Japan Compass#061

日本は、戦略技術への重点支援を含む2026年度の税制改正を実施し、AI、量子、半導体などの研究開発を強化する方針を打ち出しています。これは国家戦略上、重要とされる技術分野を選定し、より強い税制支援を行うものです。しかし、その選定基準や検証方法に関する懸念も示されています。政府が技術を選ぶことが適切か、選択を見直す仕組みの必要性が強調されています。この政策の成功には、企業や大学との連携強化や成果の測定が求められています。

国が「戦略技術」を選ぶ税制は、産業競争力につながるか

――AI・量子・半導体などへの重点支援を、どう評価するか

2026年10月2日|2035日本再設計プロジェクト|産業競争力・科学技術・税制編

日本は、研究開発をしていない国ではありません。

総務省の科学技術研究調査によると、2024年度の日本の科学技術研究費は23兆7,925億円。前年度より7.9%増え、4年連続で増加しました。総務省統計局

それでも、

AI。

量子。

半導体。

バイオ。

宇宙。

フュージョンエネルギー。

といった次世代技術をめぐる競争では、米国、中国、欧州、韓国などが政府支援を強めています。

研究開発費の総額を増やすだけではなく、

どの技術に、どのタイミングで、どの政策手段を使って資金を振り向けるか。

そこまで政府が踏み込む時代になっています。

日本も2026年度税制改正で、大きく方向を変えました。

従来の研究開発税制に加えて、

「戦略技術領域型」

を新設したのです。

対象となる重点産業技術は、

AI・先端ロボット。

量子。

半導体・通信。

バイオ・ヘルスケア。

フュージョンエネルギー。

宇宙。

政府が国家戦略上重要と考える技術分野を選び、その研究開発へ通常より強い税制支援を行う仕組みです。財務省

これは単なる「研究開発支援の拡充」ではありません。

一歩踏み込めば、

国が「これから重要になる技術」を選ぶ政策

です。

果たして、

国は未来の技術を正しく選べるのでしょうか。

そして、

選んだ技術へ大きな税優遇を与えることは、

日本の産業競争力を本当に高めるのでしょうか。

今日のJapan Compassでは、

この一点を考えます。


Executive Summary

先に結論です。

私は、

戦略技術への重点支援そのものには合理性がある

と考えます。

AI、量子、半導体、宇宙、核融合のような分野は、研究期間が長い。

設備投資も大きい。

失敗確率も高い。

企業一社だけでは回収できない知識や人材が社会全体へ波及する。

安全保障や供給網にも関係する。

こうした分野では、

市場だけに任せると社会全体として必要な研究開発量を下回る可能性があります。

だから、

政府が重点領域を設定すること自体は、

直ちに「官製産業政策だから悪い」とは言えません。

しかし、

最大の問題はその次です。

誰が、何を基準に、その技術を選ぶのか。

そして、

いつ、その選択が正しかったかを検証するのか。

2026年度税制改正では、「戦略技術領域型」の対象研究について、試験研究費の40%、認定された研究開発機関との共同・委託研究なら**50%**を法人税額から控除できる設計になっています。控除額には法人税額の10%という上限があり、控除しきれない分には3年間の繰越制度も設けられています。財務省

