Japan Compass#069

2026年には約束手形の禁止と新たな支払い規制が施行されますが、中小企業の資金繰り改善には必ずしもつながらないと警鐘を鳴らしています。重要なのは、実際に現金がいつ届くのか、金融コストの改善があるのかを確認することです。

手形払いが禁止されても、中小企業に現金は早く届くのか

――2026年の取適法と2027年の新規制で、企業間の支払いはどう変わるのか

2026年10月10日|2035日本再設計プロジェクト|中小企業・企業間取引・資金繰り編

仕事は終わった。

商品も納品した。

請求書も発行した。

それなのに、代金がなかなか入ってこない。

中小企業を経営している人なら、一度は経験したことがあるのではないでしょうか。

従業員の給料は毎月払わなければなりません。

材料を仕入れれば、その代金も必要です。

事務所の家賃。

電気代。

設備の維持費。

社会保険料。

売上が発生していても、口座に現金が入ってこなければ、会社の支払いはできません。

日本では長年、こうした企業間取引に「約束手形」が使われてきました。

代金の支払いに代えて手形を渡し、指定された期日に現金化する仕組みです。

しかし、受け取った企業からすれば、仕事を終えても現金が入るまで待つことになります。

待っている間の運転資金を借りれば、金利などの負担が発生します。

つまり、取引上の立場が弱い企業ほど、発注側の支払いを待つために資金を用意する必要があったのです。

この状況を変えるため、日本は法律を改正しました。

2026年1月1日、改正された中小受託取引適正化法、通称「取適法」が施行されました。

この法律では、対象となる取引について、約束手形による代金支払いが禁止されました。

さらに2026年9月2日、公正取引委員会は、サプライチェーン全体で支払いを適正化するよう、業界団体や金融機関などへ要請しました。

そして2027年4月1日には、取適法の対象外となる一定の製造委託等についても、支払いの遅延を規制する新しい仕組みが施行される予定です。

制度は大きく変わり始めています。

しかし、ここで考えなければならないことがあります。

手形を禁止すれば、本当に中小企業の資金繰りは楽になるのでしょうか。

紙の手形が電子的な債権に変わっただけでは、意味がないのではないでしょうか。

そして、発注企業が早く払うようになったとしても、その発注企業自身が資金不足になったら、どうするのでしょうか。

今日のJapan Compassでは、一つの問いを検証します。

手形払いを禁止するだけで、中小企業に現金が早く届く仕組みは完成するのか。


Executive Summary

結論から言います。

Japan Compassは、2026年の取適法による手形払いの禁止を支持します。

ただし、手形を廃止したことだけで、中小企業の資金繰りが改善したと判断してはいけないと考えます。

重要なのは、支払い方法の名称ではありません。

受注した企業が、いつ、いくらの現金を、どれだけの追加費用を負担して受け取れるのか。

そこを確認する必要があります。

実際、2026年の取適法は、この問題をある程度見据えています。

約束手形を禁止しただけではありません。

電子記録債権や一括決済方式などであっても、法定の支払期日までに代金の満額に相当する金銭を受け取ることが困難なものは、対象取引において禁止されます。

また、振込手数料を中小受託事業者へ負担させることも禁止されています。

つまり、政府も既に、「紙の手形をやめればよい」という考え方にはしていません。

さらに、2027年4月からは、独占禁止法上の「支払告示」によって、取適法の対象外である一定の製造委託等にも、受領から60日を超える支払遅延の禁止が広がる予定です。

