Japan Compass #050

政府が新技術の「最初の顧客」となりうるかが議論されています。新しい技術が大学や研究機関から生まれても、導入実績が求められ、実績がないために市場への展開が難しいという課題があります。しかし、2024年にはスタートアップ技術提案評価方式が導入され、政府が新技術を採用する機会が増える見込みです。これにより、技術評価や実証実験を経て、実際に市場に出る道筋が整備されることが期待されています。

政府は、新技術の「最初の顧客」になれるか

――補助金の先に、公共調達で研究成果の事業化を支えられるか

2026年9月21日|2035日本再設計プロジェクト|産業競争力・科学技術・公共調達編

大学や研究機関で、新しい技術が生まれる。

スタートアップを設立する。

研究開発資金を獲得する。

試作品を作る。

実証実験も成功する。

ところが、その次で止まる。

「導入実績はありますか」

「大規模運用した実績はありますか」

「他社で採用されていますか」

と聞かれるからです。

新しい技術なのですから、最初から導入実績があるはずはありません。

しかし顧客側から見れば、税金や企業のお金を使って、実績のない技術を採用するのは怖い。

ここに、新技術が研究室から市場へ出る時の大きな壁があります。

2026年6月に経済産業省が公表した速報では、2025年10月時点の大学発ベンチャーは6,220社。前年調査の5,074社から1,146社増え、社数・増加数とも過去最高となりました。日本には、技術を生み出し、会社をつくる力が確実に蓄積しています。経済産業省

では、その会社が成長するための最初の市場はあるのでしょうか。

今日のJapan Compassは、

政府や自治体は、新技術を救済するためではなく、社会課題を解決する「最初の顧客」になれるのか

この一点を考えます。


Executive Summary

結論から先に言います。

日本にはすでに、スタートアップや新しい技術を公共調達へ入れやすくする制度があります。

2024年には、高度で独自性のある新技術を持つスタートアップ等について、政府の調達ニーズに合えば随意契約を可能にする**「スタートアップ技術提案評価方式」**が整備されました。政府自身が、行政課題に合う技術を探すことも、スタートアップ側が政府のニーズを知ることも難しいという課題を認識した上で作られた制度です。経済産業省

入札参加資格についても、2024年から一定の技術力を持つスタートアップ等が、従来より上位等級の入札へ参加しやすくする措置が拡充されています。経済産業省

さらに2026年度の「中小企業者に関する国等の契約の基本方針」では、国等全体で中小企業・小規模事業者向け契約を61%、新規中小企業者向けを3%以上とする目標が設定されています。品質・機能を価格以外の評価へ取り込むことや、価格転嫁・取引適正化も強化されました。経済産業省

研究開発側にも、日本版SBIRがあります。2026年度のNEDO SBIR推進プログラムでは、POC・FSを行うフェーズ1と実用化開発を進めるフェーズ2を多段階で接続し、研究開発型スタートアップの成果を社会実装へつなげる仕組みが運用されています。Sbir Portal

つまり、

「日本には制度が何もない」わけではありません。

今日の問いは、その先です。

実証実験が終わった。

技術評価もされた。

しかし、

誰も本番では買わない。

これをどう変えるのか。

Japan Compassでは、公共調達を単なる「スタートアップ支援策」にするのではなく、

社会課題を提示する → 有償で開発する → 実環境で評価する → 条件を満たせば本調達の競争へ進む → 評価結果を他の公共機関でも再利用できる

という段階的な仕組みへ整理することを提案します。

ただし、政府が特定企業の売上を保証することには反対です。

政府が買う理由は、

「スタートアップだから」

ではありません。

国民に必要な課題を、従来より良く、安く、安全に解決できるから。

この原則を外してはいけません。


1|日本は「技術を生む国」から「技術を使う国」になれるか

前回#046では、日本の研究力について、研究費だけでなく研究者の時間そのものを見る必要があると考えました。

文部科学省の調査では、大学等教員の研究活動時間割合は2002年度の46.5%から2022年度には32.2%まで低下していました。#046では、研究者が研究に集中できる時間、支援人材、研究費、設備、大学運営を一体で考える必要があると提案しました。Japan Compass

