外国人と社会保障
――「保険料を払わず、日本の医療や生活保護を使っている」はどこまで事実なのか
2026年8月22日|2035日本再設計プロジェクト|外国人受入れ特別特集③
前回#019では、外国人犯罪、不法残留、不法就労、在留資格の悪用について、公的統計から「確認できる事実」と「現時点では断定できないこと」を分けました。
今回は、さらに議論が感情的になりやすい社会保障を取り上げます。
SNSでは、
「外国人の国民健康保険未納は年間4,000億円」
「外国人は少し保険料を払うだけで高額医療を受けられる」
「日本人より外国人の生活保護が優先されている」
「外国人が社会保障制度を悪用している」
といった主張が広がっています。
調べてみると、ここには二つの事実が同時に存在していました。
一つは、明確な誤情報や数字の誇張があること。
もう一つは、外国人の国民健康保険料の収納率など、実際に改善すべき問題も存在すること。
「全部デマ」でも「制度が外国人に食い物にされている」でもありません。
必要なのは、どこに本当の問題があるのかを数字から特定し、そこだけを制度で修正することです。
Executive Summary
今回確認できた重要な事実は5つです。
第一に、適正な在留資格を持ち、日本国内に住所を有する外国人は、原則として日本の公的医療保険に加入し、日本人と同様に保険料を負担して給付を受けます。 短期滞在者などは原則として国民健康保険の対象外です。厚生労働省
第二に、「外国人の国保未納が年間4,000億円」というSNS上の数字について、厚生労働省はそのような全国統計を示していません。2025年7月時点では、外国人だけを切り分けた全国的な収納状況を把握できる仕組み自体が整っておらず、全国調査に向けたシステム整備を進めていました。厚生労働省
第三に、だからといって未納問題が存在しないわけではありません。厚生労働省が独自に把握していた約150自治体を集計すると、外国人世帯主世帯の国保収納率は63%。同じ自治体の日本人を含む全体では93%、全国全体では94%でした。ただし、これは全国の外国人全体を代表する確定値ではなく、約150自治体の集計です。厚生労働省
第四に、生活保護については、2024年度の「世帯主が日本国籍を有さない世帯に属する被保護人員」は約6万5千人で、全被保護人員約200.8万人の3.24%。2015年度の7万2,995人からは減少しています。また、この統計には外国籍世帯主と暮らす日本人家族が含まれる場合があるため、「外国人受給者数」そのものではありません。厚生労働省
第五に、政府も問題を放置しているわけではありません。国保収納情報を在留審査に活用するための情報連携、入国初年度の保険料前納、医療費不払い情報の共有など、制度改正がすでに進み始めています。内閣官房
したがって今回の結論は、
「外国人だから社会保障を制限する」のではなく、「負担すべき人が負担し、制度を適正に利用する人には国籍にかかわらず給付する」仕組みに変えるべき
ということです。
1|そもそも外国人は日本の健康保険に入れるのか
まず制度そのものを確認します。
日本国内に住所があり、適正な在留資格を持つ外国人については、原則として日本の公的医療保険に加入します。
会社員などであれば勤務先の健康保険。
それ以外で要件を満たす場合は国民健康保険です。
そして当然ですが、加入すれば保険料を負担します。
一方、観光などの短期滞在者や、医療を受けることを目的とする一定の在留資格などは原則として国民健康保険の対象外です。厚生労働省
つまり、
「外国人なら日本に来れば誰でも国保に入れる」
という理解は正確ではありません。
また、
「外国人だけが無料で医療を受けられる制度」
でもありません。
2|「外国人の国保未納4,000億円」は本当か
2025年には、
「外国人による国民健康保険の未納が年間4,000億円」
という情報がSNS上で広く拡散しました。
しかし厚生労働省は、当時、外国人だけの全国的な未納額を把握した統計を持っていないと説明しています。
全国の外国人について一律に収納状況を集計できるシステムが整っていなかったためです。厚生労働省
したがって、
「外国人の国保未納額は年間4,000億円」
という数字を、公的統計で確認された事実として扱うことはできません。
ここは明確に区別する必要があります。
3|しかし、国保の未納問題そのものは存在する
ここが今回の重要なポイントです。
「4,000億円」が確認できないからといって、
外国人の保険料未納問題まで存在しないことにはなりません。
厚生労働省は、外国人の収納状況を独自に把握していた自治体に聞き取りを行っています。