ただし、すべての企業間取引が一律に同じ規制を受けるわけではありません。

取引の種類と法律上の適用条件を区別する必要があります。

Japan Compassが今回提案するのは、これらの既存制度を前提に、法律が守られたかだけでなく、受注企業の手元に現金が届くまでの実態を測ることです。

規制によって支払いが早くなったのか。

金融費用は減ったのか。

二次、三次の取引先まで効果が届いたのか。

発注側の企業に過大な負担が生じていないか。

それらを同時に検証する必要があります。


現状|2026年、約束手形による支払いは禁止された

まず、制度の内容を正確に確認します。

2026年1月1日、従来の「下請法」が改正され、現在の「取適法」が施行されました。

正式名称は「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」です。

この改正には、いくつもの重要な変更が含まれています。

価格交渉に応じず、一方的に代金を決める行為の禁止。

適用対象を判断する際の従業員数基準の追加。

発荷主から運送事業者への一定の運送委託の対象化。

そして、約束手形による支払いの禁止です。

今回注目するのは、最後の部分です。

これまでも、下請代金の支払いには期限が設けられていました。

また、長期間の手形については、以前から規制や運用上の見直しが進められていました。

したがって、2026年になって初めて支払期限が設けられたわけではありません。

今回の大きな変更は、法律の対象となる取引について、代金の支払いに手形を使うこと自体を禁止した点です。

対象となるのは、原則として2026年1月1日以降に発注された、取適法の適用対象取引です。

日本中のすべての商取引で、同じ日に手形が違法になったという意味ではありません。

この違いは重要です。


「手形を廃止したのに、支払いが遅い」という問題を防げるか

例えば、ある部品メーカーが、大手メーカーへ部品を納品したとします。

部品メーカーは、材料代や従業員の人件費を先に負担しています。

納品後、発注企業から約束手形を受け取る。

しかし、現金化できるのは、さらに先の日付です。

この場合、部品メーカーは、その間の運転資金を自分で用意しなければなりません。

金融機関で手形を割り引いて現金化する方法もあります。

ただし、その場合には費用がかかります。

要するに、発注企業が支払いを先延ばしにすることで生じる資金負担を、受注企業が背負う構造です。

では、紙の手形を電子記録債権へ切り替えれば解決するのでしょうか。

必ずしもそうではありません。

電子記録債権は、紙を使わずに債権を管理・移転できる仕組みです。

事務処理や紛失防止などの面では利点があります。

しかし、資金を実際に受け取れる日が遅ければ、受注企業の資金繰り問題は残ります。

そこで取適法では、電子記録債権や一括決済方式などについても、支払期日までに満額に相当する金銭を受領することが困難なものを禁止しています。

これは、支払いの電子化と、支払いの早期化を区別した制度です。

Japan Compassは、この考え方を評価します。

ただし、法律がそのように定めていても、すべての現場で適切に運用されているかどうかは、別に検証しなければなりません。


2027年4月、取適法の対象外にも規制が広がる

さらに注目したいのが、2026年9月2日の公正取引委員会の発表です。

公正取引委員会は、約束手形の利用廃止を踏まえ、サプライチェーン全体で支払いを適正化するよう要請しました。

この発表では、既に施行されている取適法に加えて、2027年4月1日から、独占禁止法上の「支払告示」が施行されることを説明しています。

支払告示の正式名称は、「製造委託等に係る代金の支払に関する特定の不公正な取引方法」です。

これは、取適法の対象にならない取引であっても、一定の製造委託等について、受託した事業者への代金を、給付の受領から60日を経過しても支払わないことを禁止するものです。