今日はその「次」です。

研究時間が増えた。

良い研究が生まれた。

特許が取れた。

大学発スタートアップも生まれた。

そこで終わってしまえば、

科学技術政策は産業政策につながりません。

実際、経済産業省の「スタートアップエコシステム調査2026」では、2025年の日本のスタートアップが生み出すGDPについて、直接効果13.66兆円、間接波及効果を含む全体25.69兆円、雇用59.1万人という試算が示されています。これは国民経済計算そのものではなく、経産省調査による経済波及効果の推計ですが、スタートアップが一定の産業規模へ成長していることを示す材料です。経済産業省

重要なのは、会社の数を増やすことだけではありません。

技術を実際に使う顧客を増やすことです。


2|なぜ「最初の顧客」が難しいのか

新技術には、鶏と卵の問題があります。

顧客は、

「実績があるなら導入したい」

と考える。

スタートアップは、

「導入してもらわなければ実績を作れない」

と考える。

特に、

AI。

量子。

ロボット。

医療技術。

新素材。

宇宙。

防災。

エネルギー。

インフラ点検。

といったディープテックでは、単にアプリを公開して消費者に使ってもらうわけにはいきません。

安全性。

認証。

設備。

データ。

現場との接続。

長期間の検証。

が必要です。

最初の一件を取るだけでも時間がかかります。

そのため、補助金を受けて技術開発ができても、

補助事業が終わった瞬間に、顧客がいない

という状態が起こり得ます。

これは研究開発費の不足とは別の問題です。

「技術を作る資金」と、

「技術を買う需要」は、

同じではないからです。


3|政府自身も「政府調達」を成長政策として意識し始めた

2026年5月25日に総理官邸で行われたスタートアップとの意見交換会では、研究成果の実用化を担うスタートアップの重要性、技術シーズを産業化するための投資促進とともに、**「政府調達の予見可能性の活用」**が言及されました。経済産業省

これは興味深い変化です。

従来、政府調達は、

役所が必要な物品やサービスを、

適正な価格で、

公平な手続によって購入する。

という「行政の裏方」のイメージが強い分野でした。

しかし現在は、

政府の購買力そのものを、技術の社会実装にどう使うか

という政策課題になりつつあります。

ただし、ここで注意が必要です。

公共調達は産業支援だけを目的とした制度ではありません。

財務省も、国の契約について、経済性に加えて公平性・競争性・透明性を確保することが重要であり、一般競争契約が原則であると整理しています。財務省

だから、

「良さそうなスタートアップだから直接買おう」

では済みません。

公共調達を成長政策へ使うなら、

産業育成と公正な契約の両立

が必要になります。


4|すでにある「スタートアップ技術提案評価方式」

そのために作られた仕組みの一つが、2024年の「スタートアップ技術提案評価方式」です。

経済産業省によれば、政府側には、

「行政課題に合うスタートアップ技術を自ら見つけにくい」

という問題があり、

スタートアップ側には、

「政府が何を必要としているのか詳細に把握しにくい」

という問題がありました。

そこで、高度かつ独自の新技術について、政府の調達ニーズとの適合性を評価し、条件を満たした場合に随意契約を可能とする仕組みが整備されました。経済産業省

これは大きな一歩です。

したがってJapan Compassとして、

「日本の公共調達は古く、スタートアップを一切買えない」

と批判するのは正確ではありません。

制度は動いています。

問題は、

制度があることと、技術が継続的に市場へ出ていくことは同じではない

という点です。


5|「実証実験」で終わると、何が残るのか

日本では自治体とスタートアップの実証実験も増えています。

経済産業省が2026年5月に改訂した自治体・スタートアップ官民連携の実践ガイドでも、トライアル発注や共同調達に関する調査・事例が追加されています。経済産業省

実証には意味があります。

本当に動くか。

住民は使えるか。

職員の業務は減るか。

事故は起きないか。

費用はいくらか。

机上では分からないことを確認できるからです。

しかし、実証には弱点もあります。

半年実証する。

「有効性を確認しました」と報告する。

事業年度が終わる。

翌年度の本予算には入らない。

別の自治体でも、また最初から実証する。

これでは、

全国で同じPoCを繰り返すだけ

になりかねません。

重要なのは、

「実証した件数」

ではなく、

実証後に何件が本調達へ進んだか

です。

さらに、

本調達後に、

費用が下がったか。

行政サービスが良くなったか。

他の自治体や民間企業にも広がったか。

まで見る必要があります。


6|日本版SBIRは「研究から事業化」へ橋をかけ始めている

ここで重要なのが日本版SBIRです。

2026年度のNEDO SBIR推進プログラムでは、研究開発の初期段階であるPOC・FSをフェーズ1、実用化開発をフェーズ2として、多段階選抜で支援する仕組みが示されています。

