は、すでに日本が分類を始めている
ここでも、新しいリストを作る必要はありません。
2025年11月から、
厚生労働大臣が、
疾患の重篤性。
代替薬の有無。
などを踏まえ、
供給確保医薬品
と、
その中でも特に重要な
重要供給確保医薬品
を指定する制度が動いています。厚生労働省
Japan Compassの提案は、
この既存分類を、
単なる指定で終わらせず、
実際の供給運用の優先順位につなげることです。
重要供給確保医薬品なら、
平時から供給力を詳しく監視する。
不足の兆候があれば、
早い段階で代替薬の供給余力を確認する。
危機段階なら、
卸・医療機関を含む地域在庫を把握する。
というように、
品目の重要度に応じて対応を変えます。
海外事例|EUは「不足の報告」から「国をまたぐ再配分」まで進めている
EUにも、
医薬品不足があります。
そこでEUでは、
European Shortages Monitoring Platform(ESMP)
という共通基盤が運用されています。
製薬企業や各国当局から、
供給。
需要。
利用可能量。
などの情報を集め、
医薬品不足の監視や危機対応に使います。
2025年2月2日から、対象となる製造販売承認保有者と各国当局にESMPの利用が義務化されています。European Medicines Agency (EMA)
さらに興味深いのが、
Voluntary Solidarity Mechanism
です。
あるEU加盟国で重大な薬不足が起こり、
国内の対応では解消できない場合、
他の加盟国へ在庫支援を求める仕組みです。
EMAによると、
2025年には6件の手続きが開始され、
すべてのケースで少なくとも一つの加盟国が支援を提供しました。European Medicines Agency (EMA)
つまり、
「フランスに薬が余っている。
別の国では足りない」
という時に、
国境を越えて動かす仕組みがあります。
日本は一つの国です。
EUより制度的には動かしやすいはずです。
それでも、
都道府県。
卸の営業圏。
医療機関。
薬局。
の間で在庫が偏る可能性があります。
ならば日本でも、
不足地域へ在庫を再配分する運用
を、もっと明確にしてよいと思います。
10|EUは「安さだけではなく供給力を見る」方向へ進んでいる
EUでは現在、
Critical Medicines Actの制度整備も進んでいます。
2026年5月12日には、
EU理事会と欧州議会が暫定合意に達しました。
ここは重要です。
2026年9月26日時点では、
まだ最終的な正式採択を終えた法律として扱うべきではありません。
暫定合意段階です。
その内容には、
重要医薬品の公共調達で、
価格だけではなく
供給網のレジリエンス
を評価すること。
複数国による共同調達。
緊急在庫に関する情報共有。
必要な場合の医薬品再配分。
などが含まれています。欧州理事会
これは日本にとっても参考になります。
医薬品を、
「最も安く買える会社」
だけで評価するのではなく、
「止まらず届けられる会社」も評価する
という発想です。
賛成論|供給を全国でつなぐメリット
第一は、
患者が薬局を探し回る負担を減らせます。
患者が、
「ここにはありません」
と言われ、
別の薬局へ電話する。
病院へ戻って処方変更してもらう。
という負担をできるだけ減らすべきです。
第二は、
医療従事者の時間を守れます。
薬剤師が、
卸へ何度も電話する。
メーカーを調べる。
医師へ代替薬を相談する。
こうした作業も人手を使います。
#012や#043で扱った医療人材不足を考えても、
本来の医療以外の調整作業を減らす意味は大きい。
第三は、
過剰発注を防ぎやすくなります。
「来月なくなるかもしれない」
という不安が広がると、
各施設が通常より多く発注する可能性があります。
それがさらに不足を悪化させることがあります。
全国の需給がある程度見えれば、
必要以上の在庫確保を抑えやすくなります。
第四は、
国が増産要請を出すタイミングを早められます。
メーカーの出荷報告だけでなく、
調剤量や代替薬への需要移動まで見れば、
不足が深刻化する前に対応できます。
慎重論|「見える化」には副作用もある
一方で、
情報を集めれば集めるほど良い、
という話でもありません。
第一に、
営業秘密があります。
メーカーの生産量。
工場能力。
卸の在庫。
取引数量。
は企業情報です。
すべてを公開すれば、
競争上の問題が出ます。
したがって、
行政には詳細情報。
医療機関には必要な供給情報。
一般公開は不足状況や見通し。
と、情報の粒度を分ける必要があります。
第二に、
在庫を公開すると買い占めを誘発する可能性があります。
「この地域に残り1週間分」
と詳細に公表すれば、
注文が集中するかもしれません。
第三に、
備蓄には廃棄があります。
薬には使用期限があります。