これは、一般型の研究開発税制よりかなり強いインセンティブです。

財務省の増減収見込みでは、

「戦略技術領域型」の創設等だけを見ると、

平年度で約980億円の減収

を見込んでいます。

一方、一般型の見直しなどで約1,070億円の増収を見込み、研究開発税制の改正全体では平年度約90億円の増収という設計です。

ここでいう980億円は実績ではなく、税制改正時点の見込みです。財務省

だからこそ、

「重点分野を決めた」

「税額控除を用意した」

で終わってはいけません。

Japan Compassでは、

一般的な研究開発を広く支援する制度と、

国家戦略上の技術へ重点支援する制度を、

二層で維持する

ことを提案します。

その代わり、

戦略技術については、

指定する前に理由を明示する。

導入前の研究開発額を記録する。

税制によって増えた追加投資を測る。

大学との共同研究を測る。

国内研究人材が増えたかを見る。

研究成果が事業化につながったかを見る。

そして、

必要性が薄れた技術は重点対象から外す。

つまり、

「選ぶ産業政策」には、「選び直す仕組み」が必要

だと考えます。


1|2026年、日本の研究開発税制は何が変わったのか

まず、

現在の制度を正確に整理します。

日本には以前から、

企業の研究開発費の一部を法人税から控除する

研究開発税制

があります。

今回ゼロから研究開発支援を作ったわけではありません。

2026年度税制改正で大きく変わったのは、

従来の広い研究開発支援に加え、

国が重要技術を指定して、

より大きなインセンティブを与える制度を設けたことです。

財務省は、

国家戦略として重要な技術領域への企業の研究開発を促すため、

「戦略技術領域型」を創設したと説明しています。財務省

経済産業省が示している制度設計では、

認定を受けた企業が重点産業技術を研究開発する場合、

試験研究費の40%。

さらに、

認定された大学や研究機関などとの共同・委託研究では50%。

という高率の税額控除を行います。経済産業省

つまり政府は、

単に、

「研究開発をしてください」

と言うだけではなく、

「この分野の研究開発を特に増やしたい」

という意思を税制で示したことになります。


2|ただし、2026年10月時点で「完全稼働済み」とは書かない

制度の状態にも注意が必要です。

研究開発税制の拡充そのものは、

2026年度税制改正に盛り込まれています。

一方、

重点産業技術の指定や企業の研究開発計画、研究機関の認定を制度化するため、

産業技術力強化法も改正されました。

改正法は2026年6月に国会で可決され、

6月19日に公布。

法律第41号となりました。

ただし施行日は、

「公布の日から1年を超えない範囲で政令で定める日」

とされています。参議院

今回、2026年10月2日時点で確認できた公表資料からは、

この改正法の具体的な施行日まで確認できませんでした。

したがって、

「すでに重点研究計画の認定が始まり、企業が40%・50%控除を利用している」

とは断定しません。

現在は、

制度の枠組みは決定済みだが、実際の利用実績を評価できる段階にはまだない

と整理するのが適切です。

これはむしろ重要です。

成果が出てから評価方法を考えるのではなく、

始まる前に何を測るか決められる

からです。


3|なぜ、普通の研究開発税制だけでは足りないのか

従来型の研究開発税制には、

大きな長所があります。

政府が、

「この技術が正しい」

と決めなくてよいことです。

製薬会社が新薬を研究する。

自動車会社が新しい素材を研究する。

ソフトウェア企業が新しいアルゴリズムを研究する。

企業自身が市場と技術を判断し、

条件を満たす研究開発費について税額控除を受ける。

いわば、

技術中立型

の支援です。

市場には、

政府には見えない情報があります。

どの技術が顧客に必要とされるか。

どの研究が実用化へ近いか。

どこに優秀な人材がいるか。

これを企業が判断できるのは大きな強みです。

しかし、

市場にも弱点があります。

研究成果の知識が他社へ広がる。

将来の市場がまだ存在しない。

設備が巨大すぎる。

研究期間が長すぎる。

成功確率が低い。

利益が出るまで10年以上かかる。

国家安全保障上重要でも、民間だけでは採算が取れない。

こうした技術は、

社会全体では研究する価値があっても、

一企業から見れば投資しにくい。

だから、

重点支援という考え方が出てきます。


4|問題は「重点化」ではなく、「選び方」にある

例えば、