集計できた約150自治体では、外国人世帯主世帯の国民健康保険料収納率は、
63%
でした。
同じ約150自治体の日本人を含めた全体の収納率は93%。
全国の日本人を含めた全体では94%でした。厚生労働省
差は小さくありません。
ただし注意も必要です。
63%という数字は全国すべての外国人を対象にした統計ではありません。
また「外国人本人」単位ではなく、外国人が世帯主となっている世帯を基準にした数字です。
したがって、
「外国人全体の37%が保険料を払っていない」
と読み替えることもできません。
それでも、少なくとも一部自治体で外国人世帯の収納率が低いという課題は、公的資料から確認できます。
4|なぜ収納率が低くなるのか
ここは「払う気がない」と決めつける前に、構造を確認する必要があります。
外国人の場合、
日本の社会保険制度を十分理解していない。
日本語で届く納付書を理解できない。
転職や転居が多い。
帰国時に未納が残る。
所得情報が自治体間で十分につながらない。
在留管理と税・社会保険情報が別々に管理されている。
といった制度上の問題があります。
もちろん、意図的に納付しないケースまで容認する理由にはなりません。
重要なのは、
「なぜ払われないのか」を把握し、悪質な未納と制度理解不足を分けること
です。
5|政府はすでに「前納」に動いている
厚生労働省は2025年10月、海外から入国した初年度の国民健康保険料について、自治体が通常より前倒しして徴収できる仕組みを示しました。
2026年度の保険料から、希望する自治体が条例を整備して導入できます。厚生労働省
重要なのは、この仕組みが単純な「外国人だけへのペナルティ」ではないことです。
厚生労働省のQ&Aでは、1月1日時点で日本国内に住民登録がなく所得情報を取得できない人を対象とし、条件に該当すれば海外から帰国した日本人も同様に扱うとしています。厚生労働省
これはJapan Compassが重視する、
国籍ではなく条件で制度を設計する
という考え方に近いものです。
6|さらに在留審査と社会保険情報がつながる
これまで日本では、
在留資格は入管。
税は自治体・税務当局。
国保は自治体。
年金は年金機構。
と、情報が分断されていました。
政府はこの構造を変えようとしています。
2026年にまとめられた「外国人の受入れ・秩序ある共生のための総合的対応策」では、2027年3月以降、出入国在留管理庁が関係機関から、
国民健康保険料の納付情報
国民年金保険料の納付情報
地方税の課税情報
医療保険の資格情報
などの提供を受ける方向が示されています。内閣官房
国保については、収納状況を在留審査に活用するためのシステム整備も進められています。厚生労働省
これは非常に大きな制度変更です。
7|医療費目的で来日して国保を使えるのか
もう一つネットでよく見るのが、
「外国人が高額治療を受けるために来日し、すぐ国保に加入する」
という話です。
制度上、医療を受けることを目的とする一定の在留資格については、国保の適用除外とされています。厚生労働省
一方で厚生労働省自身も、医療目的を隠して別の在留資格を取得し国保へ加入するケースがないかという問題を「課題」として認識しています。
そのため、市町村が在留資格本来の活動をしていない可能性を把握した場合、地方出入国在留管理局へ通知する仕組みなどが運用されています。厚生労働省
つまり、
制度上は禁止されている。
しかし、
制度を偽装して利用するリスクまでゼロとは言えない。
というのが正確です。
8|医療費の未払いはどうするのか
短期滞在者など公的保険に加入していない外国人が日本で医療を受け、医療費を支払わず出国する問題もあります。
厚生労働省には、一定条件の医療費不払い情報を医療機関から収集し、出入国在留管理庁と共有する仕組みがあります。厚生労働省
さらに政府は、この仕組みを短期滞在者だけでなく中長期在留者にも広げ、在留審査にも活用することを検討しています。厚生労働省
ここでも、
医療を受けさせない
のではなく、
受けた医療について適正な負担を求める
という考え方が重要になります。
9|外国人は生活保護を優先されているのか
これもSNSで非常に多い主張です。
厚生労働省の最新資料では、2024年度の全被保護人員は約200.8万人。
そのうち、
世帯主が日本国籍を有さない世帯に属する被保護人員は約6万5千人、3.24%
でした。厚生労働省
さらに推移を見ると、
2015年度 7万2,995人
から、
2024年度 約6万5千人
へ減少しています。
在留外国人そのものはこの間大幅に増えています。
少なくともこの統計から、