全国すべての薬を大量に備蓄すれば、
期限切れによる廃棄が増えます。
だから備蓄は、
すべての医薬品ではなく、
代替困難で供給途絶の影響が大きい一部の重要薬へ絞るべきです。
第四に、
余裕ある生産能力には費用がかかります。
工場のラインを100%稼働させた方が、
短期的には効率的です。
しかし事故や需要急増に備え、
予備能力を持てばコストが上がります。
医療安全保障では、
その「使っていない能力」に誰が支払うのかも決める必要があります。
Japan Compass政策提案
「薬の不足情報」を「薬を動かす仕組み」へ変える
Japan Compassでは、
新しい巨大データベースや新組織を一から作ることは提案しません。
すでに日本には、
供給状況報告。
供給確保医薬品。
重要供給確保医薬品。
電子処方箋管理サービス。
後発医薬品製造基盤整備基金。
があります。
これらをつなぎます。
不足への対応を、次の4段階で運用します。
| 段階 | 状態 | 主な対応 |
|---|---|---|
| 平時 | 通常供給 | 重要薬の生産・供給・需要を継続監視 |
| 注意 | 一部メーカーで供給低下 | 代替薬・他社能力・原薬状況を確認 |
| 不足 | 複数社・複数地域で不足 | 卸在庫・地域需要を集約し再配分 |
| 重大不足 | 代替困難・生命健康への重大影響 | 増産・予備在庫・地域間融通・適正使用を一体実施 |
ポイントは、
患者個人を国が順位付けしないこと。
行政は、
どの薬がどれほど重要か。
どの地域で供給不足が起きているか。
どこへ在庫を再配置するか。
を判断する。
個々の患者へどの薬を使うかは、
医療専門職が判断します。
11|電子処方箋は「需要を早く知るセンサー」に使う
2025年改正法の資料では、
電子処方箋管理サービスの調剤データ等を活用し、
需給状況をモニタリングする方針が明記されています。厚生労働省
これは非常に重要です。
メーカーの出荷情報は、
供給側の情報です。
一方、
処方・調剤データは、
需要側の情報です。
例えば、
ある抗菌薬の調剤量が急増している。
その代替薬も増えている。
メーカーAが限定出荷になった後、
メーカーBへの需要が急増した。
こうした変化を早く捉えられれば、
B社が限定出荷になる前に増産を相談できます。
ただし、
ここで必要なのは、
「誰が何の病気で薬を飲んでいるか」
という個人情報ではありません。
需給管理に必要なのは、
品目。
地域。
数量。
時間。
を中心とした集計データです。
個人情報を最小化することを前提にすべきです。
12|備蓄より先に「どこにあるか」を知る
薬不足が話題になると、
「国がもっと備蓄すべきだ」
という議論になりがちです。
しかし、
備蓄を増やす前にやるべきことがあります。
現在ある薬が、どこに偏っているかを知ることです。
東京では3か月分ある。
地方では5日分しかない。
という状態なら、
新しく生産するより先に、
移動させた方が早い場合があります。
まず再配分。
次に代替薬。
次に増産。
それでもリスクが高い薬について、
戦略的備蓄や予備生産能力を持つ。
この順序が必要です。
備蓄は、
安心感のために持つものではありません。
代替手段がないリスクに対して持つものです。
13|薬価や公共調達にも「供給の強さ」を反映できないか
これはJapan Compassとして、
今後さらに制度検証が必要な提案です。
重要な医薬品について、
供給安定性の高い会社が報われる仕組みを検討します。
例えば、
複数原薬調達。
複数工場。
予備生産能力。
長期的な供給実績。
設備更新。
品質管理体制。
不足時の増産能力。
などを評価する。
ただし、
「国内生産だから高く買う」
と単純化してはいけません。
国内工場一か所に集中すれば、
災害や事故には弱くなります。
海外でも複数拠点があれば、
強い供給網になります。
評価するべきなのは、
国籍ではなく、供給停止に耐えられる構造
です。
EUで進んでいる「価格だけではなくレジリエンスも調達基準にする」という考え方は、日本でも検討に値します。欧州理事会
財源・実施主体・制約
主な実施主体は、
厚生労働省。
PMDAなど薬事関係機関。
国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所。
製薬企業。
医薬品卸。
病院。
診療所。
薬局。
都道府県。
そして電子処方箋管理サービスなどの医療情報基盤です。
後発医薬品の生産構造改革については、
すでに後発医薬品製造基盤整備基金があります。
2026年度公募も実施済みです。したがって、これを新しい財源として提案するものではありません。厚生労働省
追加的に費用が必要になるのは、
重要薬の需給データ連携。
卸・医療機関側のシステム対応。
不足時の緊急輸送。
限定的な備蓄。
予備生産能力を確保する契約。
