Japan Compass #070

内部通報制度の改正が2026年12月に施行される。この法改正では、通報者を守るための罰則が強化され、フリーランスも保護対象に加わる。しかし、通報制度の成功は窓口の設置だけではなく、実効性や公正な調査によるものであるべきだとの提案がある。

内部通報の窓口があっても、通報した人を守れるか

――2026年12月の法改正で、企業の不正を止める仕組みはどう変わるのか

2026年10月11日|2035日本再設計プロジェクト|公益通報・企業統治・法制度編

ある会社で働く社員が、製品の検査データに不自然な数字を見つけたとします。

本来なら実施されているはずの検査が、行われていない。

それなのに、検査記録には合格と書かれている。

上司に相談すると、こう言われました。

「余計なことは言わなくていい」

社員は悩みます。

もし検査結果が偽装されているなら、製品を購入する人に危険が及ぶかもしれません。

しかし、この問題を会社に通報すれば、自分はどうなるのでしょうか。

上司から嫌われるかもしれない。

異動させられるかもしれない。

昇進できなくなるかもしれない。

最悪の場合、会社を辞めなければならなくなるかもしれません。

会社には、内部通報窓口があります。

しかし、その窓口を管理しているのが、問題を起こした部署と深い関係を持つ人だったとしたら。

通報した事実が上司へ伝わってしまうかもしれません。

それなら、何も言わない方が安全だと考える人もいるでしょう。

これは、単なる企業内部の問題ではありません。

食品偽装。

製品の安全基準違反。

不正会計。

保険金の不正請求。

環境汚染に関する法令違反。

こうした問題を早期に発見できなければ、最終的に損害を受けるのは消費者や社会全体です。

そして日本では、内部通報者を守る法律が大きく変わろうとしています。

2026年12月1日、改正公益通報者保護法が施行されます。

今回の改正では、通報を理由とする解雇や懲戒への刑事罰が新設され、フリーランスも保護対象に加わります。

さらに、通報を妨害する行為や、通報者を探し出そうとする行為も禁止されます。

日本は、通報した人を守る方向へ、制度を強化することになります。

しかし、法律が厳しくなれば、本当に安心して通報できるようになるのでしょうか。

今日のJapan Compassでは、一つの問いを考えます。

内部通報の窓口があるだけで、通報した人を守り、企業の不正を止めることはできるのでしょうか。


Executive Summary

結論から言います。

Japan Compassは、2026年12月に施行される公益通報者保護法の改正を支持します。

特に、通報者への報復を抑止するため、法律上の保護を強化することには大きな意味があります。

しかし、内部通報制度の成功を「窓口を設置した企業の割合」で判断することには反対です。

なぜなら、窓口があっても、通報できない人がいるからです。

通報しても、調査されない場合があるかもしれません。

調査しても、問題が改善されない場合があるかもしれません。

さらに、通報した人が、その後に不利益な扱いを受ける可能性もあります。

2024年4月に消費者庁が公表した調査では、従業員300人を超える事業者の91.5%が内部通報制度を導入していました。

一方、300人以下では46.9%でした。

これは制度の普及状況を示す数字です。

しかし、通報した人が実際に守られているかどうかを示す数字ではありません。

そこでJapan Compassは、今後の政策評価について、次の方向を提案します。

内部通報制度を「窓口の設置」から「受付・調査・是正・通報者保護までの一連の機能」で評価する。

具体的には、通報を受け付けた後、適切な担当者が対応しているか、利益相反のある人物が調査を行っていないか、必要な是正措置が講じられたか、通報者に報復が行われていないかを確認します。

