拘禁刑は、受刑者一人ひとりに必要な指導を届けられているか
――2025年6月施行から約1年半。24の矯正処遇課程と2026年の実績から、刑務所の役割を考える
2026年11月8日|2035日本再設計プロジェクト|司法・矯正・社会復帰編
ある刑務所に、二人の受刑者がいるとします。
一人は、若い男性です。
学校を十分に修了できず、仕事も長続きしませんでした。社会のルールを理解する力や、自分の行動を振り返る力にも課題があります。
もう一人は、高齢の男性です。
身体機能が低下し、日常生活に介助が必要になっています。刑期を終えたとしても、帰る家や生活を支える人がいないかもしれません。
二人は、異なる犯罪によって刑罰を受けています。
当然ながら、犯罪の責任を負う必要があります。
被害者がいる場合には、その被害や苦しみを軽視してはなりません。刑の執行には、法に基づく秩序と安全が求められます。
しかし、ここで一つ考えたいことがあります。
この二人に、同じ作業と同じ指導を行うことが、最も合理的なのでしょうか。
若い男性には、基礎学力を身に付ける教育や、就労に必要な技能の習得が重要になるかもしれません。
高齢の男性には、身体機能に応じた生活支援や、出所後に利用する福祉サービスとの調整が必要かもしれません。
もちろん、必要な処遇は、年齢だけで決まるわけではありません。
犯罪の内容、前歴、本人の状態、再犯の危険性、受刑期間など、複数の条件を確認する必要があります。
それでも、すべての受刑者に同じ処遇を行うことには限界があります。
日本では、この問題に対応するため、刑罰の仕組みが大きく変わりました。
2025年6月1日、従来の懲役と禁錮が廃止され、新たに拘禁刑が導入されました。
懲役では、原則として刑務作業が義務付けられていました。
一方、拘禁刑では、個々の受刑者に必要な作業や指導を、より柔軟に組み合わせられる仕組みになっています。
ただし、拘禁刑の導入によって、刑務所の刑罰としての役割がなくなったわけではありません。
刑の執行は続きます。
施設内の規律や安全を確保する必要もあります。
また、従来の刑務所でも、教育や改善指導がまったく行われていなかったわけではありません。
今回の改革は、それらの取組を一人ひとりの必要性に応じて、より柔軟に組み合わせられるようにしたことに意味があります。
では、制度が変わってから約1年半。
日本の刑務所では、実際に何が変わっているのでしょうか。
そして、一人ひとりに必要な指導を行うという法律の考え方は、現場で実現できているのでしょうか。
今日のJapan Compassでは、この問題を検証します。
Executive Summary
結論から言います。
Japan Compassは、拘禁刑の導入によって、受刑者の特性に応じた処遇を行える制度が整えられたことを評価します。
しかし、24種類の矯正処遇課程を設け、受刑者を分類できるようになったことだけで、改革が成功したとは判断できません。
重要なのは、分類された後です。
必要な教育を受けられるのでしょうか。
依存症などの問題に対して、適切な指導を受けられるのでしょうか。
高齢や障害によって日常生活に支援が必要な人には、どのような対応が行われるのでしょうか。
そして、刑期を終えて社会へ戻るとき、必要な生活基盤を確保できるのでしょうか。
まず、法務省の公表資料に基づく2026年の実績を確認します。
| 指標 | 人数・割合 | 対象と意味 |
|---|---|---|
| 2025年12月10日時点の拘禁刑受刑者 | 1,439人 | 全受刑者の4.2% |
| 2026年6月1日時点の拘禁刑受刑者 | 5,273人 | 全受刑者の15.1% |
| 2026年6月1日時点の全受刑者 | 34,875人 | 拘禁刑と旧刑の受刑者を含む |
| 矯正処遇課程の調査を終えた受刑者 | 33,572人 | 2026年6月1日時点 |
| 高齢福祉課程への指定 | 1,897人 | 上記の調査済み受刑者に含まれる |
| 知的・発達障害に対応する福祉的支援課程への指定 | 1,563人 | 同じく調査済み受刑者に含まれる |
出典:法務省公表資料(2026年6月1日時点の収容状況等)、および同資料に基づく2026年7月3日の報道。
ここで、重要な注意点があります。
高齢福祉課程の1,897人と、福祉的支援課程の1,563人は、拘禁刑受刑者5,273人だけの内訳ではありません。
新しい矯正処遇課程は、旧来の懲役・禁錮による受刑者にも適用されています。
そのため、刑名別の人数と、処遇課程別の人数を混同してはいけません。
また、拘禁刑受刑者の割合が4.2%から15.1%へ増えたことも、再犯防止に効果があったことを意味しません。
施行後に発生した事件について拘禁刑が適用され、時間の経過とともに新しい刑の受刑者が増えているという制度移行の影響があります。
現時点で確認できるのは、制度の移行と、新しい処遇の枠組みが動き始めていることです。
実際の再犯防止効果については、さらに長い期間の検証が必要です。
Japan Compassは、次の四つを提案します。
第一に、矯正処遇課程への分類と、実際に必要な教育・指導を受けられたかを区別して確認すること。
第二に、受刑者の状態に応じた処遇計画が、定期的に見直されているかを評価すること。
第三に、刑務所内の指導と、出所後の住居・就労・医療・福祉を、既存の制度を使ってつなぐこと。
第四に、再犯防止の成果を、比較できる対象者と期間を設定して検証することです。
目指すのは、犯罪をした人に対する責任を軽くすることではありません。
法に基づいて刑罰を執行しながら、再び犯罪を繰り返す危険を減らすこと。
それによって、将来の被害者を減らし、社会の安全を高めることです。
1|拘禁刑で、何が変わったのか
まず、制度の基本を整理します。
日本では、2022年に成立した刑法等の改正によって、懲役と禁錮を拘禁刑へ一本化することが決まりました。
そして、2025年6月1日に施行されました。
従来の懲役では、刑務作業が原則として義務付けられていました。
一方、禁錮では、刑務作業は刑罰の内容として義務付けられていませんでした。
拘禁刑では、この区分を一本化しました。
重要なのは、単に刑罰の名前が変わったことではありません。
受刑者に必要な作業や指導を、個別の事情に応じて組み合わせられるようにしたことです。
例えば、仕事の経験が乏しい人がいるとします。
その人には、社会で働くための技能や、継続して仕事を行うための習慣を身に付けることが重要になるかもしれません。