などです。
現時点で、
日本全国の医薬品不足対策を一体化した場合の総費用について、
今回確認した公表資料から信頼できる単一の試算は確認できませんでした。
したがって、
「○兆円必要」
とは書きません。
まず重要供給確保医薬品の一部を対象に実証し、
システム整備費。
廃棄削減額。
医療機関・薬局の調整時間削減。
欠品期間。
緊急購入費。
などを測定する。
その結果を見て拡大するべきです。
また、
在庫情報や生産能力を複数企業間で扱う以上、
独占禁止法。
営業秘密。
サイバーセキュリティ。
にも十分な配慮が必要です。
「安定供給」という目的で、
企業間の価格調整や不適切な市場分割が正当化されるわけではありません。
2035ロードマップ
2026~2027年|まず既存制度を完全に動かす
2025年改正薬機法等の安定供給関連制度を予定通り施行し、
供給確保医薬品。
重要供給確保医薬品。
供給状況報告。
電子処方箋データ。
の関係を整理します。
2027年5月施行分についても、政省令はすでに整備が進んでいます。厚生労働省
この段階では、
新しい制度を増やすより、
「誰が何の情報を持つか」
を統一します。
2027~2029年|重要薬から需給の通し試験を行う
対象を数十~数百の重要薬に絞り、
メーカーの供給。
卸の地域在庫。
電子処方箋等から見た需要。
代替薬。
を接続します。
実際の不足を待たず、
「工場が1か月停止した」
「需要が30%増えた」
などの想定で、
どこが最初に不足するかを訓練します。
2029~2031年|地域間再配分を標準化する
不足が起きた時、
都道府県や卸ごとにバラバラに調整するのではなく、
全国で統一した最低限の配分原則を作ります。
過去の使用量。
実患者数。
代替可能性。
緊急性。
などを基準に、
過剰在庫を抑え、
不足地域へ動かせるようにします。
2031~2033年|供給レジリエンスを経済評価へ
重要薬について、
価格だけでなく、
複数調達。
複数生産拠点。
予備能力。
品質。
安定供給実績。
を評価する制度を検証します。
薬価。
医療機関の調達。
国の契約。
のどこに反映するのが最も適切かを比較します。
2033~2035年|「薬がある医療」を社会インフラとして完成させる
2035年には、
供給不足が起きても、
患者が複数の薬局を探し回ることを前提にしない。
医療機関も、
毎回ゼロからメーカーや卸へ電話しない。
国は、
全国の需給を把握し、
必要なら代替。
再配分。
増産。
備蓄放出。
を段階的に実行する。
そして不足が解消した後、
原因。
対応速度。
欠品期間。
再配分結果。
を検証する。
医薬品の安定供給を、
企業の努力だけではなく、
医療インフラの能力
として管理します。
2035日本再設計白書での位置付け
今回の#055は、
第八部「医療」
に位置付けます。
#012では、
医療・介護を支える人材。
#030では、
病院や医療提供体制。
#043では、
地域で救急・外来・在宅医療へアクセスできる仕組み。
を扱いました。
しかし、
医師がいても、
病院があっても、
薬がなければ治療はできません。
今回初めて独立して見るのは、
「医療サービスを提供する場所」ではなく、「治療に必要な物資を切らさない仕組み」
です。
これは医療政策であると同時に、
産業政策。
物流政策。
データ政策。
経済安全保障。
にもつながる横断課題です。
ただし主所属は、
患者への治療継続を目的とするため、
第八部「医療」とします。
今日の提言
薬がない。
と言われた患者に、
「ほかの薬局を探してください」
とお願いする。
薬剤師が、
何社もの卸へ電話する。
医師が、
本来は変える必要のなかった処方を変更する。
別メーカーへ注文が集中し、
その会社も限定出荷になる。
これを、
個々の医療機関や薬局の努力だけで解決し続けるのは、
限界があります。
一方で、
日本はもう、
何もしていない国ではありません。
供給状況報告があります。
毎日の情報公開があります。
重要薬の指定があります。
電子処方箋データの活用も法律に入りました。
後発医薬品の生産構造を変える基金もあります。
だから次に必要なのは、
新しい制度の名前を増やすことではありません。
今ある制度をつないで、実際に薬を動かせるようにすること。
だと思います。
どこで不足が始まっているのか。
代替薬はあるのか。
どの地域に残っているのか。
増産には何週間かかるのか。
本当に代替できない患者はどれくらいいるのか。
そこまで分かれば、
不足は、
「突然起きる事故」
から、
早期に対応できる供給リスク
へ変わります。
そしてもう一つ。
日本はこれまで、
医薬品を
「いくらで買うか」
については非常に精密に考えてきました。
これからは、
「必要な時に届くか」
にも、
同じくらい価値を置くべきではないでしょうか。
安いこと。
品質が高いこと。
