日本のエネルギー安全保障
――電気が足りない国で、AI・半導体・脱炭素は実現できるのか
2026年8月26日|2035日本再設計プロジェクト|エネルギー・産業基盤編
#018〜#023では、外国人受入れを「入国」だけの問題にせず、在留管理、社会保障、教育、労働、住宅・地域共生まで一つの社会システムとして検証してきました。
今日から視点を変えます。
2035年の日本を設計するうえで、これまで十分に掘り下げてこなかった重要な基盤があります。
エネルギーです。
人口政策も、AIも、半導体も、データセンターも、医療も、鉄道も、EVも、工場も、家庭生活も、電気が安定して供給されることを前提にしています。
ところが日本のエネルギー自給率は、2024年度速報値で**16.4%**にすぎません。エネルギー庁
さらにAI・DX・GXの進展によって、今後は電力需要が増える可能性があります。政府自身も、脱炭素電源を十分確保できるかどうかが、日本の経済成長と産業競争力を左右すると認識しています。エネルギー庁
そこで今回は、
2035年の日本は、どこから電気を確保するのか。
原子力か。
再生可能エネルギーか。
火力か。
省エネか。
答えは、おそらく一つではありません。
Executive Summary
日本のエネルギー政策を考えるうえで、まず押さえるべき数字があります。
2024年度速報値のエネルギー自給率は16.4%。改善傾向にはありますが、依然として低い水準です。エネルギー庁
2023年度の発電電力量では、
再生可能エネルギー 22.9%
原子力 8.5%
火力 68.6%
でした。経済産業省
政府が2025年2月18日に閣議決定した第7次エネルギー基本計画では、2040年度の電源構成として、
再エネ 4~5割程度
原子力 2割程度
火力 3~4割程度
という見通しを示しています。エネルギー庁
つまり日本政府も、
再エネだけでも、原子力だけでも、火力だけでも成立しない
と考えています。
Japan Compassも基本的にはこの方向を支持します。
ただし、2035年に向けては「何%にするか」だけでは不十分です。
必要なのは、
安定供給・価格・脱炭素・災害耐性・産業競争力を同時に評価するエネルギー安全保障政策
です。
1|日本のエネルギー自給率は16.4%
日本は資源輸入国です。
2023年度のエネルギー自給率は15.3%でした。2024年度速報値では16.4%まで改善しています。エネルギー庁
しかし裏返せば、
必要な一次エネルギーの8割以上を海外に依存している
ということです。
しかも日本は島国です。
石油。
LNG。
石炭。
多くを船で運んできます。
中東危機。
台湾海峡。
海上輸送の混乱。
資源価格高騰。
為替変動。
こうした事態が、そのまま日本のエネルギー価格と供給リスクにつながります。
政府も、エネルギー安全保障上の脆弱性を明確な政策課題として位置付けています。エネルギー庁
2|エネルギー問題は「環境問題」だけではない
日本ではエネルギー政策が、
原発賛成か反対か。
再エネ賛成か反対か。
という議論になりがちです。
しかし本質はもっと広い問題です。
電気料金が高くなれば、
家庭の負担が増える。
企業の製造コストが上がる。
国内工場が競争力を失う。
半導体工場やデータセンターの投資先として選ばれにくくなる。
そして電力供給そのものが不安定なら、
AI産業も成立しません。
エネルギー政策は、
産業政策であり、経済安全保障政策でもあります。
3|これから電力需要は「減る」とは限らない
人口が減る日本では、
「電力需要も減るのではないか」
と思うかもしれません。
しかし状況は単純ではありません。
AI。
データセンター。
半導体工場。
EV。
製造業の電化。
GX。
これまで化石燃料を直接使っていた産業を電気へ置き換えれば、電力需要は増えます。
第7次エネルギー基本計画も、DXやGXによる電力需要増を前提に、脱炭素電源の確保を重要課題としています。経済産業省
つまり2035年の日本は、