「外国人の生活保護が急増している」
とは言えません。
10|「外国人6万5千人が生活保護」という表現にも注意
ここにも統計上の落とし穴があります。
厚生労働省が集計しているのは、
「世帯主が日本国籍を有さない世帯に属する被保護人員」
です。
例えば外国籍の夫が世帯主で、日本国籍の妻や子どもが生活保護を受けている場合、その日本人家族もこの人数に含まれる可能性があります。
逆に、日本人が世帯主で、その配偶者が外国人である場合、その外国人はこの統計からは把握できません。
厚生労働省自身がこの限界を明記しています。厚生労働省
したがって、
約6万5千人=外国籍の生活保護受給者数
と断定するのも正確ではありません。
外国人政策を議論するなら、まず統計そのものを改善する必要があります。
11|外国人への生活保護は「日本人とまったく同じ権利」なのか
ここは法律上の整理も必要です。
生活保護法は原則として日本国民を対象としています。
一方で、一定の在留資格を持つ外国人については、1954年の厚生省通知などに基づき、人道上の観点から生活保護法に準じた保護が行われています。
つまり、
外国人が日本人より優先される制度ではありません。
一方で、外国人への生活保護の法的な位置付けが、日本人の場合と完全に同じというわけでもありません。
制度を議論する際には、この違いも理解する必要があります。厚生労働省
12|年金はどうなっているのか
日本で公的年金制度の適用対象となる外国人も、原則として保険料を負担します。
ただし、短期間日本で働いて帰国すると、老齢年金の受給資格期間を満たせない場合があります。
そのため外国人には一定条件のもとで、
「脱退一時金」
という制度があります。
例えば国民年金では、日本国籍を持たず、保険料納付済期間が6か月以上あり、日本国内に住所がなく、老齢基礎年金の受給資格期間を満たしていないことなどが要件です。厚生労働省
外国人の滞在期間が長期化していることから、この制度についても見直しが進められています。厚生労働省
13|賛成側の主張
社会保障は「国籍」ではなく「加入と負担」で考えるべき
外国人も日本で働き、
所得税
住民税
健康保険料
年金保険料
などを負担しています。
適法に加入し、必要な保険料を納めている外国人について、
「外国人だから医療給付を制限する」
となれば、社会保険そのものの原則と矛盾します。
保険とは、
加入者が負担し、必要になった人へ給付する仕組み
だからです。
真面目に働き、保険料を払っている外国人まで制度悪用者と同じように扱うことは、公平ではありません。
14|慎重・厳格化側の主張
社会保障は「信頼」で成立する
一方で、国保収納率63%という調査結果を軽視することもできません。
社会保険制度は、
みんなが負担する
という信頼によって成り立っています。
未納したまま帰国する。
制度を偽装して加入する。
医療費を払わず出国する。
こうしたケースが放置されれば、制度をきちんと支えている日本人だけでなく、保険料を払っている外国人にとっても不公平です。
したがって、
適正利用を確認する仕組みの強化は必要
です。
15|海外ではどうしているのか
外国人の社会保障をどう扱うかは、日本だけの問題ではありません。
多くの国では、
合法的な居住
就労
保険料・税の負担
滞在期間
などを社会保障へのアクセス条件としています。
一方で、緊急医療など生命に関わるサービスについては、人道上の観点から一定のアクセスを保障する制度も一般的です。
重要なのは、
「外国人だから対象外」でも「入国すればすべて利用可能」でもない
ことです。
日本でも、在留資格と社会保障を別々に管理する仕組みから、
滞在・就労・納税・保険料負担を一つの制度として管理する方向
へ移る必要があります。
16|Japan Compass政策提案
「負担と給付の見える化」
Japan Compassでは、外国人社会保障政策の基本原則を、
国籍ではなく「負担・資格・利用実態」で管理する
こととします。
そのために、
在留資格
就労状況
所得
税納付
健康保険加入
保険料納付
年金加入
医療費未払い
などを、必要な範囲で行政機関間連携できる仕組みを整備します。
ただし、行政が無制限に個人情報を共有してよいわけではありません。
利用目的を明確化し、
アクセス記録を残し、
第三者監査を行い、
誤情報を本人が訂正できる仕組みを設ける。
制度の厳格化とプライバシー保護をセットにすること
が必要です。
17|Japan Compass政策提案
「入国時 Social Security Guide」
日本で中長期に生活する外国人には、入国・在留開始時に、
税
国民健康保険