20年前に政府が、

「未来の産業はこれだ」

と技術を決めていたとして、

現在の生成AIの急拡大を正確に予測できたでしょうか。

あるいは、

現在有望に見える技術が、

10年後にも同じ形で重要とは限りません。

技術は融合します。

AIとロボット。

量子と通信。

バイオとAI。

宇宙と通信。

半導体とエネルギー。

カテゴリーそのものが変わっていきます。

そこで最も危険なのは、

一度「戦略技術」に選ばれた分野が、制度上そのまま居続けること

です。

研究者。

企業。

業界団体。

官庁。

予算。

税制。

が結び付くと、

制度には継続する力が生まれます。

これは悪意があるという話ではありません。

組織として自然に起こることです。

だからこそ、

「選定」だけでなく、

「退出」のルールが必要です。


5|もう一つの問題は、税額控除が全企業に同じように効くわけではないこと

税額控除には構造的な特徴があります。

利益が出て、

法人税を納めている企業ほど、

控除を使いやすい。

逆に、

まだ利益が出ていないスタートアップは、

研究開発を大量に行っていても、

控除できる法人税そのものが少ない場合があります。

今回の制度には繰越措置があるため、

将来利益が出た時に利用する余地はあります。

それでも、

今月の研究者の給与。

研究設備。

試作品。

臨床研究。

計算資源。

に必要な現金が、

今すぐ増えるわけではありません。

OECDも2026年の対日経済審査で、

研究開発税制と直接補助は補完関係にあり、

高リスク・高インパクトな初期段階の研究には競争的な直接支援が適していること、

また税額控除の設計では赤字企業への届き方が課題になり得ることを指摘しています。OECD

つまり、

戦略技術だから税率を高くすれば十分

ではありません。

技術の成熟段階によって、

政策手段を変える必要があります。


6|日本の研究開発費は、すでに過去最高である

ここも重要です。

日本の問題を、

単純に

「研究開発費が少ない」

と説明することはできません。

2024年度の研究費は23兆7,925億円で過去最高。

前年比7.9%増でした。総務省統計局

つまり、

今後の政策で問われるのは、

総額だけではありません。

どこに使われたか。

追加投資を本当に生んだか。

新しい企業が参入したか。

大学と企業がつながったか。

人材が育ったか。

研究から製品まで進んだか。

海外市場を取れたか。

という、

研究費の「質」と「接続」

です。

100億円の税優遇によって、

もともと企業が行う予定だった研究を支援しただけなら、

政策効果は小さい。

一方、

税制がなければ見送られていた研究が始まり、

そこから企業、大学、スタートアップが集まり、

新しい産業へつながったのであれば、

効果は大きい。

この違いを測らなければなりません。


7|約980億円の減収見込みを、どう考えるか

財務省は、

戦略技術領域型の創設等による平年度の税収減を、

約980億円と見込んでいます。

ただし、

一般型の研究開発税制の見直し等では約1,070億円の増収を見込んでおり、

研究開発税制の改正全体では、

平年度約90億円の増収見込みです。財務省

この構造は興味深いと思います。

つまり、

研究開発税制全体を単純に拡大するのではなく、

広く薄く支援する部分を見直しながら、重要分野へ厚くする

方向だからです。

これは、

財政制約のある日本では一つの合理的な考え方です。

ただし、

980億円という税収を使わない選択をする以上、

それは実質的には政策資源です。

補助金なら、

「980億円の予算」

と見えやすい。

税額控除では、

予算とは違う形で財政に影響します。

だから、

研究開発税制も、

「減税だから評価しなくてよい」

とはなりません。


海外事例①|米国は半導体を明確に「選んでいる」

米国にも、

戦略分野を明確に選んで税制支援する例があります。

CHIPS法に基づく

Advanced Manufacturing Investment Credit

です。

半導体や半導体製造装置の米国内製造設備を対象とする投資税額控除で、

IRSの2026年時点の案内では、

2026年以降に対象設備が稼働する場合、

一定の要件の下で適格投資の35%を控除する仕組みです。

さらに一定の場合には、

控除額を税金の支払いとの相殺だけではなく、

支払いとして受け取る選択肢も用意されています。内国歳入庁

これは研究開発税制とは異なり、

製造設備投資を対象とする制度です。