一つのプログラムで継続支援する「一気通貫型」と、関係府省庁の別事業へ接続する「連結型」があります。

目的には、研究開発型スタートアップの研究開発促進だけでなく、成果の円滑な社会実装が明記されています。Sbir Portal

この方向性は合理的です。

しかし、ここでも最後に残る問いがあります。

研究開発支援が終わった後、

誰が買うのか。

技術開発のゴールを、

「試作品完成」

ではなく、

「実際の利用者が対価を払って継続利用する」

ところまで見る必要があります。


7|海外事例① 英国は「公共課題」をR&D契約にする

英国には、かつてSBRIと呼ばれ、現在はContracts for Innovationと呼ばれる仕組みがあります。

Innovate UKによれば、これは公共部門が抱える具体的な課題について、既存市場に十分な解決策がない場合に競争を行い、企業や研究機関等へ100%資金提供の研究開発契約を発注する制度です。補助金という位置付けではなく、公共部門の課題を解決するためのR&D契約として設計されています。UK研究・革新

ポイントは、

「この技術を育てたい」

から始まるのではなく、

「公共部門に、この課題がある」

から始まることです。

例えば、

医療現場でこの問題を解決したい。

災害対応をもっと速くしたい。

行政コストを減らしたい。

という課題を提示し、

企業側が解決方法を提案します。

これなら、

特定企業を救済する制度ではなく、

公共需要を起点としたイノベーション調達

になります。


8|海外事例② EUも「買い手」を育てようとしている

EUでも、European Innovation CouncilがInnovation Procurement Programmeを展開しています。

2026年4月には、イノベーション調達へのアクセスを強化する新しい事業の入札が公表されました。

対象はスタートアップなどの供給側だけではありません。

公共部門の買い手側に対しても、

ニーズ把握。

市場との対話。

R&Dサービスの調達。

Pre-Commercial Procurement。

イノベーション公共調達。

などを設計・実施する能力を高める支援が行われています。European Innovation Council

これは重要な視点です。

スタートアップへ補助金を出すだけでは、

市場はできません。

新しい技術を正しく評価し、契約できる「買い手の能力」も必要

なのです。


9|賛成論:政府が最初の顧客になるメリット

公共調達をうまく使えば、複数の効果があります。

第一に、実際の現場で技術を磨けます。

研究室やデモ環境では分からなかった課題が見つかります。

第二に、スタートアップが「有償導入実績」を持てます。

無償実証ではなく、顧客が対価を払ったという事実は、次の顧客や金融機関、投資家にとって意味があります。

第三に、政府自身も新技術の恩恵を受けられます。

人手不足。

インフラ点検。

医療。

防災。

サイバーセキュリティ。

行政DX。

地域交通。

これまでJapan Compassで扱ってきた多くの課題は、新しい技術の実利用先でもあります。

そして第四に、

補助金だけに依存しない成長につながります。

企業にとって最も健全なのは、

補助金を取り続けることではなく、

顧客に価値を認めてもらい、売上を得ること

だからです。


10|慎重論:政府が「勝つ企業」を決めてはいけない

一方で、この政策にはかなり大きなリスクがあります。

公共調達を産業政策として強く使いすぎると、

「なぜその企業だけなのか」

という問題が起きます。

政治との距離。

官僚との人脈。

有識者との関係。

採択経験。

こうしたものが受注を左右するようになれば、イノベーション政策ではなく利権になります。

また、政府が早い段階で一社の技術へ依存すると、

ベンダーロックイン。

価格上昇。

互換性不足。

データ移行困難。

技術の陳腐化。

といった問題も起こります。

さらに、新技術には失敗があります。

100件すべて成功する制度などありません。

しかし税金を使うため、

一件の失敗が大きく報道され、

担当職員が、

「新技術を買わない方が安全だ」

と考えるようになる可能性があります。

したがって必要なのは、

失敗をなくす制度ではなく、失敗できる範囲を最初から限定する制度

です。


Japan Compass政策提案