ただし、通報件数が多ければ良い企業、少なければ悪い企業という単純な評価にはしません。

また、通報した内容が事実でなかった場合の適切な対応や、通報対象者の権利を守ることも必要です。

目指すのは、誰かを告発しやすい社会ではありません。

組織の問題を、深刻な被害が発生する前に修正できる社会です。


現状|大企業の約92%には、既に内部通報制度がある

まず、日本の内部通報制度がどこまで整備されているのかを確認します。

消費者庁は2024年4月、民間事業者の内部通報制度に関する実態調査結果を公表しました。

調査は2023年12月と2024年3月に実施されています。

回答は任意であり、すべての日本企業を調査したものではありません。

その上で、調査結果を見ると、従業員300人を超える事業者1,905者のうち、91.5%が内部通報制度を導入していると回答しました。

2016年度調査時の82.0%から上昇しています。

一方、従業員300人以下の事業者1,488者では、導入率は46.9%でした。

2016年度調査時の26.3%から大きく上昇しています。

つまり、内部通報制度そのものは、着実に広がってきました。

しかし、同じ調査には、気になる数字があります。

内部通報制度を導入していると回答した2,448事業者のうち、年間受付件数が「0件」「1〜5件」「把握していない」のいずれかだった事業者は、全体の約65%でした。

この数字をどう考えるべきでしょうか。

通報が少ないのは、不正が少ないからかもしれません。

会社の雰囲気が良く、上司への相談によって問題が解決しているのかもしれません。

一方、従業員が制度を知らない可能性もあります。

通報すると不利益を受けると思っている可能性もあります。

つまり、通報件数が少ないことだけでは、その企業が健全かどうか判断できないのです。

窓口の数や通報件数だけでは、制度の実効性を測れないことが分かります。


2026年12月の法改正で、何が変わるのか

公益通報者保護法は、2004年に成立し、2006年に施行されました。

その後、2020年の法改正を経て、2022年6月から、従業員300人を超える事業者には内部通報への対応体制の整備が義務付けられています。

300人以下の事業者については、努力義務です。

したがって、今回の改正によって初めて内部通報制度が義務化されるわけではありません。

今回の改正で重要なのは、制度の実効性と通報者保護を強化することです。

2025年6月11日に公布された改正法は、2026年12月1日に施行されます。

主な変更点を確認します。

通報者を守るための罰則が強化される

これまでも、公益通報を理由とする解雇などは、法律によって禁止されていました。

しかし、通報者が不利益な扱いを受けた場合、その救済には困難がありました。

今回の改正では、公益通報を理由として解雇や懲戒を行った行為者や法人に対して、刑事罰が新設されます。

また、一定の要件の下で、公益通報から1年以内に行われた解雇や懲戒について、公益通報を理由としたものと推定する規定も設けられます。

これは、通報者を守る上で重要な変更です。

ただし、通報から1年以内に行われたすべての人事上の措置が、自動的に違法となるわけではありません。

法定の保護対象や要件に基づいて判断されます。

フリーランスも保護対象に加わる

今回の改正では、公益通報者として保護される対象に、フリーランスが加わります。

現在、企業はさまざまな仕事を外部へ委託しています。

システム開発。

デザイン。

広告制作。

映像制作。

コンサルティング。

物流関連業務。

こうした業務に携わるフリーランスも、取引先の問題を知ることがあります。

しかし、問題を通報したことで契約を打ち切られれば、生活に大きな影響が出ます。

改正法では、保護対象となるフリーランスについて、公益通報を理由とする業務委託契約の解除などを禁止します。

業務委託関係が終了してから1年以内のフリーランスも、一定の要件の下で保護対象となります。

ただし、すべての契約トラブルや業務上の不満が、公益通報者保護法の対象になるわけではありません。

通報内容、通報先、通報者の立場などによって、保護要件は異なります。

通報の妨害や、通報者探しが禁止される

今回の改正で特に重要だと考えるのが、この部分です。

例えば、会社が従業員に対して、

「内部の問題を外部へ伝えないこと」

という合意を、不当に求めたとします。

あるいは、内部通報があった後、経営幹部が、

「誰が通報したのか調べろ」

と指示したとします。