一方、基礎学力に課題がある人には、教育が必要になる場合があります。
また、依存症の問題を抱える人には、それに対応する専門的な指導が重要になるでしょう。
ただし、刑務所での教育や作業が、本人の希望だけで自由に選べるようになったという意味ではありません。
刑の執行と矯正処遇は、法律や施設の規律に基づいて行われます。
安全上の判断も必要です。
また、2025年6月1日より前に行われた犯罪については、原則として従来の刑法の取扱いが関係します。
そのため、現在の刑事施設では、旧来の懲役・禁錮の受刑者と、拘禁刑の受刑者が併存しています。
私は、この点が制度評価において重要だと思います。
刑務所にいる人が、すべて一斉に拘禁刑の受刑者へ切り替わったわけではありません。
また、新しい処遇課程の利用状況を確認する際には、旧刑の受刑者も含まれる場合があります。
制度の対象を正確に区別する必要があります。
2|24種類の矯正処遇課程は、何を意味するのか
拘禁刑の導入に合わせて、法務省は24種類の矯正処遇課程を設けました。
これは、受刑者の特性や必要な支援に応じて、処遇の方向を整理するための仕組みです。
例えば、高齢者に対応する課程があります。
知的障害や発達障害などに配慮する課程もあります。
依存症への対応を重視するものや、若年者に対する指導を重視するものもあります。
ただし、24種類という数が多ければ多いほど、必ずよいというわけではありません。
私は、ここで二つのことを区別したいと思います。
一つは、分類することです。
受刑者の状態を調べ、必要な処遇の方向を判断します。
これは重要な仕事です。
しかし、もう一つの段階があります。
それは、必要な処遇を実際に提供することです。
例えば、ある受刑者が、知的・発達障害に対応する福祉的支援課程へ指定されたとします。
しかし、施設内に必要な専門職が十分にいなかった場合、どうなるのでしょうか。
また、本人に合った教育や指導を実施する時間を確保できない場合も考えられます。
さらに、受刑期間が短く、必要なプログラムをすべて受けられない人がいるかもしれません。
この場合、適切な課程に分類されていても、必要な処遇が十分に提供されたとは限りません。
私は、ここに今後の検証課題があると思います。
例えば、課程へ指定された人数です。
さらに、実際にプログラムを開始した人数があります。
必要な指導を継続できた人数も重要でしょう。
途中で中断した人もいるかもしれません。
また、別の課程への変更が必要になった場合も考えられます。
これらを確認する必要があります。
ただし、すべての受刑者について、同じ課程を同じ時間数だけ実施することを目標にするべきではありません。
本人の状態や刑期が異なるからです。
重要なのは、必要性に応じた処遇が適切に行われたかということです。
24種類に分けることは、処遇を個別化するための手段です。
その分類が、実際の教育・指導・生活支援へつながっているかを確認する必要があります。
3|高齢者や障害のある受刑者には、何が必要なのか
ここで、2026年の実績をもう一度見てみます。
2026年6月1日時点で、矯正処遇課程の調査を終えた受刑者は33,572人でした。
そのうち、高齢福祉課程へ指定された人は1,897人です。
また、知的・発達障害などに対応する福祉的支援課程へ指定された人は1,563人でした。
私は、この数字から、刑務所が直面する課題の一つが見えると思います。
それは、受刑者の中に、日常生活や社会復帰に特別な支援が必要な人がいることです。
例えば、高齢で身体機能が低下している人がいるとします。
その人には、体力に応じた処遇が必要でしょう。
また、日常生活の動作に支援が必要になる場合もあります。
一方、知的障害や発達障害がある人については、本人が理解しやすい方法で指導する必要がある場合があります。
ただし、障害があることと、犯罪を行うことを安易に結び付けてはいけません。
障害のある人の大多数が犯罪を行うわけではありません。
また、障害の種類だけで再犯の危険性を判断することも適切ではありません。
必要なのは、個別の評価です。
例えば、説明を理解するために、短い文章や具体的な図が役立つ場合があります。
また、複数の情報を一度に伝えるより、順序を分けて説明する方が適切な人もいるでしょう。
こうした配慮が必要な場合、受刑者本人の努力だけでは解決できないことがあります。
専門的な知識を持つ職員が必要になる場合もあるのです。
そして、もう一つ重要なことがあります。
それは、刑務所を出た後です。
例えば、認知症や身体障害によって、自立した生活が難しい高齢者がいるとします。
刑期を終えても、住む場所が確保できなければ、生活は安定しません。
必要な医療や介護を利用できない場合もあるでしょう。
もちろん、こうしたことが直ちに再犯につながると断定することはできません。
しかし、生活上の困難を減らすことには意味があります。
私は、刑務所の内部での処遇と、出所後の生活を分けずに考える必要があると思います。
ただし、支援が必要な人へ、すべて同じ制度を利用させるべきではありません。
本人の状況や意思に応じて、必要な支援を判断することが重要です。
4|制度が変わっても、現場の人員が足りなければどうなるのか
ここで、刑務所の職員について考えます。
拘禁刑では、個々の受刑者の特性に応じた処遇が重視されています。
そのため、従来以上に、受刑者の状態を把握することが重要になる場合があります。
例えば、教育です。
本人の学力や理解の程度を確認する必要があります。
依存症への指導では、専門的な知識が必要になるでしょう。
また、高齢者や障害のある人への対応には、医療や福祉の専門性が求められる場合もあります。
しかし、刑務所には、本来の重要な仕事があります。
施設内の安全を守ることです。
受刑者の収容管理を行うことです。
規律を維持する必要もあります。
こうした仕事を続けながら、個別の教育や指導を充実させる必要があります。
2025年9月2日の法務大臣記者会見でも、拘禁刑に対応した処遇をさらに充実させるため、刑務官や専門スタッフなどの職員体制の整備と、職員の能力向上が重要であると説明されています。
つまり、政府自身も、制度を導入しただけでは十分ではなく、人員と専門性の確保が必要だと認識しているのです。
私は、ここで重要なのは、単に職員数を増やすことではないと思います。
例えば、どの仕事に、どのような専門性が必要なのかを確認することです。
施設内の安全管理を担う職員がいます。