人口減少国でありながら、電力需要増加に備える
という難しい局面に入る可能性があります。
4|再生可能エネルギーはどこまで増やせるのか
再エネは日本のエネルギー自給率を上げる有力な手段です。
太陽光。
風力。
水力。
地熱。
バイオマス。
国内で生み出せるため、化石燃料輸入への依存を減らせます。
政府は2040年度に再エネを電源構成の4~5割程度まで拡大する見通しを示しています。エネルギー庁
特に期待されているのが、
ペロブスカイト太陽電池。
洋上風力。
地熱。
既存水力の高度化。
です。
政府は2040年にペロブスカイト太陽電池約20GWの導入を目指しています。経済産業省
5|しかし「再エネを増やせば終わり」ではない
太陽光や風力には大きな特徴があります。
天候によって発電量が変わります。
晴れている昼間には大量に発電できても、夜には太陽光は発電できません。
風力も風次第です。
そこで必要になるのが、
蓄電池。
揚水発電。
地域間送電。
需要調整。
火力などの調整電源。
です。
実際、日本では再エネが増えたことで、電力が余る時間帯に発電を止める出力制御が全国へ広がっています。エネルギー庁
再エネ政策の次の主戦場は、
発電設備そのものより「送電網と蓄電」
になりつつあります。
6|日本列島を「一つの電力市場」に近づける
北海道では風力。
九州では太陽光。
東北では再エネ資源。
都市圏では巨大な電力需要。
地域ごとに発電条件と需要が違います。
だから必要なのが、
地域間連系線の強化です。
北海道で余った電気を東京へ。
九州で余った電気を関西へ。
電力を地域間で柔軟に動かせれば、再エネの弱点を補えます。
資源エネルギー庁も「広域連系系統のマスタープラン」に基づく系統増強を進めています。エネルギー庁
2035年までに送電網を、
単なる電線ではなく、
国家インフラ
として扱う必要があります。
7|原子力をどう考えるか
ここは避けて通れません。
2026年2月17日時点で、日本では15基の原子力発電所が稼働しています。エネルギー庁
政府は2040年度の電源構成について、原子力を約20%と見込んでいます。エネルギー庁
原子力の利点は明確です。
大量の電力を安定供給できる。
運転時のCO2排出が少ない。
燃料を長期間備蓄できる。
化石燃料輸入依存を減らせる。
一方、課題も明確です。
重大事故リスク。
避難計画。
廃炉。
使用済燃料。
高レベル放射性廃棄物。
建設期間。
建設費。
そして何より、
社会的信頼です。
8|福島事故を忘れた原子力政策は成立しない
原子力について、
「CO2が少ないから使えばいい」
という議論だけでは、日本では成立しません。
福島第一原子力発電所事故の経験があるからです。
政府も、安全性を大前提とし、原子力規制委員会の新規制基準への適合と地域の理解を条件に再稼働を進める方針です。エネルギー庁
Japan Compassとしても、
原子力を使うなら、安全・避難・廃棄物・廃炉費用まで含めてコストを評価する
ことを原則とします。
発電単価だけを比較してはいけません。
9|火力発電は2035年にも必要
再エネを増やす。
原子力を再稼働する。
それでも当面、火力発電をゼロにはできません。
再エネの変動を補う。
猛暑や寒波による需要急増に対応する。
発電所トラブル時の予備力になる。
こうした役割があります。
政府も2040年度に火力を3~4割程度残す見通しです。エネルギー庁
ただし、非効率な石炭火力を中心に発電量を減らし、LNG、水素・アンモニア、CCUSなどを組み合わせた脱炭素化を進める方針です。エネルギー庁
重要なのは、
火力を「悪」として消すのではなく、非常時を含む調整電源として再設計すること
です。
10|賛成意見
再エネを最大限増やすべき
再エネ拡大派の主張には合理性があります。
国内資源である。
燃料輸入が不要。
CO2排出を減らせる。
技術革新で価格低下が期待できる。
地域分散型電源にできる。
特に日本は、エネルギー自給率が低い国です。
再エネは環境政策だけではなく、