改正法では、正当な理由のない通報妨害行為や、通報者を特定することを目的とした探索行為が禁止されます。

これは、通報した人が後から処分される問題だけでなく、そもそも通報できなくなる原因を減らすための規制です。

企業の対応体制にも、より厳しい規律が設けられる

従業員300人を超える事業者には、公益通報対応業務従事者を指定する義務があります。

今回の改正では、体制整備に関する行政措置の実効性も強化されます。

勧告に従わない場合の命令や、命令違反に対する罰則などが設けられます。

なお、体制整備義務への命令違反と、通報を理由とする解雇・懲戒への刑事罰は、異なる規定です。

また、2026年3月には法定指針とその解説が改正され、6月には改正法に対応したハンドブックが公表されました。

9月2日には、消費者庁が改正指針の内容を追加した研修動画も公表しています。

制度の施行に向けた準備は、既に進んでいます。


原因|なぜ窓口を設置するだけでは不十分なのか

内部通報制度には、構造的に難しい問題があります。

それは、通報される側の組織が、通報を受け付け、調査する側にもなることです。

例えば、ある会社で経理部門の不正が疑われたとします。

内部通報を受け付けた人が、経理部門の責任者と近い関係にあったらどうでしょうか。

調査の途中で、通報者の情報が漏れる可能性があります。

調査を十分に行わない可能性もあります。

反対に、通報内容を確かめないまま、疑いをかけられた人に不利益が生じる可能性もあります。

このため、内部通報制度では、単に受付窓口を設けるだけでなく、調査担当者の独立性、利益相反の排除、秘密保持、適切な調査手続が必要です。

こうした考え方は、消費者庁の法定指針とその解説にも既に含まれています。

したがって、利益相反の防止や秘密保持を、Japan Compassが初めて考えた仕組みとして提案するわけではありません。

今回検証したいのは、既に求められている仕組みが、現場で本当に機能するかどうかです。


もう一つの問題|通報しても、その後どうなったのか分からない

例えば、社員が内部通報窓口へメールを送ったとします。

数日後、受付の連絡が届きました。

しかし、その後は何も連絡がありません。

1か月。

2か月。

3か月。

問題が調査されているのか分かりません。

会社が何らかの対応をしたのかも分かりません。

このような状態が続けば、通報した人はどう感じるでしょうか。

「結局、何もしてくれなかった」

と考えるかもしれません。

しかし、会社側にも事情があります。

調査には時間がかかる場合があります。

関係者の個人情報や営業秘密を守る必要もあります。

通報者だからといって、調査対象者の人事情報や処分内容をすべて知らせてよいわけではありません。

必要なのは、調査の内容を無制限に公開することではありません。

通報を受け付けたこと、適切に対応していること、対応が終了したことを、可能な範囲で伝える仕組みです。

消費者庁の指針でも、通報対応に関する通知や情報の取扱いが定められています。

今後は、その通知が実際にどの程度行われているかを確認する必要があります。


海外事例|EUは通報者への対応期限も重視している

欧州連合、EUには、公益通報者を保護するための指令があります。

2019年に成立した、EU指令2019/1937です。

対象には、公共調達、金融、マネーロンダリング防止、食品安全、環境保護、公衆衛生など、EU法に関わる幅広い分野が含まれています。

この指令では、通報者の秘密を守るための内部・外部通報経路と、報復からの保護を求めています。

特に参考になるのは、通報への対応期限です。

内部通報については、原則として受領から7日以内に受付を確認し、通常3か月以内に対応状況についてフィードバックする仕組みが定められています。

つまり、単に窓口を設置するだけではなく、通報した人が、その後どう扱われたのかを確認できることを重視しています。

ただし、EU指令と日本の公益通報者保護法では、対象となる法令、企業規模、保護要件、行政制度が異なります。

EU指令の期限を、そのまま日本の法律上の義務であるかのように説明することはできません。

また、EUでも制度が完成しているわけではありません。

欧州委員会は2024年7月、各加盟国における指令の国内法への導入状況について報告書を公表しました。

そこでは、加盟国が指令の主要な規定を国内法へ導入した一方、保護対象の範囲、報復への保護、罰則などについて改善が必要だと指摘しています。

法律ができても、運用には課題が残る。