ここでも注意が必要です。

この規制は、すべての企業間取引へ無条件に適用されるものではありません。

対象となる製造委託等の範囲が定められています。

また、2026年10月10日時点では、支払告示は公表済み・施行前です。

既に施行されている取適法と、2027年から施行される支払告示は区別して考える必要があります。

それでも、方向性は明確です。

政府は、従来の下請取引の枠を超え、サプライチェーン全体で支払いの適正化を進めようとしています。


紙の手形そのものも、2027年に大きく変わる

もう一つ、企業が知っておくべき日付があります。

2027年3月31日。

電子交換所における手形・小切手の交換が廃止される予定です。

公正取引委員会の2026年9月2日の発表によると、多くの金融機関は、2026年9月30日を手形・小切手の最終振出期限として設定していました。

つまり、法律による取引規制とは別に、金融実務としても紙の手形からの移行が進んでいます。

しかし、ここでも本質を見失ってはいけません。

紙がなくなった。

電子化された。

銀行の事務が減った。

それだけでは、中小企業の資金繰りが改善したとは言えません。

支払いのデジタル化と、現金が早く届くことは別の問題だからです。


原因|なぜ支払日が、中小企業の経営を左右するのか

中小企業にとって、売上は大切です。

しかし、経営を続けるためには、利益だけでなく現金が必要です。

例えば、受注が増えた会社があるとします。

注文が増えたので、材料を多く仕入れる。

従業員の残業も増える。

場合によっては、新しい人を採用する。

売上は伸びています。

ところが、取引先から代金が入るのは納品のかなり後です。

売上が伸びるほど、先に必要な現金も増えていきます。

この会社は、利益が出ていても資金繰りが苦しくなる可能性があります。

これが、いわゆる運転資金の問題です。

発注企業から見れば、支払いを遅くするほど、自社の手元資金を維持できます。

しかし、その分、受注企業には負担が移ります。

特に、取引先が限られている中小企業では、支払条件について強く交渉することが難しい場合があります。

「その条件が嫌なら、ほかへ発注する」

と言われることを恐れ、長い支払条件を受け入れてしまうことも考えられます。

取適法は、こうした交渉力の差がある取引を適正化するための制度でもあります。


一次企業だけでなく、二次・三次の取引先まで見る必要がある

ここが、今回特に重視したい点です。

例えば、大手メーカーAがあります。

Aは一次取引先Bへ発注します。

Bは二次取引先Cへ部品を発注します。

Cは三次取引先Dへ加工を依頼します。

このとき、AがBへの支払いを早めたとします。

Bの資金繰りは改善するかもしれません。

しかし、BがCへの支払いを以前と同じ条件で続けていたら、どうなるでしょうか。

Cの資金繰りは、改善しないかもしれません。

さらにCがDへの支払いを遅らせていれば、最も規模の小さいDが資金負担を背負い続けることになります。

これは、単純な一社間の支払いではなく、サプライチェーンのどの段階に現金が滞留しているのかという問題です。

公正取引委員会が2026年9月に、法律の直接対象となる取引だけでなく、サプライチェーン全体での支払条件改善を求めたことには、この点でも意味があります。

ただし、すべての取引段階に同一の法律が適用されるわけではありません。

法律上の義務と、業界全体で進めるべき商慣行の改善は、分けて考える必要があります。


現在の実績|政府は違反の調査を進めている

では、法律が変わった結果、実際に支払いは改善しているのでしょうか。

ここで、確認できる数字を見てみます。

中小企業庁は2026年6月10日、「令和7年度における取適法およびフリーランス法に基づく取組」を公表しました。

令和7年度とは、2025年4月から2026年3月までです。

この期間に中小企業庁は、委託事業者約5万5,000者と、それらと取引する中小受託事業者約24万者を対象に、定期調査を実施しました。

その結果、改正前の下請法違反のおそれがある約8,000者に対して、是正などを求める注意喚起文書を発出しています。

また、立入検査等では、725者について調査を行い、1,454件の違反行為を確認し、619者に改善指導を実施しました。

ただし、ここで大切な注意点があります。

この統計を、2026年1月に施行された取適法の効果として使うことはできません。

なぜなら、対象期間のうち、2025年4月から12月までは改正前の下請法が適用されていたからです。