教育を担当する職員も必要です。
心理的な課題に対応する専門家が関わる場合もあるでしょう。
さらに、出所後の福祉制度との調整を担う人も必要になる場合があります。
こうした仕事を、すべて一人の職員へ任せることが合理的とは限りません。
しかし、専門職を無制限に増やせばよいというものでもありません。
国の財源には限りがあるからです。
だからこそ、私は、どの施設で、どの処遇が不足しているのかを確認する必要があると思います。
必要な教育プログラムが不足しているのでしょうか。
専門職の数が足りないのでしょうか。
あるいは、施設間の連携に問題があるのでしょうか。
原因が異なれば、必要な改善も異なります。
法律が柔軟な処遇を認めたことと、現場が柔軟な処遇を実施できることは、同じではありません。
この違いを、政策評価で確認する必要があります。
5|再犯を減らすことは、どのように確認できるのか
ここで、拘禁刑の目的に関わる重要な問題があります。
それは、再犯防止です。
例えば、ある受刑者が、刑務所内で教育を受けたとします。
基礎学力が向上しました。
資格を取得したかもしれません。
さらに、自分の犯罪行為について振り返るための指導も受けました。
これは、重要な成果です。
しかし、ここで考えたいことがあります。
その人は、刑務所を出た後、どうなったのでしょうか。
仕事に就くことができたのでしょうか。
生活を安定させられたのでしょうか。
そして、再び犯罪を行わずに生活できているのでしょうか。
こうしたことを確認する必要があります。
しかし、再犯防止の成果を測定することは、簡単ではありません。
例えば、2025年の改正前と、2026年の改正後を比較する場合です。
私は、単純に二つの数字を比較するべきではないと思います。
なぜなら、対象となる人が異なる可能性があるからです。
犯罪の種類が違います。
年齢も異なります。
前歴の有無も関係します。
さらに、刑務所にいた期間や、出所後の生活環境も違うでしょう。
例えば、刑期が短い人と長い人では、受けられる指導の期間が異なります。
また、出所後に家族の支援を受けられる人と、住む場所がない人でも、条件が異なるでしょう。
そのため、再犯の有無だけを比べて、拘禁刑の効果を判断することは難しいのです。
さらに、「再犯率」という言葉にも注意が必要です。
日本の犯罪白書では、刑法犯の検挙人員に占める再犯者の割合を示す指標があります。
しかし、これは、刑務所を出た人のうち何%が再び犯罪を行ったかという数字ではありません。
また、再び警察に検挙されたことと、再び刑務所へ入ったことも異なります。
再犯の定義と追跡期間によって、数字は変わります。
だからこそ、拘禁刑の効果を確認するためには、対象者を明確にする必要があります。
例えば、拘禁刑を受けた後に出所した人を、一定の期間追跡する方法があります。
その際には、年齢や前歴、罪種、刑期などの違いを考慮する必要があります。
また、教育や指導を受けた人と受けていない人を比較する場合にも、もともとの状態が異なる可能性を考えなければなりません。
指導を受けた人の再犯が少なかったとしても、それだけで指導の効果が証明されたとは限りません。
逆に、再犯が発生したからといって、すべての指導が無意味だったともいえません。
私は、こうした違いを慎重に確認することが重要だと思います。
また、再犯防止の成果を測る際には、犯罪被害者の視点も忘れてはいけません。
目指すのは、刑務所の統計を改善することではありません。
将来の犯罪と被害を減らすことです。
6|出所後の生活支援は、既に制度がある
ここで、もう一つ重要なことを確認します。
日本には、刑務所を出た人の社会復帰を支える制度が既に存在しています。
例えば、更生保護制度です。
また、保護観察所による生活環境の調整があります。
さらに、就労を支える協力雇用主の制度もあります。
厚生労働省には、矯正施設から退所する人のうち、福祉的な支援が必要な高齢者や障害者などを対象とした「地域生活定着促進事業」があります。
この事業では、地域生活定着支援センターなどが関係機関と連携し、地域での生活を支えるための調整を行っています。
これは2009年度から取り組まれてきた既存の事業です。
今回のJapan Compassが新しく創設する制度ではありません。
ここで考えたいのは、刑務所内の処遇と、出所後の支援との接続です。
例えば、高齢の受刑者がいるとします。
刑務所内では、本人の状態に応じた指導や生活支援が行われています。
しかし、出所後に必要な介護サービスが利用できなければ、生活上の困難が残ります。
また、就労を希望している人がいる場合です。
刑務所内で技能を身に付けたとしても、仕事を探すための支援が必要になる場合があります。
ただし、就職を希望する人すべてについて、国が雇用を保証することは現実的ではありません。
また、民間企業へ、出所者を雇用することを無条件に義務付けるべきでもないでしょう。
企業には、労働環境や安全を守る責任があります。
従業員や取引先への配慮も必要です。
そのため、就労支援は、既存の雇用支援制度や協力雇用主の仕組みを活用しながら、個別に判断する必要があります。
一方、本人が働くことを難しいとする状態であれば、就労だけを社会復帰の成功指標にするべきではありません。
医療や福祉を利用しながら、安定した生活を送ることが重要になる場合もあります。
私は、ここで重要なのは、刑務所内で必要だと判断された支援が、出所によって突然途切れないようにすることだと思います。
もちろん、刑務所内の情報を、そのまま地域の関係者へ自由に共有するべきではありません。
犯罪歴や健康情報など、慎重な取扱いが必要な情報が含まれるからです。
必要な法的根拠や本人の同意、情報の利用目的を確認することが重要です。
また、社会復帰の支援を受けることが、刑期を延長する理由になってはなりません。
刑罰の執行と、出所後の生活支援は、役割を区別しながら連携させる必要があります。
7|海外事例:英国は刑務所教育の参加者と成果を分けて公表している
海外の取組も参考になります。
英国では、刑務所内の教育について、参加状況や学習の成果を統計として公表しています。
2025年9月25日、英国司法省は、2024年度に当たる2024年4月から2025年3月までの刑務所教育統計を公表しました。
この統計では、イングランドの公営刑務所について、教育講座へ参加した受刑者が55,105人、少なくとも一つの講座で達成結果を得た受刑者が49,135人と報告されています。