この点は、日本にも共通する問題です。


賛成論|通報者の保護は、企業そのものを守ることにつながる

私は、公益通報者の保護を強化することには、企業経営上の合理性もあると考えます。

なぜなら、不正が長期間放置されるほど、企業が負う損害は大きくなる可能性があるからです。

例えば、製品の検査不正が発生していたとします。

早期に発見できれば、問題のある製品の出荷を止められるかもしれません。

しかし、数年間放置されれば、大規模な回収や損害賠償が必要になる可能性があります。

企業の信用も失われます。

顧客だけではなく、従業員、取引先、株主にも影響します。

消費者庁の2024年の調査では、内部通報制度を導入している企業にとって、内部通報は不正発見の重要な手段となっていました。

これは、内部通報制度が企業の監督機能の一つとして働き得ることを示しています。

ただし、通報があれば必ず不正を発見できるわけではありません。

早期発見できた場合に損失がどの程度減ったのかについても、個別の検証が必要です。

それでも、問題を知っている従業員が安心して声を上げられることは、企業の健全性を支える重要な条件でしょう。


慎重論|通報された側の権利も守らなければならない

一方で、通報者を守ることだけに注目すると、別の問題が生じます。

例えば、社内の人間関係が悪化し、ある社員が別の社員について、事実と異なる通報をしたとします。

調査する前に、会社が通報内容を事実として扱ってしまえば、疑いをかけられた社員の名誉や職業生活に大きな影響が出ます。

また、通報制度を利用すれば、通常の人事評価や業務上の指導を一切受けなくてよい、ということにもなりません。

公益通報者の保護と、適法で合理的な人事管理は両立させる必要があります。

さらに、公益通報者保護法の対象となるのは、法令に定められた通報対象事実などについて、一定の保護要件を満たす通報です。

職場での不満や、すべてのハラスメント相談が、直ちに公益通報者保護法の対象となるわけではありません。

もちろん、同法の対象外であっても、別の法律や社内規程によって保護される場合はあります。

このため、通報制度では、受付の段階で相談内容を適切に分類する必要があります。

公益通報として扱うべき事案。

人事・労務上の相談。

ハラスメント相談。

一般的な苦情。

それぞれについて、必要な窓口や調査手続が異なる場合があります。

通報した人を守ることと、通報内容を無条件に正しいと判断することは、同じではありません。

公平な調査手続があってこそ、内部通報制度は信頼される仕組みになります。


Japan Compass政策提案

「窓口の設置」から「対応の実効性」へ評価基準を変える

今回の政策提案は、新しい通報者保護法を制定することではありません。

2026年12月に施行される改正法と、既存の法定指針を前提にします。

その上で、制度が実際に機能しているかを確認する方法を具体化します。

第一の提案|通報の受付と調査を切り離さない

内部通報を受け付けたら、適切な担当者が内容を確認し、法令上の公益通報に該当するか、どの部署が対応するべきかを判断します。

必要な場合には、調査担当者を指定します。

その際、通報対象となった部署の責任者など、利益相反のある人物が調査を主導しないようにします。

これらは既存の指針にも関連する事項です。

Japan Compassが重視するのは、誰が受付し、誰が判断し、誰が調査したのかを、必要な範囲で事後確認できることです。

記録する情報は最小限とし、通報者の氏名など、特定につながる情報へのアクセスは厳格に制限します。

第二の提案|通報者へ対応状況を適切に伝える

通報者が、自分の通報を放置されたと感じる状態を減らします。

そのため、既存指針に基づく通知が適切に実施されているかを確認します。

例えば、受付確認。

調査に着手したかどうか。

対応が継続しているか。

調査が終了したか。

必要な是正措置が講じられたか。

こうした情報を、通報者の安全、調査の公正性、関係者の秘密を守れる範囲で伝えることを考えます。

ただし、調査対象者の人事処分や営業秘密などを、通報者へすべて開示することは求めません。

また、複雑な事案について、短期間で結論を出すことを機械的に義務付けるべきではありません。

重要なのは、早く処理したように見せることではなく、必要な調査を適切に行い、その状況を説明できることです。

第三の提案|通報後の報復防止を確認する

通報者を守る上で最も重要なのは、通報直後だけではありません。

例えば、通報から数か月後に、不自然な配置転換が行われたとします。