したがって、

日本の戦略技術領域型と単純比較はできません。

しかし、

国家安全保障や供給網上重要な技術について、

政府が分野を選び、通常より強い税制支援をする

という考え方では共通します。


海外事例②|英国は「広く支える制度」と赤字企業への支援を組み合わせる

一方、

英国の研究開発税制は別の方向も見せています。

2024年4月以降に始まる会計期間では、

多くの企業向け制度を統合した

merged R&D Expenditure Credit

が使われており、

研究開発支出に対するクレジット率は20%です。

さらに、

研究開発集約度が高い赤字中小企業には、

Enhanced R&D Intensive Support

があり、

一定の条件で支払可能な税額控除を利用できます。GOV.UK

ここから日本が参考にできるのは、

「どちらが正しいか」ではありません。

米国型のように、

国家戦略技術を狙って支援する方法。

英国のように、

幅広い企業R&Dを支えつつ、

赤字の研究開発企業にも届く仕組み。

政策目的によって、

税制の形が違うということです。


OECD全体でも、研究開発支援は税制へ大きく移っている

OECDによると、

2024年には、

企業研究開発への政府支援のうち、

60%を研究開発税制が占めました。

2004年は28%でした。

研究開発に対する税制支援は、

OECD全体でGDP比0.16%。

直接支援は0.10%でした。OECD

つまり、

研究開発税制は日本だけの特殊政策ではありません。

世界的に重要な産業政策手段になっています。

しかし同じOECDデータでは、

税制支援は、

赤字企業より利益が出ている企業の方が使いやすい傾向も示されています。OECD

ここでも、

税制だけに頼らない設計が必要になります。


賛成論|戦略技術へ重点化する意味はある

今回の制度には、

明確なメリットがあります。

第一に、

国の限られた政策資源を、

経済安全保障や将来市場の重要性が高い分野へ集中できます。

第二に、

企業が長期研究へ踏み出しやすくなります。

第三に、

共同研究をより高く支援することで、

企業の研究所だけに知識を閉じ込めず、

大学や研究機関との接続を促す可能性があります。

第四に、

国内に研究人材や研究設備が蓄積すれば、

一社の事業だけでなく、

周辺企業やスタートアップにも波及する可能性があります。

特に、

量子。

核融合。

半導体。

宇宙。

のように、

研究設備や人材育成に長期間を要する分野では、

政策の継続性には意味があります。


慎重論|「政府が未来を当てる」制度にしてはいけない

一方、

リスクもかなりあります。

最も大きいのは、

政府が技術選択を間違えることです。

二つ目は、

既存の大企業へ支援が集中することです。

三つ目は、

企業がもともと予定していた研究を、

制度対象へ付け替えるだけになることです。

四つ目は、

指定分野に入らない新技術への投資が相対的に不利になることです。

五つ目は、

「戦略技術に指定してほしい」

というロビー活動が強くなることです。

さらに、

海外委託研究については、

2026年度から税制対象額に制限が入り、

2026年度70%、2027年度60%、その後50%へ段階的に縮小する仕組みになっています。国内研究基盤を強化する狙いがありますが、国際共同研究を不必要に弱めないかは別途検証する必要があります。財務省

重要なのは、

「国内で研究すること」

と、

「海外と研究しないこと」

を混同しないことです。

先端科学ほど、

国際協力が必要な場合があります。


Japan Compass政策提案

「一般型」と「戦略型」を分け、戦略型には退出ルールを置く

Japan Compassは、

戦略技術領域型を廃止するべきだとは考えません。

また、

新たな研究開発税制をもう一つ作る提案でもありません。

現在の仕組みを使いながら、

運用を厳しくするべきだと考えます。

基本構造は、

層役割
一般型企業自身の技術判断を尊重し、幅広い研究開発を支援
戦略技術領域型市場だけでは投資不足になりやすく、国家的外部性が大きい技術を重点支援

この二つを混ぜないことが重要です。

戦略技術を指定する時は、

単に

「将来有望だから」

では弱い。

Japan Compassでは、

民間だけでは十分な研究投資が行われにくいこと、知識や人材の波及効果が大きいこと、将来市場が大きいこと、経済安全保障上の重要性があること、日本国内に研究・事業化能力を築けること

