大学の国際共同研究に、どこまで「研究セキュリティ」を求めるべきか
――技術流出を防ぎながら、開かれた研究を守れるか
2026年10月6日|2035日本再設計プロジェクト|科学技術・経済安全保障編
大学の研究は、
国境を越えて行われます。
海外の研究者と論文を書く。
外国の大学と研究設備を共有する。
データを交換する。
研究者が互いの研究室を行き来する。
世界中の知識を組み合わせることで、
一つの国、一つの研究室だけでは解けなかった問題を解く。
科学にとって、
国際共同研究は例外ではなく、
重要な研究基盤です。
文部科学省も、
科学の発展やイノベーションには国際連携が不可欠であり、
学問の自由、独立性、開放性、相互主義、透明性を守った研究環境が必要だとしています。文部科学省
しかし、
研究対象が、
AI。
量子。
半導体。
ロボット。
先端材料。
バイオ。
宇宙。
通信。
のような分野になると、
事情は少し複雑になります。
研究成果が、
民間製品だけでなく、
軍事技術。
サイバー能力。
監視技術。
重要インフラ。
高度な製造能力。
などへ応用される可能性があるからです。
研究者本人にその意図がなくても、
共同研究。
研究データ。
試作品。
ソースコード。
装置へのアクセス。
研究者の人的ネットワーク。
を通じて、
重要な技術や知識が外部へ移転することがあります。
そこで世界各国で急速に強化されているのが、
研究セキュリティ
です。
OECDによると、
研究セキュリティに関する政策を持つ国は、
2018年の12か国から、
2025年には41か国へ増えました。
2025年に各国から報告された関連政策は約250件。
2018年の約10倍です。OECD
日本も、
すでに動き始めています。
2025年12月26日、
内閣府は、
「研究セキュリティの確保に関する取組のための手順書」
を策定しました。
2026年度には、
重要技術を含み得る一部の競争的研究費について、
資金配分機関が研究セキュリティ上のリスクを確認する運用が本格化しています。内閣府ホームページ
JSTも、
JST-TRUST
という仕組みを導入しています。
ただ、
ここで難しい問題が生まれます。
研究を守ろうとして、
海外との共同研究を厳しくしすぎれば、
優秀な研究者が日本を避ける。
国際共同研究が減る。
研究開始が遅れる。
大学の事務負担が増える。
そして、
日本の研究力そのものを弱くしてしまう可能性があります。
反対に、
「大学は自由な研究の場だから」
という理由で、
ほとんど確認をしなければ、
本当に守るべき技術まで流出するかもしれません。
今日のJapan Compassでは、
一つの問いに絞ります。
大学の国際共同研究に、どこまで研究セキュリティを求めるべきか。
Executive Summary
結論から言います。
Japan Compassは、
研究セキュリティの強化そのものには賛成です。
しかし、
外国人研究者や海外機関との共同研究を一律に厳しく審査することには反対です。
重要なのは、
誰と研究するかだけではありません。
何を研究するのか。
どのデータへアクセスできるのか。
どの設備を使うのか。
研究成果は公開されるのか。
技術にはどのような用途があるのか。
研究資金はどこから来るのか。
相手側の契約や義務は透明なのか。
こうした、
研究そのもののリスク
を見るべきです。
日本では、
すでに合理的な方向性が示されています。
JSTは、
「スモールヤード・ハイフェンス」
という考え方を採用しています。
つまり、
守る範囲はできるだけ小さく限定する。
その代わり、
本当に重要な部分はしっかり守る。
それ以外の研究は、
できるだけオープンにする。
という考え方です。JST
Japan Compassは、
この考え方を支持します。
ただし、
制度を機能させるためには、
さらに四つの条件が必要だと考えます。
第一に、国籍ではなくリスクを見ること。
第二に、低リスク研究は速く通すこと。
第三に、禁止より先にリスク軽減策を検討すること。