ただし、この二つの数字を単純に割って、教育の成功率とするべきではありません。
講座への参加と、学習成果の達成では、集計の考え方が異なるからです。
また、講座の修了や学習目標の達成が、そのまま再犯防止の効果を意味するわけでもありません。
さらに、この統計の教育部分は、イングランドの公営刑務所を対象としています。
英国全体のすべての刑務所について、同じ範囲で集計した数字ではありません。
私は、こうした違いを明確にした上で、参考にしたいと思います。
英国の取組から考えたいのは、教育を受けた人数と、学習の成果を分けて確認するという考え方です。
例えば、ある受刑者が教育講座へ参加したとします。
それは、重要な最初の段階です。
しかし、その人が必要な知識を身に付けられたかどうかは、別の問題です。
さらに、出所後に、その知識を実際の生活で利用できたかどうかも確認する必要があります。
つまり、評価には段階があるのです。
参加したこと。学習したこと。必要な能力が向上したこと。そして、出所後の生活で役立ったこと。
これらを区別して考える必要があります。
ただし、日本と英国では、刑務所制度や受刑者の構成が異なります。
また、社会保障制度や雇用市場も違います。
そのため、英国の教育参加人数を日本の人数と単純に比較して、どちらが優れていると判断することはできません。
私は、日本で参考にするべきなのは、人数の多さではないと思います。
教育や指導が、実際にどのような段階まで進んだかを確認することです。
8|賛否:刑務所で教育や福祉を充実させる必要があるのか
ここで、二つの考え方があります。
一つは、受刑者への教育や社会復帰支援を充実させるべきだという意見です。
私は、この考え方には合理性があると思います。
なぜなら、刑務所から出た人の多くは、やがて社会へ戻るからです。
その際に、必要な知識や技能を身に付け、安定した生活を送れることには意味があります。
また、再犯を減らすことができれば、将来の犯罪被害を防ぐことにつながる可能性があります。
一方、慎重な意見もあります。
例えば、犯罪によって被害を受けた人がいる場合です。
被害者は、身体的、精神的、経済的な苦しみを抱えているかもしれません。
そのような中で、受刑者への教育や福祉に多くの公費を投入することについて、疑問を持つ人もいるでしょう。
私は、この疑問を軽視するべきではないと思います。
犯罪被害者への支援は重要です。
被害の回復や、再び被害を受けないための安全確保も必要です。
そのため、受刑者の処遇改善を進めることによって、犯罪被害者支援を後回しにするべきではありません。
また、受刑者への支援が、犯罪の責任を軽く扱うことになってはならないでしょう。
一方、刑罰の厳しさだけを重視し、改善更生の機会を十分に与えなければ、出所後の問題が残る可能性があります。
ここで重要なのは、刑罰と社会復帰支援を対立するものとして考えないことです。
刑罰は、法律に基づいて執行されます。
その中で、必要な教育や指導を行います。
そして、出所後の再犯を減らすことを目指します。
ただし、どのような処遇が効果的かについては、実際のデータを確認する必要があります。
例えば、教育を受けたことによって、どの程度再犯の危険を減らせたのでしょうか。
また、そのために必要な費用はいくらだったのでしょうか。
さらに、施設の安全や職員の負担に、どのような影響があったのでしょうか。
私は、こうしたことを検証する必要があると思います。
犯罪をした人の責任を明確にすることと、将来の犯罪を減らすための処遇を行うこと。
この二つは、両立させるべき課題です。
Japan Compass政策提案
24の処遇課程を、実際の改善更生につなげる
今回の提案では、拘禁刑を新しく創設することを求めません。
既に2025年6月1日に施行されています。
また、24種類の矯正処遇課程も設けられています。
更生保護制度や協力雇用主、地域生活定着促進事業も既存の仕組みです。
今回必要なのは、それらの制度が実際に機能しているかを検証することだと思います。
提案①|分類と実際の処遇を分けて確認する
第一に、矯正処遇課程への分類と、実際のプログラムの提供を区別します。
例えば、ある受刑者が教育を重視する課程へ指定されたとします。
その後、必要な教育を受けられたのでしょうか。
開始までに、どの程度の時間が必要だったのでしょうか。
途中で中断した場合には、どのような理由があったのでしょうか。
また、本人の状態が変化し、別の処遇が必要になった場合には、適切に対応できたのでしょうか。
こうしたことを確認します。
ただし、すべての受刑者について、同じ指導時間を義務付けるべきではありません。
処遇の必要性が異なるからです。
また、受刑者個人の詳細な情報を一般公開するべきでもありません。
犯罪歴や健康情報など、高い機密性が求められる情報があるからです。
そのため、政策評価では、個人を特定できない集計情報を中心に扱うことが考えられます。
何人を分類したかだけでなく、必要な処遇を何人に提供できたか。
これを第一の提案とします。
提案②|一人ひとりの処遇計画を定期的に見直す
第二に、個別の処遇計画です。
例えば、受刑者が入所した際に、必要な教育や指導が判断されたとします。
しかし、刑務所で生活する中で、本人の状況が変化する場合があります。
学力が向上するかもしれません。
必要な技能を身に付ける場合もあるでしょう。
一方、健康状態が悪化する可能性もあります。
また、最初に予定していた指導が、本人に適していないと分かる場合も考えられます。
そのため、処遇計画を一度作成した後、そのまま固定することが合理的とは限りません。
私は、必要に応じて計画を見直すことが重要だと思います。
ただし、形式的な面談や書類の更新を増やすことが目的ではありません。
職員の負担が大きくなれば、実際の指導に使える時間が減る可能性があります。
そのため、既存の処遇記録を活用しながら、必要な変更を確認できる方法が合理的でしょう。
個別化とは、最初に一人ひとりを分類することだけではありません。
その後の変化に対応することも重要です。
提案③|刑務所内の指導と、出所後の支援を接続する
第三に、出所後の生活です。
例えば、刑務所内で就労に必要な技能を身に付けた人がいるとします。
しかし、出所後に仕事を探す方法が分からなければ、学んだ技能を利用できないかもしれません。
また、高齢や障害によって生活支援が必要な人がいる場合には、地域の医療や福祉サービスにつながることが重要です。
ただし、今回新しく全国的な福祉支援機関を設立することは提案しません。