エネルギー安全保障政策
として重要です。
11|慎重意見
再エネ偏重では安定供給できない
一方で慎重論にも合理性があります。
太陽光や風力は変動します。
送電網整備には巨額の費用が必要です。
蓄電池にもコストがあります。
設備立地をめぐる自然環境・景観・地域合意の問題もあります。
そして電気は、
必要な瞬間に供給できなければ意味がありません。
したがって再エネ比率だけを政策目標にするのではなく、
安定供給コストまで含めて評価する必要があります。
12|原子力推進意見
原子力を積極利用すべきという側から見れば、
日本の低いエネルギー自給率。
脱炭素。
AI・半導体による電力需要増。
化石燃料輸入リスク。
を考えれば、原子力を使わない選択は現実的ではないということになります。
実際、第7次エネルギー基本計画は、
再エネと原子力の双方を最大限活用する
方針です。経済産業省
13|原子力慎重意見
一方、
重大事故の社会的損失。
避難困難地域。
高レベル放射性廃棄物。
廃炉費用。
建設費高騰。
長い建設期間。
を考えれば、原子力依存を高めるべきではないという意見にも合理性があります。
実際、日本では2025年3月時点で24基の商業用原子炉が廃止措置中です。エネルギー庁
原子力政策は、
「再稼働するか」
だけではなく、
最後までどう処理するか
まで含めて考える必要があります。
14|Japan Compass政策提案
「2035 Energy Security Index」
Japan Compassでは、発電方法を単純な発電コストだけで比較しないことを提案します。
新たに、
2035 Energy Security Index
を設定します。
評価項目は、
発電コスト。
燃料輸入依存度。
CO2。
供給安定性。
災害耐性。
送電コスト。
蓄電コスト。
廃炉・廃棄物。
地域経済への効果。
サイバーセキュリティ。
です。
そして、
「最も安い電源」ではなく、「日本全体として最も強い組み合わせ」
を選びます。
15|Japan Compass政策提案
再エネは「発電」から「システム」政策へ
今後の再エネ支援は、
太陽光パネルを何枚増やしたか、
ではなく、
蓄電池。
送電網。
需要調整。
地域間連系。
住宅・工場の自家消費。
EV蓄電。
などを含めて評価します。
特に、
発電したのに送れない
という状況を減らすことを優先します。
16|Japan Compass政策提案
AI・半導体と電源をセットで誘致する
これからの産業政策では、
工場だけ誘致する。
データセンターだけ誘致する。
という方法では不十分です。
大量の電力を使う施設には、
「どこから電気を供給するのか」
までセットで計画してもらいます。
再エネの豊富な地域。
原子力発電所周辺。
大型蓄電設備。
送電余力。
こうした条件と産業立地を連動させます。
これは地方創生にもつながります。
17|Japan Compass政策提案
家庭を「小さな発電所+蓄電所」にする
戸建住宅や集合住宅では、
屋根太陽光。
家庭用蓄電池。
EV。
ヒートポンプ。
HEMS。
を組み合わせます。
平常時には電気代削減。
災害時には非常用電源。
電力不足時には系統支援。
という三つの役割を持たせます。
ただし、設置できる住宅とできない住宅で格差が生まれないよう、
集合住宅。
賃貸住宅。
低所得世帯。
にも利用できる制度設計が必要です。
18|Japan Compass政策提案
原子力は「条件付き利用」
Japan Compassでは、
原子力全面推進。
原子力即時ゼロ。
のどちらにも立ちません。
原則は、
安全確認された既存原発は、地域理解と実効性のある避難計画を条件として活用する。
その間に、
再エネ。
送電網。
蓄電。
省エネ。
次世代技術。
を拡大します。
さらに原子力を利用する以上、
最終処分。
廃炉。
避難。
事故時補償。
まで含めた費用を透明化します。
19|最大の発電所は「省エネ」
忘れてはいけないのが、
使わない電気を増やすことです。
住宅断熱。