「課題起点の段階契約」へ

Japan Compassでは、新しい巨大な補助金制度を作ることは提案しません。

SBIR。

スタートアップ技術提案評価方式。

官公需基本方針。

自治体のトライアル発注。

すでに存在する制度を、研究開発から最初の顧客まで一本の流れとして接続することを提案します。

仕組みは5段階です。

段階行政側がすること企業側が示すこと
① 課題提示「何を買うか」ではなく「何を解決したいか」を公開解決方法・必要技術
② 有償開発小規模なR&D・試作契約を複数社と締結技術成立性・安全性
③ 実環境評価現場で共通KPIを使って比較効果・コスト・運用性
④ 本調達条件を満たした技術を適切な競争・契約方式へ供給能力・価格・品質
⑤ 展開評価結果を他省庁・自治体が参照可能にする他地域・民間への展開

最大のポイントは、

実証をした企業に本契約を保証しないこと

です。

本番導入の条件を事前に示します。

例えば、

処理時間30%削減。

事故率を現行以下。

年間総費用が既存方式以下。

既存システムとデータ互換。

一定のサイバーセキュリティ要件。

住民満足度。

などです。

達成すれば次の段階へ。

達成しなければ終了。

この方が、

「何となく実証して、何となく終わる」

より透明です。


11|「導入実績がないから導入できない」をどう崩すか

もう一つ重要なのは、

公共部門での評価結果を、

別の公共機関でも一定程度使えるようにすることです。

A市で1年間、

安全性。

費用。

稼働率。

職員負担。

住民評価。

を確認した技術について、

B市でも、

「まずゼロから半年実証しましょう」

となれば、普及は遅れます。

もちろん地域条件が違えば再検証は必要です。

しかし共通部分まで毎回調べ直す必要はありません。

そこで、

公的な導入評価記録

を作ります。

認証制度ではありません。

「国がこの製品を推奨します」

というお墨付きでもありません。

あくまで、

どんな環境で。

どのくらい使い。

どんな結果が出て。

どんな問題が起きたのか。

という事実を残す。

次の調達担当者は、その記録を参考にしながら自分の地域で必要な確認だけを追加します。

これだけでも、スタートアップと行政の双方の実証コストを減らせます。


12|自治体は「共同で買う」という選択肢もある

人口が少ない自治体では、

新技術を評価する専門職員そのものが足りません。

一市町村だけでは、

AI。

サイバー。

ドローン。

自動運転。

センサー。

医療機器。

を全部評価することは難しい。

そこで、複数自治体が、

課題定義。

市場調査。

技術評価。

契約仕様。

セキュリティ確認。

を共同化する方法があります。

経産省が2026年5月に改訂した自治体・スタートアップ官民連携ガイドにも、共同調達やトライアル発注に関する内容が追加されています。経済産業省

ただし、共同調達を全国一律に強制する必要はありません。

地域によって必要な機能は違います。

共通化すべきなのは、

評価方法。

契約ひな型。

安全要件。

成果指標。

であり、

何を買うかは地域が選ぶ。

この分担が現実的です。


財源・実施主体・制約

この政策の特徴は、

すべてを「新しい補助金」で賄う必要がないことです。

行政が本当に必要としているサービスや製品なら、本来は各省庁・自治体の調達予算があります。

研究開発初期は、

内閣府。

経済産業省。

NEDO。

JST。

各省庁のSBIR関連事業。

などが担う。

実環境での試験段階では、研究開発契約やトライアル発注。

本導入では、本来の行政サービス・設備・システム等の調達予算へ移る。

という役割分担が考えられます。

ただし、予算科目や年度をまたぐ接続は容易ではありません。

今年は「実証事業」の予算。

来年は「本調達」の予算。

担当部署も違う。

という状況では、良い実証結果が出ても継続できません。

したがって財源以上に重要なのは、

実証を始める前に、本導入した場合にどの予算・部署が買うのかを決めておくこと

です。

また、公共調達だからといって、スタートアップへ無理な低価格を求めるべきでもありません。

2026年度の官公需基本方針でも、国等が一方的に価格を決めず適切に協議すること、契約後の再交渉を可能とすること、品質・機能など価格以外の要素を適切に考慮することが明記されています。経済産業省