年金
医療
住民登録
生活保護
児童・子育て制度
などを多言語で説明します。
そして、
何を払う必要があるのか。
払わなければどうなるのか。
どのような給付を受けられるのか。
を明確にします。
知らなかったという問題を減らしたうえで、故意の未納には厳格に対応する。
これが公平です。
18|Japan Compass政策提案
「悪質な未納は在留審査へ、生活困窮は相談へ」
単純に、
未納=在留資格更新不可
とする制度にも問題があります。
失業。
病気。
会社の倒産。
DV。
災害。
こうした理由で一時的に保険料を払えなくなる人もいます。
日本人にも同じ問題があります。
そこで、
悪質な長期未納
支払能力があるのに繰り返す未納
虚偽申告
と、
生活困窮による未納
を分けます。
前者は在留審査で考慮する。
後者には分納、減免、相談支援を行う。
「払えない人」と「払わない人」を区別する制度
が必要です。
19|2035日本再設計ロードマップ
2026~2027年|実態把握
外国人についても全国統一基準で国保収納率、医療費未払い、社会保険加入状況を把握できる統計基盤を整備します。
2027~2029年|行政情報連携
入管、自治体、厚生労働行政の情報を必要最小限で連携し、在留資格と税・社会保険の適正な履行を確認できる仕組みを構築します。
2029~2031年|負担と給付のデジタル化
本人が自分の税、保険料、年金、在留資格の状況を一つの画面で確認できる仕組みを整備します。
2031~2033年|制度悪用対策の高度化
一律に外国人を疑うのではなく、虚偽申請、悪質な未納、不正利用などリスクの高いケースへ行政資源を集中します。
2033~2035年|「居住者社会保障原則」の確立
国籍ではなく、
合法的居住
負担能力
保険加入
納付実績
生活実態
を基本として社会保障を運営する制度へ移行します。
20|2035日本再設計白書での位置付け
本稿は、
第一部 人口
第三部 経済・労働
第八部 医療・社会保障
行政・制度改革
を横断するテーマとして位置付けます。
#018では外国人受け入れの基本ルール。
#019では犯罪、不法滞在、不法就労、在留資格悪用。
そして今回#020では、
社会保障の負担と給付
を検証しました。
この3本を合わせることで、外国人政策を単なる「賛成か反対か」ではなく、
受け入れるなら、どのような制度で社会を運営するのか
という2035年の制度設計へつなげます。
今日の提言
外国人の社会保障問題について、
「問題はすべてデマ」
と片付けるのも、
「外国人が日本の社会保障を食い物にしている」
と一括りにするのも、正確ではありません。
外国人の国保未納4,000億円という数字は、公的統計では確認できません。
外国籍世帯主世帯に属する生活保護人員も、この10年では増加していません。
一方で、約150自治体を対象とした厚生労働省の集計では、外国人世帯主世帯の国保収納率が63%だったという現実もあります。
ここは改善すべきです。
だから原則は、
国籍ではなくルール。
権利だけでも、負担だけでもない。
負担すべきものを負担し、資格を満たす人には公平に給付する。
これでいいのではないでしょうか。
2035年の日本に必要なのは、
外国人に特別に甘い制度でも、
外国人だけを特別に厳しく扱う制度でもありません。
日本で暮らす人に、負担と給付のルールが明確に適用される社会です。
読者への問い
日本で働き、税や社会保険料を適正に納めている外国人には、日本人と同じ社会保障サービスを提供する。
一方で、支払能力があるにもかかわらず悪質な未納を繰り返す場合には、在留資格の更新審査で考慮する。
この仕組みを、皆さんは公平だと考えるでしょうか。
そしてもう一つ。
「外国人だから」という基準ではなく、「負担すべきものを負担しているか」という基準に変えることが、これからの日本には必要ではないでしょうか。
データ出典・参考資料
厚生労働省「国民健康保険料(税)の前納に係る国民健康保険条例参考例」
厚生労働省「公的年金制度における外国人に対する脱退一時金制度について」
内閣官房「外国人の受入れ・秩序ある共生のための総合的対応策」
※国民健康保険の外国人収納率63%は、全国一律の確定値ではなく、外国人の収納状況を独自に把握していた約150自治体について厚生労働省が集計した値です。また、生活保護に関する約6万5千人という数字は「外国籍受給者数」そのものではなく、「世帯主が日本国籍を有さない世帯に属する被保護人員」である点に注意が必要です。

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