あるいは、通報したフリーランスとの契約が終了したとします。

それが通報への報復なのか、通常の人事・契約上の判断なのかは、事実関係を確認しなければ分かりません。

そこで、通報者の希望と個人情報保護を前提に、必要な範囲で通報後の不利益取扱いについて確認できる仕組みを提案します。

ただし、企業が通報者を常時監視する仕組みにしてはいけません。

また、通報者であることを、調査担当者以外の管理職へ広く知らせることも避ける必要があります。

報復を防ぐための仕組みが、逆に通報者を特定する仕組みになってはならないのです。

第四の提案|小規模企業には共同利用できる支援策を用意する

従業員300人以下の企業では、内部通報対応体制の整備は努力義務です。

しかし、小規模企業ほど、内部で独立性のある担当者を確保することが難しい場合があります。

例えば、従業員10人の会社で、社長自身が通報の対象となった場合です。

誰が調査するのでしょうか。

社内に十分な人員がいなければ、独立した調査は難しいでしょう。

そこで、商工団体、専門家団体、業界団体などを通じて、外部窓口や研修を共同利用できる仕組みを検討します。

もちろん、外部委託したからといって、企業自身の責任がなくなるわけではありません。

また、外部窓口の利用をすべての小規模企業へ義務付ける提案でもありません。

まずは既存の支援制度や民間サービスを調べ、費用と効果を比較するべきです。

第五の提案|「通報件数」ではなく「対応の質」を検証する

ここが、今回の提案の中心です。

私は、内部通報制度の実効性を、通報件数だけで評価することには反対です。

通報が少ない企業が、必ずしも優良企業とは限りません。

反対に、通報が多い企業が、必ずしも問題の多い企業とも限りません。

そこで、既存調査を活用し、次のような情報を確認することを提案します。

通報制度の認知状況。

受付から初動対応までの期間。

必要な調査が開始された割合。

調査結果に基づく是正措置の実施状況。

通報者への対応状況の通知。

秘密保持に関する問題の発生状況。

報復が疑われる事案への対応。

これらを、組織の規模や通報内容の違いを考慮して評価します。

ただし、件数を増やすことを目標にはしません。

また、調査の結果として問題が確認されなかった場合も、適切な調査が行われていれば、制度が機能していないとは限りません。

不正の発見件数ではなく、必要な通報が適切に処理されているか。

この視点が重要です。


財源・実施主体・制約

中心となる実施主体は、消費者庁、各事業者、関係する行政機関です。

企業の内部通報制度については、経営者、監査部門、法務・コンプライアンス部門などが、それぞれの役割を担います。

地方公共団体や国の行政機関については、別途定められているガイドラインとの整合も必要です。

今回の提案のために、新しい監督官庁を設置する必要はないと考えます。

まず、既存の法律、法定指針、調査体制を活用します。

その上で、実効性の確認に不足している情報を整理します。

費用が発生するのは、窓口の運営、担当者の研修、秘密保持のためのシステム、外部専門家への相談、調査記録の管理などです。

企業の規模によって、必要な負担は異なります。

大企業では、独立した担当部署を整備できるかもしれません。

一方、小規模企業では、外部の専門家を利用した方が合理的な場合もあります。

追加の公的支援については、既存の相談体制や業界団体の支援を確認した上で検討するべきです。

今回確認した公表資料からは、全国の企業が今回提案する追加的な運用改善を実施した場合の総費用を確定できませんでした。

そのため、根拠のない予算額は提示しません。

最初に企業規模別の実施費用を調べ、必要な支援を判断するべきです。

また、制度の実効性を検証するためとはいえ、個別の通報情報をすべて国へ提出させるような仕組みは適切ではありません。

通報者や調査対象者のプライバシーを守りながら、集計できる情報と、個別に確認する必要がある情報を区別することが重要です。


2035ロードマップ

2026~2027年|改正法の施行と、内部通報体制の確認

2026年12月1日に施行される改正公益通報者保護法について、企業が適切に対応できるよう周知を進めます。

特に、フリーランスの保護対象への追加、通報妨害と通報者探索の禁止、解雇・懲戒に対する新しい規制を正確に理解してもらう必要があります。

同時に、従来から義務化されている内部通報体制が、適切に整備されているかを確認します。

2027~2029年|制度の実効性を調査する