一方で、公金を使う以上、

競争性。

透明性。

安全性。

費用対効果。

情報公開。

知的財産。

データの扱い。

サイバーセキュリティ。

退出時のデータ移行。

を契約段階で整理しなければなりません。


2035ロードマップ

2026~2027年|まず「実証のその後」を調べる

最初に新制度を増やすのではなく、国・自治体のスタートアップ調達を棚卸しします。

見るのは契約額だけではありません。

実証件数。

有償か無償か。

本導入へ移行した割合。

翌年度も継続された割合。

別自治体・民間へ展開した割合。

途中で終了した理由。

を追跡します。

現在の3%という新規中小企業者向け契約目標も重要ですが、支出比率だけでイノベーションの成果を判断しないことが必要です。

2027~2029年|課題起点の段階契約を重点分野で実証する

防災。

インフラ点検。

医療。

行政DX。

物流。

地域交通。

エネルギー。

など、政府・自治体自身に明確な需要がある分野から始めます。

最初から製品名や細かな仕様を書くのではなく、

「この問題を、この性能まで改善したい」

という成果条件を示します。

複数の技術を小さく試し、良いものだけ次の段階へ進めます。

2029~2031年|評価記録を省庁・自治体間で共有する

一度実証した技術について、

利用環境。

KPI。

安全性。

コスト。

障害。

職員負担。

住民への影響。

を共通形式で記録します。

他の行政機関がその情報を再利用できるようにします。

これによって、

「全国1,700以上の自治体が同じ実証を繰り返す」

状態を減らします。

2031~2033年|共同調達と相互運用性を広げる

小規模自治体では、

技術評価。

契約法務。

セキュリティ。

を共同化します。

同時に、特定ベンダーへ固定されないよう、

データ形式。

API。

移行方法。

標準仕様。

を重視します。

最初の顧客になっても、

永遠の顧客になる義務はありません。

2033~2035年|「補助した数」から「市場を作れたか」へ

2035年には、スタートアップ政策の評価を、

採択社数。

補助金総額。

イベント参加者数。

だけではなく、

最初の有償顧客獲得。

継続契約。

民間顧客への展開。

輸出。

雇用。

行政サービス改善。

費用削減。

まで追います。

研究開発政策と産業政策を、

研究 → 技術 → 実証 → 最初の顧客 → 市場

という一つの流れとして評価します。


2035日本再設計白書での位置付け

今回の#050は、

第三部「経済」

に位置付けます。

横断するのは、

第二部「教育」の大学・研究。

第五部「AI」。

第六部「防衛」の先端技術。

第七部「地方創生」の自治体調達。

です。

#010では、半導体・AIと経済安全保障を扱いました。

#046では、その前段階である大学研究の土台と研究時間を扱いました。

今回の#050は、

研究成果が市場へ出る直前の「最初の需要」

を扱います。

研究費を増やす議論でもありません。

スタートアップへの投資額を増やす議論でもありません。

公共調達を増やせばすべて解決するという議論でもありません。

問うのは、

日本社会が必要としている新技術を、誰が最初に使い、評価し、市場へつなげるのか

です。


今日の提言

新しい技術を育てる時、

私たちはすぐに、

「補助金はいくら必要か」

と考えます。

もちろん、研究開発には資金が必要です。

しかし会社が長く生きていくために、本当に必要なのは、

補助金ではありません。

顧客です。

さらに言えば、

「無料なら試してみます」

という顧客ではなく、

「この技術には価値があるから、お金を払います」という顧客

です。

政府や自治体には、

防災。

医療。

介護。

インフラ。

教育。

行政。

物流。

エネルギー。

国民保護。

という巨大な社会課題があります。

そして日本には、その問題を解決しようとしている研究者や企業があります。

この二つがつながらないまま、

片方では「社会課題が解決できない」と悩み、

もう片方では「顧客がいない」と悩む。

それはもったいない。

だから政府は、

スタートアップを助けるために買うのではなく、

自分自身が抱える公共課題を、より良く解決するために新技術を買う。

その結果として、

企業に最初の実績が生まれる。

次の自治体が使う。

民間企業が使う。

海外へ出る。

この順番なら、

公共調達と産業育成は両立できます。

一方で、

成果が出なければ止める。

競合技術が良ければ乗り換える。

価格が高ければ買わない。

安全性が足りなければ導入しない。

この厳しさも必要です。

2035年の日本が科学技術立国を目指すなら、

「新しい技術を研究できる国」だけでは足りません。

新しい技術を、正しく試し、正しく買える国。