の五つを基本的な判断軸にすることを提案します。

全部を満たす必要はありません。

しかし、

何を根拠に選んだのかは公表する。

そこが重要です。


導入前に「ゼロ地点」を記録する

#060では、

政策を作る前から評価設計をしておく必要性を扱いました。

今回の制度こそ、

それが必要です。

重点技術ごとに、

制度利用前の民間研究開発額。

研究者数。

大学との共同研究額。

スタートアップ数。

特許・論文。

国内研究拠点。

事業化案件。

を可能な範囲で記録しておく。

そうしなければ、

5年後に研究開発費が増えていても、

税制の効果なのか、

世界的なAI・半導体ブームの結果なのか、

分からなくなります。

完全な因果関係を証明するのは難しい。

それでも、

比較の基準は作れます。


「税額控除を使った額」を成果にしない

最も避けたいKPIは、

「何社が制度を使ったか」

だけで成功とすることです。

100社利用した。

1,000億円控除した。

それは、

制度の利用実績です。

成果ではありません。

見るべきなのは、

制度がなければ行われなかった研究開発がどれだけ増えたか。

企業と大学の共同研究が増えたか。

新しい研究者を雇用したか。

研究成果から新製品・新サービスが生まれたか。

国内外で売上が生まれたか。

新しい企業が参入したか。

です。

税額控除額ではなく、追加的な研究と産業成果を測る。

ここを変えなければなりません。


赤字スタートアップは、税制だけで支えない

戦略技術では、

むしろスタートアップの方が、

既存産業を変える研究を行う場合があります。

しかし、

赤字企業にとって法人税額控除は使いにくい。

そこで、

税制だけを強くするのではなく、

既存の、

研究開発補助。

SBIR。

政府調達。

大学との共同研究。

公的研究設備。

融資・出資。

などを組み合わせます。

これは#050で扱った、

政府が新技術の「最初の顧客」になる仕組みとも接続します。

税制は、

利益が出る企業。

補助金は、

研究段階。

公共調達は、

実証から市場形成。

というように、

同じ技術でも段階によって手段を変える方が合理的です。

OECDも、研究開発税制と直接支援は補完的であり、高リスク・高インパクトな初期研究では競争的助成が有効だとしています。OECD


「選んだ技術を外す」ことを失敗にしない

産業政策では、

支援を始めるより、

やめる方が難しい。

だから、

最初から

「見直す前提」

にします。

ある技術の市場が民間だけで十分成長するようになった。

世界的競争力を確立した。

別の技術へ置き換わった。

日本に比較優位がなくなった。

社会的な必要性が低下した。

そう判断した場合、

重点支援から外す。

それを、

政策の失敗とは考えません。

むしろ、

役割を終えた政策を終了できることが、制度の成功

です。


財源・実施主体・制約

中心となる実施主体は、

経済産業省。

財務省。

国税庁。

文部科学省。

大学・国立研究開発法人。

そして研究開発を行う企業です。

国家全体の科学技術戦略との整合では、

内閣府・総合科学技術・イノベーション会議の役割も重要になります。

財源面では、

直接予算ではなく、

税収を減らす形の支援です。

財務省の試算では、

戦略技術領域型の創設等による平年度減収見込みは約980億円。

したがって、

この金額を、

単なる「減税」としてではなく、

研究開発政策へ投入する政策資源として評価する必要があります。財務省

制約は、

成果が出るまで時間がかかることです。

量子。

核融合。

新薬。

宇宙。

などは、

2~3年で売上に結び付かない場合があります。

だから、

短期売上だけで判断してはいけません。

一方、

「研究だから成果が出なくても仕方ない」

と永久に検証を免除するのも違います。

短期では、

研究開発投資。

人材。

共同研究。

設備。

中期では、

特許。

試作品。

実証。

事業化。

長期では、

売上。

輸出。

市場シェア。

生産性。

というように、

時間軸を分けて評価する必要があります。


2035ロードマップ

2026~2027年|制度開始前の基準値を固定する

重点産業技術ごとに、

企業研究開発費。

研究者。

産学共同研究。

新規参入企業。

事業化案件。

など、

現在取得できる基準値を整理します。

改正産業技術力強化法の施行と認定制度の運用開始後は、

認定件数だけでなく、

企業規模や共同研究の状況も匿名化・集計して把握します。