そして、
途切れず供給できること。
この三つを同時に成立させる。
それが、
2035年の医療を支える薬のインフラだと思います。
読者への問い
あなたが毎日飲んでいる薬を、
薬局で突然、
「次回入荷は分かりません」
と言われたら、
どう感じるでしょうか。
別の薬局を探しますか。
薬を変えますか。
少しずつ使いますか。
それとも、
国や医療機関が何とかしてくれると思うでしょうか。
そして、
全国で100人分しかない薬を、
必要とする患者が150人いるとしたら、
何を基準に配るべきでしょう。
早く注文した人。
大きな病院。
人口の多い地域。
それとも、
代替薬がなく、
治療を止めた時の影響が最も大きい患者。
これは、
単なる物流問題ではありません。
限られた医療資源を、公平にどう届けるか
という問題です。
薬が不足して初めて考えるのではなく、
薬がある平時にルールを作っておく。
そこまで含めて、
医療の備えではないでしょうか。
データ出典・参考資料
厚生労働省「医薬品等の供給不安への対応について」
製造販売業者からの供給状況報告、日々の情報更新、限定出荷・供給停止の月次集計、2025年9月の「医療用医薬品の供給問題への対応に係る行動計画」などを確認。
医薬品等の供給不安への対応について|厚生労働省
厚生労働省「医薬品供給にかかる調査結果」
2026年9月26日時点の最新公表値が2026年8月実績であることを確認。
医薬品供給にかかる調査結果|厚生労働省
厚生労働省「製造販売業者の対応状況―医薬品全体(2026年8月分)」
限定出荷・供給停止1,855品目、12%、通常出荷13,713品目、88%。供給停止889品目、限定出荷966品目。カテゴリー別・原因別内訳を確認。
2026年8月 医薬品供給状況概要|厚生労働省
厚生労働省「令和7年の薬機法等の一部改正」
令和7年法律第37号による医療用医薬品の安定供給体制強化、段階的施行、供給確保医薬品・重要供給確保医薬品の指定、2027年5月施行分の政省令整備を確認。
令和7年の薬機法等の一部改正|厚生労働省
厚生労働省「薬機法等改正概要」
供給体制管理責任者、供給状況報告、増産等の協力要請、重要薬の平時モニタリング、電子処方箋管理サービスの調剤データ等による需給モニタリング、後発医薬品製造基盤整備基金を確認。
令和7年法律第37号 概要資料|厚生労働省
厚生労働省「後発医薬品製造基盤整備基金」
品目統合・事業再編・生産性向上等を支援する既存基金と、2026年度公募期間が2026年7月27日~9月14日だったことを確認。
後発医薬品製造基盤整備基金|厚生労働省
European Medicines Agency「European Shortages Monitoring Platform」
医薬品の供給・需要・利用可能性を集約するESMPと、2025年2月2日からの報告義務化を確認。
European Shortages Monitoring Platform|EMA
European Medicines Agency「Medicine shortages – Annual Report 2025」
2025年に70件の重大不足通知、6件のVoluntary Solidarity Mechanismが発動され、すべてで少なくとも1か国から支援があったことを確認。
Medicine shortages|EMA Annual Report 2025
Council of the European Union「Critical medicines act: Council and Parliament reach provisional deal」
2026年5月12日の暫定合意。公共調達での供給レジリエンス要件、共同調達、緊急在庫情報、任意の医薬品再配分などを確認。正式採択前の暫定合意である点も確認。
Critical Medicines Act provisional agreement|Council of the EU
※本稿は2026年9月26日時点で公表されている資料を基にしています。「限定出荷・供給停止12%」は製造販売業者の供給状況を品目単位で集計したものであり、患者の12%が薬を入手できないことを意味しません。また、供給状況報告、供給確保医薬品・重要供給確保医薬品、電子処方箋データを活用した需給モニタリング、後発医薬品製造基盤整備基金などは既存または決定済みの政府制度です。Japan Compass独自の提案部分は、それらを運用上接続し、重要薬について不足段階ごとに需要・在庫・代替可能性を把握し、地域間再配分、公平な供給原則、供給レジリエンスを評価する調達・価格制度、限定的な備蓄・予備生産能力まで一体で検証することです。

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