つまり、この統計は、旧法と新法の運用期間が混在しています。

2026年の新制度が、支払いの早期化にどれだけ効果をもたらしたかについては、施行後の対象取引を分けた実績確認が必要です。


2026年6月には、広告業界への集中調査も行われた

法律の運用は、製造業だけの問題ではありません。

2026年6月29日、中小企業庁と公正取引委員会は、広告業における取適法違反の疑いがある取引について、集中調査の結果を公表しました。

調査は2026年2月以降に実施され、広告業者に対して71件の指導が行われています。

広告業者と広告制作業者の間の取引には、新聞、雑誌、テレビ、インターネット広告などの制作に加え、広告に付随するイベントの企画運営に関する取引も含まれています。

ここから分かるのは、企業間取引の適正化が、工場や製造業だけの問題ではないということです。

デザイン。

映像制作。

システム開発。

広告制作。

イベント制作。

さまざまな業種で、発注側と受注側の支払条件は重要です。

ただし、今回の広告業界への71件の指導についても、そのすべてが新しい手形払い禁止に関する違反だったと判断してはいけません。

調査対象には、経過措置によって旧法が適用される取引も含まれています。

法律の違反件数が多いことと、支払いの早期化が進んだことも、同じ意味ではないのです。


海外事例|英国は、企業が何日で支払っているかを公開している

海外では、企業間の支払いをどのように改善しているのでしょうか。

参考になるのが英国です。

英国では、一定規模以上の企業に対して、取引先への支払慣行や実績を定期的に報告する義務があります。

政府のオンラインサービスを通じて、発注企業が取引先へ平均的に何日で支払っているか、支払期日を守っているかなどを確認できます。

2026年7月14日、英国政府は2025年の大企業の支払慣行に関する統計を公表しました。

それによると、報告対象となる大企業の支払所要日数は、2025年に32日でした。

同統計では、支払期日を過ぎて支払われた請求書は**15%**でした。

2018年には期日超過の請求書割合が25%だったため、長期的には低下しています。

ただし、この数字は英国のすべての企業間取引を対象にしたものではありません。

一定の規模基準を満たす大企業による報告が対象です。

また、統計に示された変化が、情報公開制度だけの効果だったと断定することもできません。

それでも、英国の制度から参考にできる点があります。

それは、発注企業が、取引先への支払いに実際に何日かけているかを、外部から確認できることです。

法律違反があった場合だけでなく、日常的な支払慣行を見えるようにしています。


英国には、早く支払う企業を評価する仕組みもある

英国には、もう一つ参考になる仕組みがあります。

Small Business Commissionerが運営する、Fair Payment Codeです。

2025年に公表された制度では、企業の支払実績に応じて、Gold、Silver、Bronzeの三段階で評価します。

Goldは、すべての請求書の少なくとも95%を30日以内に支払っている企業。

Silverは、すべての請求書の少なくとも95%を60日以内に支払い、さらに中小企業への請求書の少なくとも95%を30日以内に支払っている企業。

Bronzeは、すべての請求書の少なくとも95%を60日以内に支払っている企業です。

ただし、これは企業が申請する任意の評価制度です。

法律による支払い義務と同じものではありません。

ここで重要なのは、遅い支払いを禁止するだけでなく、早く支払う企業が取引先から評価される環境を作ろうとしていることです。

日本でも、違反企業への指導だけでなく、適正な支払慣行を持つ企業が評価される方向は検討に値すると思います。

ただし、企業の大きさや取引内容による違いを無視し、単純に「支払いが早い会社ほど優良」と順位付けすることには慎重であるべきです。


賛成論|支払いの早期化は、中小企業の投資余力を増やす

支払いを早くすることには、いくつものメリットがあります。

まず、中小企業の資金繰りが安定します。

代金を受け取るまでの期間が短くなれば、運転資金を借りる必要性や、その借入額を抑えられる可能性があります。

次に、資金調達にかかる費用を減らせる可能性があります。

資金繰りが改善すれば、その分を設備投資や人材育成へ回せるかもしれません。

さらに、経営者の負担も軽くなります。

毎月の資金繰りを心配しながら経営することと、一定の見通しを持って経営できることでは、大きな違いがあります。