そこまでできて初めて、

研究成果は産業になります。


読者への問い

もしあなたの自治体に、

これまで1億円かかっていた仕事を7,000万円で行い、

職員の負担も減らし、

サービスも良くできる可能性がある新技術があったとします。

ただし、

まだ大手企業での導入実績はありません。

あなたなら、

実績ができるまで待つでしょうか。

それとも、

小さな有償契約で試し、

成果が確認できれば段階的に導入するでしょうか。

そしてもう一つ。

政府が「最初の顧客」になることは、

産業育成として望ましいでしょうか。

それとも、

税金で特定企業を有利にする危険が大きいでしょうか。

おそらく答えは、

「買うか、買わないか」

の二択ではありません。

小さく試し、数字で評価し、良ければ買い、悪ければ止める。

その仕組みを公平につくれるか。

そこが、日本の技術を研究室から社会へ出すための次の課題だと思います。


データ出典・参考資料

経済産業省「令和7年度大学発ベンチャー実態等調査の結果(速報)」
2026年6月12日公表。2025年10月時点で大学発ベンチャー6,220社、前年調査から1,146社増加。
大学発ベンチャー実態等調査|経済産業省

経済産業省「スタートアップエコシステム調査2026」
2026年5月21日公表。直接効果13.66兆円、間接波及効果を含む創出GDP25.69兆円、雇用59.1万人等は同調査による推計値。
スタートアップエコシステム調査2026|経済産業省

経済産業省「スタートアップとの意見交換会」
2026年5月26日公表。研究成果の実用化、技術シーズの産業化、政府調達の予見可能性等を確認。
スタートアップとの意見交換会|経済産業省

経済産業省「スタートアップ技術提案評価方式」
2024年6月14日公表。高度かつ独自の新技術と政府調達ニーズを結び付け、一定条件で随意契約を可能にする既存制度。
スタートアップ技術提案評価方式|経済産業省

経済産業省「スタートアップ等の入札参加資格要件を緩和」
2024年4月5日公表。技術力のあるスタートアップ等について入札参加機会を拡大した措置。
入札参加資格要件の緩和|経済産業省

経済産業省・中小企業庁「令和8年度中小企業者に関する国等の契約の基本方針」
2026年4月21日閣議決定。中小企業・小規模事業者向け契約目標61%、新規中小企業者向け3%以上。価格転嫁、品質・機能評価、フォローアップ等を規定。
令和8年度官公需基本方針|経済産業省

NEDO「2026年度SBIR推進プログラム」
研究開発型スタートアップ等を対象に、POC・FSのフェーズ1、実用化開発のフェーズ2等を多段階で接続し、成果の社会実装を目指す既存制度。
2026年度SBIR推進プログラム|NEDO SBIR Portal

経済産業省「自治体と地域課題解決に取組むスタートアップの官民連携に向けた実践ガイド」
2026年5月改訂。トライアル発注、共同調達等の最新情報を追加。
自治体・スタートアップ官民連携実践ガイド|経済産業省

財務省「公共調達の現状について」
公共調達における経済性、公平性、競争性、透明性、一般競争契約の原則と、政策目的への活用を整理。
公共調達の現状について|財務省

UK Research and Innovation「Contracts for Innovation」
旧SBRI。公共部門の課題について、既存市場に解決策がない場合に100%資金提供のR&D契約を競争的に発注する仕組み。
Contracts for Innovation|UKRI

European Innovation Council「EIC Innovation Procurement Programme」
公共調達担当者とイノベーター双方の能力向上、R&Dサービス調達、Pre-Commercial Procurement等への支援を実施。2026年4月27日に新たな関連調達も公表。
EIC Innovation Procurement Programme|European Commission
2026年のInnovation Procurement Programme公募|European Commission

※本稿は2026年9月21日時点で公表されている制度・資料に基づきます。官公需の「新規中小企業者向け3%以上」はスタートアップだけを対象とする目標ではありません。また、日本版SBIR、スタートアップ技術提案評価方式、入札参加資格緩和、自治体のトライアル発注等はすでに存在する制度であり、本稿はこれらをJapan Compass独自制度として扱っていません。本稿独自の提案部分は、既存制度を**「課題提示→有償開発→実環境評価→本調達→評価記録の再利用」**という連続した運用へ接続し、実証件数ではなく本調達・継続利用・他市場への展開まで評価する点です。

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