法改正の施行後、通報対応にどのような変化があったかを調べます。

窓口の認知率。

調査開始までの時間。

是正措置の実施状況。

通報者への通知状況。

報復が疑われる事案への対応。

これらを企業規模別に確認します。

特に、法律上の体制整備義務がある300人超の事業者と、努力義務の300人以下の事業者を区別します。

2029~2031年|対応の質と独立性を検証する

内部通報制度の運用において、利益相反が適切に排除されているかを確認します。

また、通報者の秘密保持と、通報対象者の適切な手続保障が両立しているかを調べます。

制度があるにもかかわらず、従業員が通報をためらう理由が残っていないかも検証します。

2031~2033年|小規模企業への支援を改善する

大企業と中小企業では、制度運用のために確保できる人員や予算が異なります。

小規模企業が無理なく利用できる外部窓口、研修、専門家相談などについて、実施費用と効果を比較します。

必要に応じて、共同利用できる支援体制を整えます。

ただし、形式的な窓口設置を増やすことだけを目的にしません。

2033~2035年|不正を早期に修正できる組織文化へ

2035年に目指すのは、内部通報件数が多い社会ではありません。

従業員や取引先が問題を発見したとき、適切な相手へ安心して相談できる。

問題があれば、必要な調査が行われる。

不正が確認されれば、是正される。

通報した人への報復が防がれる。

そして、通報された側の権利も守られる。

こうした組織が、民間企業にも行政機関にも広がることです。


2035日本再設計白書での位置付け

今回の#070は、**第十部「日本の未来」**に位置付けます。

横断テーマは、経済、労働、法制度、消費者保護です。

#060では、国の政策を施行した後、その効果を検証する仕組みを扱いました。

#067では、政治資金の情報公開について、国民が実際に検証できる仕組みを考えました。

#069では、企業間取引の支払いを適正化する制度について、法律が変わった後の実効性を検証しました。

今回の#070は、これらの制度評価を一般論として繰り返すものではありません。

企業や行政組織の内部で問題を発見した人が、その問題を安全に伝え、適切な調査と是正につなげられるか。

この問いに絞っています。

日本の未来を考えるとき、経済成長や技術革新だけでなく、企業や行政が自ら問題を修正できる仕組みも重要だと思います。

どれほど優れた技術を持っていても、組織が不正を隠すようになれば、社会からの信頼を失います。

どれほど立派な法律を作っても、現場で守られなければ意味がありません。

組織の信頼は、問題が一切起きないことだけで生まれるのではありません。

問題が起きたときに、隠さず、調べ、修正できること。

そこにも、信頼の根拠があると考えます。


今日の提言

会社を経営する人にとって、内部通報は歓迎したいものではないかもしれません。

自分の会社に問題があると言われる。

管理職の不正が指摘される。

経営判断の誤りが明らかになる。

できれば、そんなことは起きてほしくないでしょう。

しかし、私は、内部通報があること自体を悪いことだとは思いません。

本当に恐れるべきなのは、問題を知っている人が、誰にも伝えられなくなることではないでしょうか。

検査データの改ざんを知っていた。

不正な会計処理を知っていた。

危険な製品が出荷されていることを知っていた。

それでも、何も言えなかった。

もし、そんな組織になってしまえば、問題は長期間放置される可能性があります。

そして最終的には、消費者、取引先、従業員、株主など、多くの人が損害を受けるかもしれません。

内部通報制度は、企業を攻撃するための制度ではありません。

本来は、企業自身が問題を修正するための仕組みです。

今回の法改正によって、通報者の保護が強化されることは重要です。

しかし、それだけで制度が完成するわけではありません。

私は、これからの日本では、企業に対して、

「内部通報窓口はありますか」

と尋ねるだけでなく、

「通報があったとき、どのように対応し、どのように問題を修正していますか」

と確認することが重要になると思います。

そして、その対応を検証するときには、通報者だけでなく、通報された側の権利も守る。

法律を厳しくするだけではなく、公平な調査ができる組織を増やす。

それが、2026年12月の制度改正を本当の成果につなげる道ではないでしょうか。


読者への問い

もし、あなたが会社で重大な不正を知ったとします。