そして、支払いの早期化には、サプライチェーンの安定につながる可能性もあります。

小さな取引先が資金不足で操業できなくなれば、大手企業にも部品やサービスが届かなくなるからです。

受注企業の資金繰りを守ることは、発注企業自身の供給網を守ることでもあります。


慎重論|発注企業の資金繰りも無視できない

一方で、支払いの早期化を進めれば、それだけですべてが良くなるわけではありません。

例えば、中堅企業Bが、大手企業Aから仕事を受注しているとします。

BはAから代金を受け取る前に、小規模企業Cへ支払わなければならない。

この場合、Bの資金繰りに負担が生じます。

Bもまた、Aに対しては受注側の企業だからです。

サプライチェーンは、単純な「大企業対中小企業」だけではありません。

中小企業が発注側になることもあります。

そして、支払いを早める負担を吸収するため、金融機関からの借入れが必要になる場合もあるでしょう。

だからこそ、支払いの適正化では、発注企業の資金繰りも考える必要があります。

ただし、発注企業の資金繰りが苦しいからといって、法律で禁止された支払遅延を正当化することはできません。

必要なのは、法令を守りながら、支払条件の変更によって生じる資金需要へ対応することです。

公正取引委員会も2026年9月の要請で、金融機関に対し、支払期間の短縮に取り組む企業からの資金繰り相談へ柔軟に対応するよう求めています。

つまり、政府もこの問題を認識しています。


Japan Compass政策提案

「手形がなくなったか」ではなく「現金が届いたか」を測る

今回の提案は、手形払い禁止を新しく導入することではありません。

2026年の取適法を前提とし、2027年の支払告示の施行を見据えて、その実効性を確認するものです。

第一の提案|実際の入金日を調べる

最も重要なのは、受注企業がいつ現金を受け取ったかです。

例えば、法律上の支払期日が60日以内であっても、すべての企業が60日目に支払う必要はありません。

30日で支払う企業もあるでしょう。

45日で支払う企業もあります。

そこで、対象となる取引について、物品や成果物の受領日など、法律上の起算日から実際の支払日までを調べます。

30日以内。

31日から45日。

46日から60日。

60日超。

こうした区分で、支払実績を把握します。

ただし、支払条件は業種や契約によって異なるため、単純な全国平均だけでは十分ではありません。

製造業。

情報サービス。

広告制作。

物流。

といった業種別の違いも確認する必要があります。

また、法令上の適用対象と対象外の取引を分けて集計します。

違法な遅延が減ったのか、適法な範囲でさらに支払いが早くなったのか。

この二つは区別して評価するべきです。

第二の提案|現金化のための費用も確認する

例えば、電子記録債権を受け取り、それを早期に現金化したとします。

このとき、いつ、いくら受け取れたのか。

追加費用を誰が負担したのか。

この確認が必要です。

法律上の禁止行為を見つけることだけが目的ではありません。

制度が適正に運用された結果、受注企業の金融費用が実際に減っているのかを把握するためです。

そのために、調査では、支払方法だけでなく、受取金額と資金調達費用も確認できるようにします。

ただし、企業秘密に関わる個別取引データを、すべて一般公開する必要はありません。

監督機関が必要な情報を確認し、公表する際には業種別・規模別などの集計値にすることが考えられます。

第三の提案|二次・三次取引先への波及を確認する

大手発注企業の支払いだけが早くなっても、効果が末端まで届かなければ不十分です。

そこで、取引段階ごとの支払実態を調べます。

一次受託企業。

二次受託企業。

三次受託企業。

それぞれについて、納品から支払いまでの期間と、資金調達の負担を確認します。

もちろん、すべての企業間取引を個別に追跡することは現実的ではありません。

まずは、業種を限定したサンプル調査から始めるべきです。

例えば、自動車部品。

産業機械。

広告制作。

物流関連の委託取引。

など、複数の事業者が連なる取引で、実際の資金の流れを確認します。

これは、単に企業を調査するためではありません。

どの段階に資金負担が集中しているのかを見つけるためです。

第四の提案|支払いを早める企業の資金繰りも支援する

支払期間を短縮すると、発注企業側に新たな資金需要が発生する場合があります。

ここを無視すると、別の取引先へ支払い負担が移る可能性があります。

そこで、まずは既存の金融制度を利用します。