日本には、既に保護観察所や地域生活定着支援センターなどがあります。
必要なのは、既存の制度を適切に活用することです。
例えば、出所が近づいた段階で、住居や必要な支援先について確認します。
必要な場合には、関係機関と調整します。
また、本人が支援を希望する場合には、利用可能な制度を説明します。
ただし、出所後の生活支援を、刑期の延長や新たな義務として扱うべきではありません。
個人情報の共有についても、法的な条件を確認する必要があります。
さらに、地域住民や民間企業の善意を、当然の義務として扱うことも避けるべきでしょう。
刑務所の中で行った指導が、出所と同時に無意味にならないようにすること。
これを第三の提案とします。
提案④|再犯防止の成果を、比較できる方法で評価する
第四に、政策評価です。
私は、今回の提案で、ここを特に重視したいと思います。
例えば、拘禁刑による処遇を受けた人について、再び犯罪を行ったかを確認するとします。
その場合、いつから、どの程度の期間を追跡するのでしょうか。
出所後1年間でしょうか。
2年間でしょうか。
さらに長い期間でしょうか。
また、何を再犯と定義するのでしょうか。
再び警察に検挙されたことですか。
有罪判決を受けたことでしょうか。
再び刑務所へ入ったことでしょうか。
それぞれ、異なる指標です。
私は、こうした違いを明確にする必要があると思います。
さらに、拘禁刑を受けた人と、旧来の懲役を受けた人を比較する場合には、対象者の違いを考慮する必要があります。
例えば、年齢です。
罪種です。
前歴も重要です。
刑期や帰住先の状況も関係するでしょう。
また、刑務所内で受けた教育や指導の種類も異なります。
そのため、単純な再犯率の比較だけで、制度の効果を判断するべきではありません。
さらに、刑務所内での学習成果や、出所後の生活状況なども、必要に応じて確認します。
ただし、仕事に就いたかどうかだけで、社会復帰を成功・失敗に分けることは適切ではありません。
高齢者や障害のある人など、就労以外の生活上の目標が重要になる場合もあるからです。
制度を導入したことではなく、将来の犯罪被害を減らすという目的に、実際に近づいているか。
これを第四の提案とします。
財源・実施主体・制約
今回の政策提案を実施する場合、中心となるのは法務省です。
刑事施設では、施設の管理と受刑者の矯正処遇を行います。
また、出所後の生活では、保護観察所などの更生保護機関が重要な役割を担います。
高齢者や障害のある人への福祉的支援については、厚生労働省の制度や地方自治体、地域生活定着支援センターなどが関係します。
さらに、就労支援では、協力雇用主などの民間事業者が協力する場合があります。
ただし、すべての仕事を一つの機関に集約するべきではありません。
刑罰の執行には、刑事施設の責任があります。
保護観察には、法律に基づく別の役割があります。
そして、医療や福祉には、それぞれの専門性と制度があります。
これらを区別しながら、必要な連携を進めることが重要です。
ここで、財源について考えます。
個別の処遇を充実させる場合には、費用が必要です。
例えば、教育です。
必要な教材や指導者が関係します。
専門的な心理指導が必要な場合には、その人材も重要です。
また、高齢者や障害のある人への対応には、医療・福祉の専門的な知識が必要になる場合があります。
さらに、出所後の生活環境を調整するためには、関係機関との連絡や調整に時間がかかります。
ただし、今回確認できた2026年の公表資料だけでは、拘禁刑の導入に伴う全国の追加費用を、正確に算定することはできません。
例えば、施設ごとに職員の配置が異なります。
処遇課程の対象者数も違うでしょう。
また、必要な教育や指導の内容も異なります。
そのため、受刑者一人当たりに一律の費用を掛けるだけでは、必要な予算を判断できません。
私は、ここでまず既存の費用を確認する必要があると思います。
例えば、各施設でどのような教育や指導が行われているのでしょうか。
そのために、どの程度の職員時間が使われているのでしょうか。
さらに、外部の専門家が必要な場合には、どのような費用が発生しているのでしょうか。
こうしたことです。
また、職員の負担についても確認する必要があります。
新しい処遇を増やした結果、施設の安全管理が不十分になってはなりません。
逆に、書類の作成だけが増え、実際の指導に使える時間が減ることも避けるべきでしょう。
そのため、既存の業務を見直しながら、必要な専門性を確保することが重要です。
さらに、公的資金を投入する場合には、犯罪被害者支援との関係も考えなければなりません。
私は、受刑者の改善更生を支援することと、被害者への支援を充実させることを、単純な二者択一として考えるべきではないと思います。
ただし、限られた財源の中では、優先順位の判断が必要です。
だからこそ、それぞれの制度が何を目的とし、どのような効果を持つのかを確認する必要があります。
また、出所後の支援では、本人の個人情報を適切に保護する必要があります。
支援を提供するために必要な情報と、共有する必要のない情報を区別するべきでしょう。
さらに、受刑者の特性や障害に応じた処遇を行う場合にも、差別や不当な取扱いを避ける必要があります。
刑罰の適正な執行、被害者の権利、受刑者の人権、職員の安全、そして財政負担。
これらを同時に考えることが、今回の政策提案の重要な条件です。
2035ロードマップ
2026~2027年|新しい処遇の実施状況を確認する
まず、2026年6月1日時点の法務省資料を基準に、拘禁刑の受刑者と、旧来の懲役・禁錮の受刑者を区別して状況を確認します。
また、24種類の矯正処遇課程について、どのような人が対象となり、実際にどのような指導が行われているのかを整理します。
ただし、個々の受刑者の詳細な情報を一般公開することは求めません。
必要なのは、制度の実施状況を把握できる集計情報です。
さらに、各施設で必要な専門職や教育体制について、どのような課題があるのかを確認します。
2027~2029年|必要な教育・指導を提供できる体制を整える
次に、矯正処遇課程に基づく教育や指導について、実際の提供状況を確認します。
例えば、必要な教育を受けるまでに時間がかかっている場合です。
その原因は何でしょうか。
専門職が不足しているのでしょうか。
施設の設備に制約があるのでしょうか。
あるいは、受刑期間との調整が難しいのでしょうか。
こうした原因を確認した上で、必要な改善を進めます。