第四に、制度そのものが研究を萎縮させていないかを測ること。
研究セキュリティの成功を、
「何件止めたか」
で評価してはいけません。
見るべきなのは、
重要技術を守れたか。
同時に、
有益な国際共同研究を維持できたか。
そして、
研究者の時間を奪っていないか。
です。
現状|日本はすでに研究セキュリティへ動いている
まず、
現在の制度を正確に整理します。
研究セキュリティは、
研究不正対策と同じものではありません。
文部科学省は、
研究インテグリティを、
研究の国際化・オープン化に伴う新しいリスクに対して求められる
「研究の健全性・公正性」
と説明しています。
一方、
研究セキュリティは、
外国への技術流出等につながる、
外部からの不当な影響・干渉のリスクから研究を守ること、
と定義しています。文部科学省
研究データの捏造や改ざんを防ぐことだけではありません。
例えば、
研究者が海外組織との契約関係を申告していない。
別の機関から研究上の指示を受けている。
研究成果の利用について外部から制約を受けている。
研究データへ、本来想定していない主体がアクセスできる。
重要技術が共同研究を通じて意図せず移転する。
といったリスクも含まれます。
日本では、
2025年12月26日に内閣府が研究セキュリティの手順書を公表しました。
その対象は、
すべての大学研究ではありません。
研究成果の公開を前提とする競争的研究費のうち、
重要技術領域を含む可能性があり、
経済安全保障上、
特に技術流出防止が必要だと指定された
「特定研究開発プログラム」
です。内閣府ホームページ
ここは重要です。
日本政府も、
現時点で、
「大学の研究は全部、厳格な安全保障審査を行う」
という制度にはしていません。
JST-TRUSTは何をしているのか
科学技術振興機構、JSTでは、
研究セキュリティの仕組みとして、
JST-TRUST
を実施しています。
通常の研究提案について、
まず従来どおり研究内容を審査します。
その上で、
研究セキュリティ上のリスクを確認し、
必要ならリスク軽減措置を講じ、
採択後もフォローする仕組みです。
2025年度には、
量子・半導体分野を中心とした4つのプログラムでパイロットを実施。
2026年度も、
その知見を反映しながら運用が続いています。JST
興味深いのは、
JSTが、
研究を止めることではなく、
研究を続けるためにリスクを下げる
という方向を明示していることです。
これは非常に重要だと思います。
例えば、
共同研究を全面禁止するのではなく、
アクセスできるデータを限定する。
機微な設備へのアクセス権を分ける。
共同研究契約を修正する。
研究資金や所属関係を追加確認する。
成果公開前に確認工程を設ける。
など、
研究そのものを続けながら、
リスクだけを小さくする方法があります。
「安全保障貿易管理」と研究セキュリティは同じではない
大学には、
すでに別の仕組みもあります。
外為法に基づく、
安全保障貿易管理
です。
例えば、
一定の機微技術を外国へ提供する場合、
許可が必要になるケースがあります。
経済産業省は、
2025年9月24日に、
大学・研究機関向けの
「安全保障貿易に係る機微技術管理ガイダンス」
を改訂しました。
2025年10月9日に施行された補完的輸出規制の見直しなどを反映しています。経済産業省
ただし、
研究セキュリティは、
外為法そのものではありません。
輸出管理上は問題がなくても、
契約関係。
資金提供。
研究成果へのアクセス。
利益相反。
外部からの不当な影響。
などの面で、
研究セキュリティ上のリスクが存在する場合があります。
逆に、
研究セキュリティという言葉を理由に、
本来法律で禁止されていない国際共同研究を、
必要以上に止めることも避けなければなりません。
二つの制度を混同しないことが重要です。
原因|なぜ今、研究セキュリティが問題になるのか
最大の理由は、
民間技術と安全保障技術の境界が、
以前より曖昧になったことです。
AIは、
医療診断にも使えます。
自動運転にも使えます。
一方で、
無人機。
監視。