民間金融機関。

信用保証協会。

日本政策金融公庫。

商工会議所。

中小企業支援機関。

こうした既存の仕組みを通じて、支払条件の変更に伴う一時的な運転資金需要へ対応できるかを確認します。

ただし、支払いを早める企業へ無条件で公的資金を貸し付けることには賛成しません。

経営状態。

取引実績。

資金需要。

返済能力。

を確認し、必要な範囲で支援するべきです。

資金繰り支援と、回収できない融資を増やすことは別の問題だからです。

第五の提案|適正な支払慣行を企業評価の一つにする

英国の事例で参考になるのは、企業が取引先へ何日で支払っているかを見えるようにしていることです。

日本でも、一定規模以上の企業について、既存の調査や開示制度との重複を確認した上で、支払慣行を比較しやすくする方法を検討します。

例えば、対象取引の支払日数。

期日超過の割合。

改善した実績。

中小企業との協議状況。

などです。

ただし、すべての企業へ新しい報告義務を一律に課すのではなく、まず既存調査で把握できる項目と不足している項目を整理します。

英国のような公開制度には利点がありますが、報告作業そのものが中小企業の負担になってはいけません。

目指すのは、企業を単純に順位付けすることではありません。

取引先へ適正に支払う企業が、長期的に信頼される市場を作ることです。


財源・実施主体・制約

今回の提案で中心となるのは、公正取引委員会、中小企業庁、関係省庁です。

取適法の執行は、既に公正取引委員会と中小企業庁を中心に行われています。

中小企業庁には、取引Gメンによるヒアリングなどの仕組みがあります。

また、事業者からの相談を受ける「取引かけこみ寺」も全国で利用できます。

したがって、今回の提案のために、新しい監督官庁を設ける必要はありません。

まずは既存の調査項目を見直し、支払日、支払手段、満額受領の状況、資金調達費用を、必要な範囲で把握できるかを検討します。

追加の調査が必要な場合も、全事業者へ毎年詳細な報告を求めるのではなく、業種別の標本調査を活用します。

財源については、既存の取引適正化関連予算と調査事業を起点にするべきです。

ただし、追加的な調査システム、人員、分析費用がゼロで済むとは限りません。

今回確認した資料からは、全国の支払実態を新たに継続調査する場合の追加費用を確定できませんでした。

そのため、「年間○億円でできる」といった数字は示しません。

最初に既存調査の再利用可能性を確認し、不足分について必要経費を積み上げるべきです。

もう一つの制約は、取引情報の秘密です。

取引先名。

具体的な仕入価格。

支払条件。

資金調達費用。

これらをすべて公表すれば、競争上の問題が生じる可能性があります。

したがって、監督のために必要な非公開情報と、政策評価のために公表する集計情報を区別する必要があります。

さらに、受注企業が違反を申告したことで、取引を打ち切られるような報復を防ぐことも重要です。

取適法では、申告先の拡大を含め、報復措置に関する規律も整備されています。

こうした既存の保護措置を、実際に利用できるようにする必要があります。


2035ロードマップ

2026~2027年|まず新制度の実際の効果を測る

2026年1月に施行された取適法について、対象取引の支払手段と支払日数の変化を確認します。

約束手形から何へ移行したのか。

現金を受け取るまでの日数は短くなったのか。

受注企業が負担する金融費用は減ったのか。

そして、2027年3月末に予定される電子交換所での手形・小切手交換廃止に向け、企業側の準備状況も確認します。

2027~2029年|新しい支払告示の対象まで検証する

2027年4月1日から施行予定の支払告示について、取適法の対象外となる一定の製造委託等で、支払遅延が減ったかを確認します。

この段階では、取適法の対象取引と、支払告示によって新たに規制される取引を分けて評価する必要があります。

さらに、支払期間の短縮によって、発注企業の資金繰りにどのような影響が生じたかも確認します。

2029~2031年|多段階取引の資金負担を見えるようにする

一次、二次、三次の取引先について、支払日数と資金調達費用を比較します。

特に、小規模企業ほど支払いを待つ時間が長くなっていないかを調べます。

必要に応じて、既存の業界別取引適正化ガイドラインや自主行動計画の見直しにつなげます。

2031~2033年|早く支払う企業が評価される環境を整える

法律違反の防止に加えて、適正な支払いを継続している企業が取引先から評価される仕組みを検討します。