ただし、すべての施設へ同じ人員配置を求めることは前提にしません。
対象者の状態や施設の役割が異なるからです。
2029~2031年|出所後の生活支援との接続を確認する
次に、刑務所内の指導と、出所後の生活について確認します。
例えば、就労を希望する人が、必要な支援を利用できるでしょうか。
また、高齢者や障害のある人について、地域の医療や福祉へ適切につながれているでしょうか。
ただし、すべての出所者に対して、同じ支援を義務付けるわけではありません。
本人の状況と必要性に応じて判断することが重要です。
さらに、関係機関の間で情報を共有する場合には、法的な条件と個人情報の保護を確認します。
2031~2033年|再犯防止の効果を検証する
さらに、拘禁刑による処遇を受けた人について、中長期的な状況を確認します。
例えば、出所後の再犯です。
ただし、検挙されたことと再び刑務所へ入ったことは、別の指標です。
また、追跡期間によって数字も変わるため、対象を明確にする必要があります。
さらに、受刑者の年齢や前歴、罪種、刑期などの違いを考慮することも重要です。
一方、再犯の有無だけで、すべての処遇を評価するべきではありません。
学習成果や、出所後に必要な支援を利用できたかなども確認する必要があります。
ただし、これらの成果が拘禁刑の導入によって生まれたかどうかは、慎重に判断します。
2033~2035年|刑罰の執行と再犯防止を両立する
2035年に目指したいのは、刑務所で行う教育や指導の件数を増やすことだけではありません。
犯罪をした人が、法律に基づいて責任を負うこと。
その中で、必要な改善更生の機会が提供されること。
そして、社会へ戻った後、再び犯罪を繰り返す危険を減らすこと。
そのような仕組みを目指したいと思います。
もちろん、すべての再犯を防ぐことはできないかもしれません。
しかし、必要な処遇を実施し、その効果を検証することには意味があります。
刑罰を執行する制度から、刑罰の執行と社会の安全を継続的に検証できる制度へ。
その実現を、2035年の日本に向けた課題として考えます。
2035日本再設計白書での位置付け
今回の#098は、第十部「日本の未来」に位置付けます。
関連する横断テーマは、司法、治安、教育、医療、福祉、財政です。
これまでのJapan Compassでは、司法や行政への信頼に関わる複数の問題を扱ってきました。
#019では、犯罪や不法滞在、在留資格の悪用などを検証しました。
#042では、所得急減や生活保障、孤立の問題を扱いました。
#048では、不起訴処分の理由をどこまで説明できるのかを考えました。
#060では、制度を導入した後、その効果をどう検証するかを扱いました。
#079では、法的な支援へアクセスするための費用を考えました。
#089では、研究不正の疑いに関する公正な調査を検証しました。
そして、#093では、税務署の処分に不服がある場合の救済制度を扱っています。
今回の#098は、それらとは異なる問題です。
犯罪の発生件数を比較するものではありません。
検察による不起訴の判断を再検証するものでもありません。
また、裁判を受けるまでの手続や、行政処分への不服申立てを扱うものでもありません。
刑罰が確定し、刑務所で刑が執行される段階で、どのような処遇を行い、再犯防止につなげるべきかという問題です。
私は、これを日本の司法制度への信頼に関わる重要な各論だと思います。
犯罪をした人には、法律に基づいて責任を負ってもらう必要があります。
一方、刑期を終えて社会へ戻る人については、再び犯罪を繰り返さないために必要な対応を考えることも重要です。
もちろん、受刑者への教育や福祉を充実させることが、直ちに再犯を減らすとは限りません。
そのため、実際の効果を確認する必要があります。
また、犯罪被害者の権利や安全を軽視するべきでもありません。
私は、刑罰の正当性と再犯防止の実効性を、両方とも確認できる司法制度が重要だと考えます。
第十部「日本の未来」では、こうした制度への信頼を、抽象的な理念だけでなく、具体的な運用から検証していきたいと思います。
今日の提言
私は、今回の拘禁刑について考えながら、一つ大切なことがあると思いました。
それは、刑罰の目的を考えることと、犯罪の責任を軽くすることは、同じではないということです。
例えば、ある人が犯罪を行ったとします。
被害者がいる場合には、深い苦しみを抱えているかもしれません。
失われたものは、簡単に元へ戻せないでしょう。
その人には、法律に基づいて責任を負ってもらう必要があります。
私は、これは当然のことだと思います。
しかし、同時に考えたいことがあります。
その人が、刑期を終えて社会へ戻った後のことです。
もし、何も変わらずに社会へ戻り、再び犯罪を繰り返したとしたら、どうなるでしょうか。
新しい被害者が生まれる可能性があります。
そのような事態を、できるだけ防ぐ必要があります。
だからこそ、刑務所で何を行うのかが重要なのだと思います。
ここで、拘禁刑の考え方があります。
従来の懲役では、原則として刑務作業が義務付けられていました。
一方、拘禁刑では、個々の受刑者の特性に応じて、必要な作業と指導を柔軟に組み合わせられるようになりました。
私は、この改革には意味があると思います。
例えば、学校教育を十分に受けられなかった人がいるとします。
その人には、学習の機会が必要かもしれません。
また、依存症の問題を抱えている人には、専門的な指導が重要になる場合があります。
高齢や障害によって、生活上の支援が必要な人もいるでしょう。
こうした人たちへ、すべて同じ処遇を行うことが、最も合理的とは限りません。
しかし、私はここで、制度を作ったことだけで安心するべきではないと思います。
2026年6月1日時点で、拘禁刑の受刑者は5,273人でした。
また、24種類の矯正処遇課程が設けられています。
これは、新しい制度が動き始めていることを示しています。
しかし、ここで確認したいことがあります。
必要な教育や指導は、実際に提供されているのでしょうか。
例えば、本人に適した課程へ指定されても、専門職が不足していたらどうなるでしょうか。
また、教育を受けるまでに長い時間が必要になる場合もあるかもしれません。
さらに、本人の状況が変わったとき、処遇を見直すことができるのでしょうか。
私は、こうしたことを確認する必要があると思います。
ただし、刑務所職員の仕事は、教育や指導だけではありません。
施設の安全を守る必要があります。
受刑者の収容管理もあります。
規律を維持する責任もあります。