その不正を放置すれば、顧客に損害が発生するかもしれません。

しかし、問題を通報すれば、自分の立場が悪くなるかもしれません。

会社には内部通報窓口があります。

法律でも、通報者は守られることになっています。

それでも、あなたは安心して通報できるでしょうか。

私は、多くの人が迷うと思います。

なぜなら、法律で守られることと、現実に不利益を受けないことは、必ずしも同じではないからです。

では、何があれば安心できるのでしょうか。

外部の専門家が通報を受け付けてくれること。

通報者の名前が守られること。

公正に調査してくれること。

通報への対応状況を知らせてくれること。

そして、通報した後も、安心して仕事を続けられること。

こうした条件が必要なのかもしれません。

一方、会社の経営者だったらどうでしょうか。

従業員から内部通報があったとき、それを会社への批判と受け止めますか。

それとも、会社の問題を早く発見する機会だと考えますか。

不正が一件も報告されない会社と、不正を発見したら適切に修正できる会社。

私たちは、どちらを信頼するべきなのでしょうか。

2026年12月の法改正をきっかけに、企業の内部通報制度について、もう一度考えてみる必要があると思います。


データ出典・参考資料

1.消費者庁「公益通報者保護法と制度の概要」

2025年6月11日公布の改正法、2026年12月1日の施行日、法定指針、指針の解説などを確認しました。

公益通報者保護法と制度の概要|消費者庁

2.消費者庁「公益通報者保護制度」

2026年9月2日の研修動画更新、6月30日の改正法対応ハンドブック公表、5月29日の制度Q&A公表などを確認しました。

公益通報者保護制度|消費者庁

3.消費者庁「民間事業者の内部通報対応―実態調査結果概要―」

2024年4月公表。調査は2023年12月と2024年3月に実施されました。

従業員300人超の事業者1,905者における内部通報制度導入率91.5%、300人以下の事業者1,488者における導入率46.9%、内部通報窓口の受付件数の分布などを確認しました。

回答は任意であり、全国の全事業者を対象とする悉皆調査ではありません。

内部通報制度の実態調査結果|消費者庁

4.政府広報オンライン「公益通報者保護法が改正。『内部通報制度』で不正をストップ!」

2026年1月9日公表。

2026年12月施行の改正法について、体制整備義務の強化、フリーランスへの保護拡大、通報妨害・通報者探索の禁止、解雇・懲戒への刑事罰などを確認しました。

公益通報者保護法改正のポイント|政府広報オンライン

5.欧州委員会「Protection for whistleblowers」

EU指令2019/1937の概要、内部・外部の通報経路、通報者の保護、2024年7月に公表された各加盟国の国内法導入状況に関する評価を確認しました。

Protection for whistleblowers|European Commission

6.EU理事会「Better protection of whistle-blowers」

2019年10月7日公表。EUの公益通報者保護指令における、通報者へのフィードバック、報復防止、保護対象の範囲などを確認しました。

Whistleblower protection|Council of the EU


資料確認上の留意事項

本稿は、2026年10月11日時点で確認できる公表資料に基づいています。

2025年改正公益通報者保護法は成立・公布済みですが、2026年12月1日の施行前です。したがって、今回の改正によって通報者への報復が実際に何件減ったのか、不正の早期発見がどの程度進んだのかについて、施行後の実績はまだありません。

また、2024年の企業調査は改正法施行前の調査であり、通報制度の導入状況や運用実態を示すものです。新法の政策効果を示すものではありません。

Japan Compass独自の提案は、既存の法制度と指針を前提に、内部通報制度の実効性を、受付・調査・是正・通報者保護の一連の過程で検証することです。

窓口の設置、秘密保持、利益相反の排除、報復の禁止など、既存制度に含まれる仕組みを新しい発明として扱うものではありません。

特に、通報件数の多寡だけで企業を評価しないこと、通報者と通報対象者の双方の権利を守ること、企業規模に応じた運用費用を検証することを重視します。


コメントを残す

Japan Compassをもっと見る

今すぐ購読し、続きを読んで、すべてのアーカイブにアクセスしましょう。

続きを読む