ただし、公開する情報は、企業の規模や取引内容による違いが理解できるものにします。

また、開示が新たな事務負担を生まないかも確認します。

2033~2035年|資金繰りの負担を一方的に押し付けない取引へ

2035年に目指すのは、すべての企業間取引を同じ支払日数にすることではありません。

業種や取引の内容に応じて、合理的な支払条件が設定される。

法律上の期限は確実に守られる。

受注企業が、発注企業の資金繰りを一方的に肩代わりしなくて済む。

そして、サプライチェーンのどの段階でも、安定した経営を続けられる。

そうした取引環境です。


2035日本再設計白書での位置付け

今回の#069は、**第三部「経済」**に位置付けます。

横断テーマは、中小企業、企業間取引、物流、資金調達です。

#029では、物流の荷待ち時間、共同配送、輸送網などを扱いました。

#050では、政府がスタートアップなどの新しい技術を最初に採用するための公共調達を扱いました。

#053では、後継者不在による中小企業の廃業と、第三者・従業員などへの事業承継を扱いました。

今回の#069は、それらの総論を繰り返すものではありません。

既に仕事を終えた企業が、代金をいつ、いくら受け取れるのか。

この一点に絞っています。

中小企業の成長を考えるとき、私たちは、売上を増やすことや新しい仕事を獲得することに目を向けがちです。

しかし、売上が増えても、代金の回収が遅ければ経営は安定しません。

受注機会。

生産性。

人材。

事業承継。

それらと並んで、適正な時期に代金を受け取れることも、企業の持続性を支える重要な条件だと考えます。


今日の提言

中小企業を支援する政策には、さまざまなものがあります。

補助金を出す。

融資を増やす。

税制を優遇する。

設備投資を支援する。

もちろん、必要な政策もあるでしょう。

しかし私は、今回の制度改革には、少し違う意味があると思います。

それは、新しく税金を配る前に、企業間で本来支払われるべきお金を、適正な時期に届けるという考え方です。

仕事をする。

商品を納める。

代金を受け取る。

本来、当たり前に見える流れです。

しかし、その流れの途中で、資金負担が取引先へ一方的に押し付けられてきた場合があります。

2026年の取適法は、その状況を改善するための重要な制度です。

そして2027年には、さらに一定の取引へ支払規制が広がります。

私は、この方向性を支持します。

ただし、制度を作ったことで安心してはいけません。

手形の利用が減ったか。

電子決済へ切り替わったか。

法律違反が何件あったか。

それだけでは、政策の成果は分かりません。

見るべきなのは、もっと経営の現場に近いことです。

仕事を終えた企業に、現金が早く届くようになったか。

現金化のために払う費用は減ったか。

最も規模の小さい取引先まで、その効果が届いたか。

そして、支払いを早める側の企業も、無理なく経営を続けられるか。

そこまで確かめて、初めて制度の成果を判断できると思います。

企業を支えるのは、必ずしも補助金だけではありません。

正当な取引の代金が、約束した時期に、適切に支払われる。

その当たり前を実現することも、日本経済を強くする政策ではないでしょうか。


読者への問い

もし、あなたが小さな会社を経営しているとします。

大手企業から仕事を受注しました。

従業員と協力して、納期どおりに納品しました。

しかし、代金が入ってくるのは数か月先です。

その間、従業員の給料や材料代を支払うため、銀行からお金を借りなければなりません。

ある日、取引先から連絡が来ます。

「法律が変わったので、今後は手形をやめて電子的な決済にします」

確かに、紙の手形はなくなりました。

でも、現金を受け取れる日はほとんど変わらない。

現金化するための費用も必要です。

これで、制度改革は成功したと言えるでしょうか。

反対に、あなたの会社が発注する側だったとします。

取引先へ早く支払うため、自社の資金繰りが厳しくなる。

その負担を、どう吸収するべきでしょうか。

私は、どちらか一方の企業だけに、負担を押し付ける仕組みでは長続きしないと思います。

必要なのは、サプライチェーン全体で、適正な支払条件を実現することです。

そして、その成果を、法律の条文ではなく、実際に現金が届くまでの時間で確認することです。

日本の中小企業を本当に強くするために必要なのは、仕事を増やすことだけでしょうか。それとも、仕事の対価を適切に受け取れる仕組みを整えることも、同じくらい重要なのでしょうか。