高効率エアコン。
ヒートポンプ。
工場設備。
データセンター省電力化。
AIによる電力制御。
省エネ半導体。
発電所を一つ建てるより、
需要そのものを減らす方が安い場合があります。
政府も第7次エネルギー基本計画で徹底した省エネを重要政策に位置付けています。エネルギー庁
20|政策の副作用も見る
エネルギー政策には必ず副作用があります。
再エネを増やせば、
送電・蓄電コスト。
景観。
森林開発。
廃パネル。
地域対立。
原子力を増やせば、
事故リスク。
廃棄物。
廃炉。
避難。
火力を維持すれば、
燃料輸入。
CO2。
国際価格変動。
省エネを強制しすぎれば、
住宅・企業の初期投資負担。
が生じます。
だからエネルギー政策では、
「完璧な電源」を探してはいけません。
ありません。
必要なのは、
弱点の異なる電源を組み合わせることです。
21|2035日本再設計ロードマップ
2026~2027年|電力需要の再計算
AI、半導体、EV、人口減少、産業立地を含め、2035年の地域別電力需要を再推計します。
2027~2029年|送電網国家プロジェクト
北海道・東北・九州など再エネ適地と大都市需要地を結ぶ系統増強を加速します。
2029~2031年|分散型電源・蓄電社会へ
住宅、企業、公共施設、EV、蓄電池を電力ネットワークへ統合します。
2031~2033年|産業立地とエネルギーを統合
AIデータセンター、半導体、GX工場について、電源確保と地域インフラをセットで審査・支援します。
2033~2035年|Energy Security Indexによる政策評価
電源比率だけではなく、
安定供給。
価格。
自給率。
CO2。
災害耐性。
産業競争力。
を総合評価し、次の2040政策へつなげます。
22|2035日本再設計白書での位置付け
本稿は、
第二部 経済・産業
第四部 インフラ・国土
第七部 地方創生
エネルギー・経済安全保障
を横断するテーマとして位置付けます。
これまでJapan Compassでは、
人口。
子育て。
外国人受け入れ。
社会保障。
教育。
労働。
住宅。
地域共生。
を扱ってきました。
しかし、それらの社会システムを動かすには、
電力という物理的インフラ
が必要です。
2035日本再設計白書では、エネルギーを独立した重要政策領域として扱う必要があります。
今日の提言
日本のエネルギー政策を、
「原発か再エネか」
という二択から卒業させるべきです。
日本のエネルギー自給率は16.4%。
AI・半導体・GXによって電力需要が増える可能性があります。エネルギー庁
その状況で一つの電源だけに賭けることは、むしろ危険です。
再エネを最大限増やす。
送電網と蓄電池を整備する。
安全性を確認した原子力を条件付きで活用する。
必要な火力を調整電源として維持する。
徹底的に省エネする。
そして次世代技術へ投資する。
これは中途半端なのではありません。
リスクを分散する国家戦略です。
2035年に目指すべきなのは、
「再エネ大国」でも、
「原発大国」でもありません。
世界情勢が変わっても、災害が起きても、産業が成長しても、必要なエネルギーを自分たちで確保できる強い日本です。
読者への問い
2035年の日本で、
再生可能エネルギーを最大限増やしながら、
安全確認された既存原発を一定期間活用し、
その間に送電網、蓄電池、省エネ、次世代電源への投資を加速する。
この現実路線を、皆さんはどう考えるでしょうか。
そしてもう一つ。
AIやデータセンターなど大量の電力を必要とする企業を誘致するとき、
雇用や税収だけではなく、「地域の電力をどう確保するのか」まで企業と自治体に示してもらう制度
は必要ではないでしょうか。
データ出典・参考資料
※エネルギー自給率16.4%は2024年度速報値です。発電電力量の構成22.9%・8.5%・68.6%は2023年度確報値であり、2040年度の「再エネ4~5割、原子力2割、火力3~4割」は政府の見通しであって確定した将来値ではありません。

コメントを残す