2027~2029年|「使われたか」ではなく「研究が増えたか」を見る

制度利用企業の研究開発費が、

過去の傾向と比べて本当に増えたか。

制度非利用企業や海外動向とも比較します。

同時に、

大企業だけへ偏っていないか。

大学や地方研究拠点へ研究資金が流れているか。

スタートアップが参加できているか。

を確認します。

2029~2031年|重点技術を選び直す

技術領域ごとに、

市場。

研究成果。

民間投資。

安全保障上の重要性。

国際競争。

を再評価します。

継続。

縮小。

対象技術変更。

一般型への移行。

を判断します。

「一度選んだ六分野だから継続する」

とはしません。

2031~2033年|税制・補助・調達を一体で評価する

研究開発税制。

補助金。

SBIR。

政府調達。

大学研究費。

政策金融。

それぞれを別々に評価するだけでは、

同じ企業・同じ技術へ支援が重なっているか分かりません。

技術領域単位で、

政府支援全体と成果を確認します。

2033~2035年|「重点分野」ではなく「重点化の仕組み」を残す

2035年に必要なのは、

2026年に選んだ六分野をそのまま守ることではありません。

技術は変わります。

市場も変わります。

国際情勢も変わります。

残すべきなのは、

重要技術を選び、支援し、検証し、必要なら入れ替える能力

です。

それが、

長期的な産業競争力につながると思います。


2035日本再設計白書での位置付け

今回の#061は、

第三部「経済」

に位置付けます。

#010では、

半導体・AIと経済安全保障を扱いました。

#046では、

大学研究者が研究時間を確保できるか。

#050では、

新技術を政府調達で市場へつなげられるか。

#056では、

博士人材を大学の外でも活かせるか。

そして#060では、

制度導入後に効果を評価し、

必要なら修正・終了できる行政について考えました。

今回の#061は、

それらを横につなぐ一つの重要な問いです。

国は、科学技術の方向まで選ぶべきなのか。

私は、

選ぶ場合があってよいと思います。

ただし、

研究者の自由な発想。

企業の市場判断。

基礎研究。

偶然生まれる技術。

を押しのけてはいけません。

重点政策は、

研究開発全体の代わりではありません。

広い研究基盤の上に置く、

限定的な加速装置です。


今日の提言

政府が産業を選ぶ。

この言葉には、

少し危険な響きがあります。

過去には、

国が成長産業を予測して、

外した例もあります。

一方で、

半導体。

AI。

量子。

宇宙。

核融合。

のような技術を、

「市場が必要なら勝手に育つだろう」

と放置できる時代でもありません。

他国が、

研究。

人材。

設備。

調達。

税制。

まで一体で支援しているからです。

だから私は、

今回の戦略技術領域型を、

方向として否定する必要はないと思います。

ただし、

条件があります。

「何を選んだか」以上に、「なぜ選び、いつ見直すか」を明確にすること。

そして、

税額控除を利用した企業数ではなく、

研究開発そのものが増えたか。

新しい人材が育ったか。

大学との共同研究が増えたか。

企業化できたか。

新しい市場を取れたか。

を追うことです。

国が未来を完全に予測することはできません。

でも、

未来へ賭ける場所を選ぶことはできます。

その時に必要なのは、

絶対に間違えない制度ではありません。

間違えた時に、選び直せる制度です。


読者への問い

もし、

国が年間約1,000億円規模の税収を使わず、

その代わり、

AI。

量子。

半導体。

バイオ。

核融合。

宇宙。

の研究を加速させるとしたら、

あなたは賛成でしょうか。

では、

その中から一つが、

5年後に期待ほど成長しなかったらどうでしょう。

支援を続けるのか。

やめるのか。

別の技術へ変えるのか。

そして、

その判断を誰がするのか。

技術政策で本当に難しいのは、

「未来の勝者を当てること」

ではないのかもしれません。

社会の変化を見ながら、賭ける場所を変え続けること。

それこそが、

2035年の日本に必要な産業政策なのではないでしょうか。


データ出典・参考資料

  • Japan Compass 公開サイト
    2026年10月2日朝の確認時点で、Japan Compass #060(2026年10月1日)が最新記事として掲載されていることを確認。
    Japan Compass