そのため、新しい処遇を進める場合には、職員の負担や専門性も考える必要があります。
私は、単に新しい制度を増やすことで解決するべきだとは思いません。
日本には、既に多くの制度があります。
必要なのは、その制度を実際に機能させることです。
そして、もう一つ大切なことがあります。
それは、刑務所を出た後です。
例えば、刑務所内で就労に必要な技能を身に付けたとします。
しかし、出所後に仕事を探す方法が分からなければ、その技能を生かすことが難しいかもしれません。
また、高齢で介護が必要な人がいるとします。
刑務所内で適切な対応を受けていたとしても、出所後に必要な福祉サービスへつながれなければ、生活上の問題が残ります。
私は、この部分を考える必要があると思います。
もちろん、すべての出所者へ国が仕事や住居を保証することは、簡単ではありません。
また、民間企業や地域住民へ、支援を義務付けるべきでもないでしょう。
しかし、日本には、更生保護や地域生活定着促進事業などの既存制度があります。
そのため、必要な人が利用できる制度へ適切につながることが重要です。
私は、ここで刑務所の役割を、社会から切り離して考えるべきではないと思います。
刑務所は、刑罰を執行する場所です。
しかし、多くの受刑者は、やがて社会へ戻ります。
そのため、社会復帰の可能性を考えた処遇には意味があります。
そして、最後にもう一つ重要なことがあります。
それは、再犯防止の成果です。
例えば、拘禁刑の導入後に、再犯が減少したとします。
その場合、拘禁刑の効果があったと判断できるのでしょうか。
私は、慎重に考える必要があると思います。
犯罪の種類が変化した可能性があります。
受刑者の年齢構成も違うかもしれません。
刑期の長さも関係します。
さらに、社会の経済状況や雇用環境なども、再犯に影響する可能性があります。
そのため、制度の導入前後を単純に比較するだけでは、正確な判断ができません。
私は、必要な条件をそろえ、一定の期間を追跡して評価することが重要だと思います。
また、教育を受けた人の再犯が少なかったとしても、それだけで教育の効果が証明されたとは限りません。
もともとの状態が異なる可能性もあるからです。
だからこそ、政策の効果を慎重に確認する必要があります。
一方、私は、再犯率の数字だけで、すべての処遇を評価するべきではないとも思います。
例えば、高齢者が必要な福祉へつながり、安定した生活を送れるようになった場合です。
それには重要な意味があります。
また、教育を通じて学力が向上した人もいるでしょう。
必要な技能を身に付けた人もいるかもしれません。
こうした成果を確認することも重要です。
ただし、最終的に目指すのは、刑務所内での学習成果を増やすことだけではありません。
私は、将来の犯罪被害を減らすことが重要だと思います。
そのためには、犯罪を行った人の責任を明確にする必要があります。
同時に、再び犯罪を繰り返さないための処遇も考える必要があります。
さらに、犯罪被害者への支援も重要です。
私は、これらを対立するものとして扱うべきではないと思います。
2035年の日本では、人口構成も変化しているでしょう。
高齢化が進んでいる可能性があります。
地域によっては、福祉や医療の担い手が不足しているかもしれません。
そのような社会で、刑務所から出た人の社会復帰をどう支えるのかという問題も、現在より難しくなる可能性があります。
だからこそ、私は、今の段階から制度の実効性を確認する必要があると思います。
必要な刑罰を、法律に基づいて執行する。
受刑者一人ひとりに、必要な教育や指導を行う。
そして、再び犯罪を繰り返す危険を減らし、将来の被害者を減らす。
この三つを、同じ政策の中で考える必要があります。
私は、それが拘禁刑の導入後に、日本が検証していくべき重要な課題だと思います。
読者への問い
最後に、少し想像してみてください。
あなたが、ある刑務所の運営について考える立場だったとします。
その刑務所には、さまざまな受刑者がいます。
若い人がいます。
高齢者もいます。
仕事の経験が乏しい人もいるでしょう。
また、特別な教育や福祉的支援が必要な人もいるかもしれません。
一方、刑務所には、限られた職員と予算しかありません。
施設内の安全も守る必要があります。
そのような中で、あなたなら何を優先するでしょうか。
すべての受刑者へ同じ作業を行わせる方が、管理しやすいかもしれません。
一方、個々の受刑者に適した教育や指導を行えば、再犯を減らせる可能性もあります。
しかし、そのためには専門職や教育の時間が必要です。
また、指導の成果を確認することも必要になるでしょう。
さらに、刑務所を出た後の問題があります。
例えば、高齢で生活支援が必要な人がいるとします。
その人が刑期を終えたとき、住居や福祉サービスへつながれなければ、生活が難しくなる可能性があります。
そのような場合、どこまで刑務所が関わるべきでしょうか。
また、どこから先を更生保護や地域の福祉制度が担うべきなのでしょうか。
私は、役割を明確にすることが重要だと思います。
そして、最後に読者の皆さんへ質問があります。
あなたは、刑務所の役割について、刑罰を適切に執行することと、再犯を防ぐための教育・指導を行うことを、どのように両立させるべきだと思いますか。
また、教育や指導を充実させるために公費を投入する場合、どのような成果を確認するべきでしょうか。
教育を受けた人数でしょうか。
資格を取得した人数でしょうか。
それとも、出所後の生活や再犯の状況でしょうか。
私は、どれか一つだけで判断するべきではないと思います。
必要な指導が実際に行われたかを確認すること。
そして、その指導が社会復帰や再犯防止へどのようにつながったかを検証すること。
両方が必要です。
刑罰を終えた人が、再び犯罪を繰り返さない社会を、どう実現するか。
そして、そのための制度が本当に機能しているかを、どう確かめるか。
それが、今日のJapan Compassの問いです。
データ出典・参考資料
1.法務省「拘禁刑下の矯正処遇等について」
2026年11月8日時点の掲載内容。資料基準日:2026年6月1日、2026年9月18日。
2025年6月1日の拘禁刑導入、受刑者の特性に応じた処遇、刑名別・矯正処遇課程別の状況に関する法務省の公表資料です。
2026年6月1日時点の収容状況と、2026年9月18日時点の制度運用資料が掲載されています。
https://www.moj.go.jp/kyousei1/kyousei05_00164.html