2026年と2027年の制度改革は、その答えを確かめる大きな機会になるはずです。


データ出典・参考資料

公正取引委員会「取適法・振興法」
2026年1月1日に施行された取適法の改正内容を確認。手形払い禁止、電子記録債権・一括決済方式等の支払期日までの満額受領に関する制限、振込手数料の負担、従業員数基準の追加、特定運送委託の対象化などを確認しました。
取適法・振興法|公正取引委員会

公正取引委員会「約束手形の利用廃止を踏まえたサプライチェーン全体での支払の適正化について」
2026年9月2日公表。2027年4月1日施行予定の独占禁止法上の支払告示、2027年3月31日に予定される電子交換所での手形・小切手交換廃止、取適法対象外の取引も含む支払期間の短縮要請、金融機関への資金繰り支援要請を確認しました。
2026年9月2日 支払適正化に関する要請|公正取引委員会

中小企業庁「令和7年度における取適法およびフリーランス法に基づく取組」
2026年6月10日公表。委託事業者約5万5,000者、中小受託事業者約24万者への調査、8,007者への注意喚起、725者への立入検査等、1,454件の違反行為確認、619者への改善指導を確認しました。対象年度は2025年度であり、旧法と新法の運用期間が混在する点に注意しています。
令和7年度 取適法等の運用状況|中小企業庁

経済産業省・中小企業庁「広告業における取適法違反被疑事件の集中調査の結果」
2026年6月29日公表。2026年2月以降の集中調査で、広告業者に71件の指導が行われたことを確認しました。
広告業における集中調査結果|経済産業省

英国 Department for Business and Trade「Large businesses’ payment practices and performance statistics 2025」
2026年7月14日公表の公式統計。2025年の報告対象大企業における支払所要日数32日、支払期日を過ぎた請求書の割合15%などを確認しました。統計対象は報告義務のある大企業であり、英国の全企業間取引を示す数字ではありません。
英国大企業の支払慣行統計2025|英国政府

英国 Department for Business and Trade「Duty to report on payment practices and performance」
2025年9月2日更新。一定規模以上の英国企業による支払慣行の定期報告義務、対象企業の基準、2025年からの開示項目変更などを確認しました。
英国の支払慣行報告制度|英国政府

英国 Small Business Commissioner「The New Fair Payment Code」
2025年2月21日公表。Gold、Silver、Bronzeの各評価基準を確認しました。法律による強制的な支払期限ではなく、企業が任意で参加する評価制度です。
Fair Payment Code|英国Small Business Commissioner

Japan Compass #053「後継者がいない会社を、廃業の前に引き継げないか」
2026年9月24日公開。後継者不在、従業員・第三者承継、既存の承継支援制度が中心であり、今回の支払期日・現金回収までの期間とは問いと提案が異なることを確認しました。
Japan Compass #053

※本稿は2026年10月10日時点で確認できる公表資料に基づいています。

2026年の取適法による手形払い禁止は既に施行されています。一方、2027年4月1日の支払告示は公表済みですが、まだ施行前です。

また、2026年の制度変更によって中小企業の現金回収日数が全国で何日短縮されたのか、金融費用がいくら減少したのか、二次・三次取引先へどの程度効果が波及したのかについては、今回確認した公表資料から、十分な比較可能データを確認できませんでした。

したがって、「手形払い禁止によって資金繰りが改善した」といった因果効果は断定していません。

Japan Compass独自の提案は、既に成立・施行されている制度を前提に、実際の入金日、満額受領の状況、現金化費用、取引段階別の資金負担を継続して把握し、法令遵守と資金繰り改善の両方を検証することです。 手形払い禁止や支払告示そのものを、新しい提案として扱うものではありません。

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