  • 総務省統計局「科学技術研究調査」
    2024年度の科学技術研究費は23兆7,925億円、前年比7.9%増、4年連続増加。調査対象は企業、非営利団体・公的機関、大学等。
    科学技術研究調査|総務省統計局
  • 財務省「令和8年度 税制改正(国税)等について」
    研究開発税制に「戦略技術領域型」を創設し、AI・先端ロボット、量子、半導体・通信、バイオ・ヘルスケア、フュージョンエネルギー、宇宙を重点産業技術として支援する制度設計、海外委託研究費の段階的制限等を確認。
    令和8年度 税制改正(国税)等について|財務省
  • 財務省「令和8年度税制改正の大綱の概要」
    戦略技術領域型の税額控除率40%、重点産業技術共同研究開発機関との共同・委託研究50%、法人税額10%の控除上限、3年間の繰越措置を確認。
    令和8年度税制改正の大綱の概要|財務省
  • 財務省「令和8年度税制改正の大綱・増減収見込額」
    戦略技術領域型の創設等による平年度減収見込み約980億円、一般型等の見直しによる増収約1,070億円、研究開発税制改正全体では平年度約90億円の増収見込みを確認。いずれも制度設計時点の見込み額。
    令和8年度税制改正 増減収見込額|財務省
  • 経済産業省「産業技術力強化法の一部を改正する法律案」
    重点産業技術、研究開発計画認定、研究機関認定、高率研究開発税制等の制度設計を確認。
    産業技術力強化法の一部を改正する法律案|経済産業省
  • 参議院「産業技術力強化法の一部を改正する法律案」
    2026年6月に国会で可決され、6月19日公布、法律第41号。施行は公布から1年以内の政令で定める日であることを確認。
    産業技術力強化法の一部を改正する法律案|参議院
  • OECD「Economic Surveys: Japan 2026」
    研究開発税制と直接支援の補完関係、赤字・資金制約企業への税額控除の届き方、高リスク・高インパクト研究における競争的直接助成の役割等を参照。
    OECD Economic Surveys: Japan 2026
  • OECD「Government support for business R&D approaches record highs」
    2024年にはOECDの企業R&D政府支援の60%を税制支援が占め、税制支援はGDP比0.16%、直接支援は0.10%。利益企業と赤字企業で税制支援の実効性に差があることも確認。
    Government support for business R&D|OECD
  • 米国内国歳入庁 IRS「Advanced Manufacturing Investment Credit」
    米国内の半導体・半導体製造装置向け設備投資を対象とする戦略的税制支援と、2026年以降の対象設備に対する35%の控除率、一定の場合のelective paymentを確認。研究開発税制とは異なる制度であることを区別して参照。
    Advanced Manufacturing Investment Credit|IRS
  • 英国政府「R&D tax relief」
    merged R&D Expenditure Creditの20%、赤字のR&D集約型中小企業向けEnhanced R&D Intensive Support等を確認。
    Research and Development tax relief|GOV.UK

※本稿は2026年10月2日時点で確認できる公表資料を基にしています。**「戦略技術領域型」はJapan Compassが考案した制度ではなく、2026年度税制改正で創設された既存の政策です。**また、改正産業技術力強化法は2026年6月19日に公布されていますが、今回確認できた公表資料から具体的な施行日は確認できなかったため、重点研究開発計画の認定・税額控除の利用が既に開始済みとは断定していません。

Japan Compass独自の提案部分は、一般型研究開発税制と戦略技術領域型を二層で維持した上で、戦略技術の指定理由を「民間の過少投資・知識波及・市場潜在性・経済安全保障・国内能力」の観点から明示し、制度開始前の基準値を固定、追加R&D・国内研究人材・産学連携・事業化等を追跡し、重点領域を継続・縮小・変更・終了できる退出ルールを設けることです。赤字スタートアップについては税額控除だけに依存せず、既存の補助金、SBIR、公共調達等との役割分担を行います。

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