2.法務省「令和7年5月30日 法務大臣記者会見」
2025年5月30日公表。
拘禁刑が2025年6月1日に施行されること、懲役と禁錮の一本化、作業と指導の柔軟な組合せ、改善更生と円滑な社会復帰という制度の目的を参照しています。
https://www.moj.go.jp/hisho/kouhou/hisho08_00621.html
3.法務省「令和7年9月2日 法務大臣記者会見」
2025年9月2日公表。
24種類の矯正処遇課程に基づく処遇、刑務官や専門スタッフの職員体制、職員の能力向上など、制度運用上の課題を参照しています。
https://www.moj.go.jp/hisho/kouhou/hisho08_00644.html
4.弁護士ドットコムニュース「新刑罰『拘禁刑』導入1年、受刑者は5200人超」
2026年7月3日公表。法務省公表資料に基づく報道。
2026年6月1日時点の拘禁刑受刑者5,273人、全受刑者34,875人、割合15.1%を参照しています。
また、矯正処遇課程の調査を終えた受刑者33,572人、高齢福祉課程1,897人、知的・発達障害に対応する福祉的支援課程1,563人の根拠資料です。
課程別人数は、拘禁刑受刑者だけの内訳ではありません。
https://www.bengo4.com/c_1009/n_20602/
5.法務省「令和7年版 犯罪白書」
2025年12月19日公表。
犯罪の動向、犯罪者の処遇、再犯・再非行などに関する公的資料です。
再犯に関する統計では、対象者の定義や追跡期間が指標によって異なります。
本稿では、刑法犯検挙人員に占める再犯者の割合を、拘禁刑受刑者の出所後再犯率として扱っていません。
https://www.moj.go.jp/housouken/housouken03_00145.html
6.厚生労働省「矯正施設退所者の地域生活定着支援」
2026年11月8日時点の掲載内容。
地域生活定着促進事業、地域生活定着支援センター、高齢者や障害者などへの福祉的支援、関係機関との連携を参照しています。
これらは既存の取組であり、新たに創設する制度として扱っていません。
7.法務省「協力雇用主」
2026年11月8日時点の掲載内容。
刑務所出所者等の就労に協力する民間事業主の仕組みと、保護観察所などによる支援を参照しています。
本稿では、民間企業へ出所者の雇用を義務付ける制度として扱っていません。
https://www.moj.go.jp/hogo1/soumu/hogo02_00030.html
8.英国司法省「Prison Education and Accredited Programme Statistics 2024 to 2025」
2025年9月25日公表。対象期間:2024年4月~2025年3月。
イングランドの公営刑務所における教育講座の参加状況と学習成果を参照しています。
講座参加者55,105人、何らかの講座で達成結果を得た受刑者49,135人という実績の根拠資料です。
ただし、学習成果を再犯防止効果と同一視していません。また、日本の受刑者数との単純比較も行っていません。
9.Japan Compass 関連過去記事
今回の#098では、犯罪・在留管理、生活保障、不起訴処分の理由、政策の施行後評価、法律扶助、研究不正の調査、国税不服申立てといった過去号のテーマを繰り返さず、2025年6月施行の拘禁刑と、2026年時点の矯正処遇の実施状況に焦点を絞りました。
Japan Compass #019「外国人犯罪・不法滞在・在留資格悪用」
https://japancompass.jp/2026/08/21/japan-compass019/
Japan Compass #042「2035 日本の『生活保障』再設計」
https://japancompass.jp/2026/09/13/japan-compass042/
Japan Compass #048「『不起訴』の理由は、どこまで見えるのか」
https://japancompass.jp/2026/09/19/japan-compass048/
Japan Compass #060「制度は、作った後に『効いたか』まで検証できているか」
https://japancompass.jp/2026/10/01/japan-compass060/
Japan Compass #079「弁護士費用を『立て替える』だけで、法的支援は届くのか」
https://japancompass.jp/2026/10/20/japan-compass-079/
Japan Compass #089「研究不正の疑いが出たとき、証拠と研究者の権利をどう守るか」
https://japancompass.jp/2026/10/30/japan-compass-089/
Japan Compass #093「税務署の処分に不服があるとき、3か月以内に救済へ進めるか」
https://japancompass.jp/2026/11/03/japan-compass-093/
資料確認上の留意事項
本稿は、2026年11月8日時点で確認できる法務省、厚生労働省、英国司法省などの公表資料に基づいています。
2026年6月1日時点の拘禁刑受刑者5,273人は、同日時点の全受刑者34,875人の15.1%です。
一方、矯正処遇課程の調査済み受刑者33,572人には、旧来の懲役・禁錮の受刑者も含まれます。
そのため、処遇課程別人数を拘禁刑受刑者の内訳として扱うことはできません。
また、拘禁刑受刑者の割合が増加したことは、制度の効果が高まったことを意味しません。
新制度が施行され、受刑者が徐々に入れ替わっている影響があります。
さらに、拘禁刑導入後の再犯防止効果については、対象者の条件をそろえた十分な中長期の追跡結果がまだ公表されていません。
したがって、本稿では、制度によって再犯率が何%改善したという推計を行っていません。
24種類の矯正処遇課程、更生保護、協力雇用主、地域生活定着促進事業は既存制度です。
今回の独自提案は、課程への分類と実際の処遇提供を区別し、個別計画の見直し、出所後支援への接続、中長期の再犯防止効果を一体として検証することです。
必要な追加予算額や再犯減少による経済効果については、施設別の実施費用や比較可能な追跡データが不足しているため、根拠のない金額を示していません。

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