軍事情報分析。
にも使えます。
量子技術は、
新しい計算やセンシングを生みます。
同時に、
暗号や安全保障にも関係します。
高性能半導体。
先端材料。
バイオ技術。
ロボット。
衛星。
通信。
多くの先端技術が、
いわゆる
デュアルユース
の性質を持っています。
さらに、
研究成果そのものだけでなく、
研究途中のデータ。
製造ノウハウ。
失敗データ。
ソースコード。
装置の調整方法。
研究者の経験。
こうした
「論文には書かれない知識」
にも価値があります。
だから、
論文を公開するかどうかだけでは、
技術流出リスクを判断できません。
しかし、厳しくすればするほど安全になるわけではない
ここに、
研究セキュリティ特有の難しさがあります。
審査項目を増やす。
海外共同研究を厳しく確認する。
研究者の所属歴を調べる。
契約を確認する。
資金源を確認する。
確かに、
リスクは減るかもしれません。
しかし、
手続が複雑になれば、
研究開始まで3か月。
半年。
1年。
とかかる可能性もあります。
研究の世界では、
半年の遅れが大きな意味を持つことがあります。
競争相手が先に論文を出す。
特許を取る。
優秀な若手研究者が別の国へ移る。
共同研究相手が、
「日本は手続が複雑すぎる」
と判断する。
セキュリティを強化した結果、
日本の研究力そのものが弱くなったら、
政策として成功とは言えません。
OECDも、
安全保障対策が弱すぎれば機微研究が危険にさらされる一方、
過剰な対応は、
イノベーションや有益な国際協力を阻害すると警告しています。OECD
海外事例|EUは「できるだけ開き、必要なところだけ閉じる」
EU理事会は、
2024年5月23日、
研究セキュリティ強化に関する勧告を採択しました。
そこで示されている基本原則が、
“as open as possible, as closed as necessary”
です。
日本語にすれば、
可能な限り開き、必要な場合だけ閉じる
という考え方です。
さらにEUは、
安全措置について、
比例性。
非差別。
基本的人権の尊重。
を求め、
研究セキュリティを、
保護主義や不当な政治利用へ使わないことも明確にしています。欧州理事会
この考え方は、
日本にとって非常に参考になります。
例えば、
「A国の研究者だから危険」
という判断ではなく、
研究テーマ。
データ。
設備。
契約。
資金。
アクセス権。
用途。
を見て判断する。
国籍ではなく、
具体的なリスクを見る。
研究セキュリティを、
外国人研究者排除の仕組みに変えない。
ここは明確な原則にする必要があります。
海外事例|米国は研究者個人だけに責任を押し付けない
米国でも、
研究セキュリティが強化されています。
NSPM-33に基づき、
年間5000万ドルを超える連邦政府の科学・工学支援を受ける研究機関には、
研究セキュリティプログラムを整備・運用していることを、
資金配分機関へ証明することが求められています。NSF – U.S. National Science Foundation
注目したいのは、
研究者本人に、
「全部自分で判断してください」
としていないことです。
大学や研究機関が、
組織として、
教育。
申告。
確認。
リスク管理。
を行う。
これは日本でも重要です。
研究者は、
安全保障法制の専門家ではありません。
量子物理学者に、
複雑な輸出管理法や海外組織の資本関係まで、
すべて自分で調査させることは現実的ではありません。
研究者には、
必要な情報を正確に申告してもらう。
その情報を、
大学や資金配分機関の専門職が評価する。
責任を分担する必要があります。
賛成論|研究セキュリティを強化する理由
研究セキュリティ強化には、
明確な理由があります。
まず、
公的資金によって育てた重要技術が、
意図しない形で流出することを防ぐ必要があります。
第二に、
研究者自身を守る意味があります。
研究者が、
知らないうちに海外組織の契約義務へ巻き込まれる。
研究成果の権利関係を失う。
研究者自身が輸出管理違反のリスクを負う。
こうした事態を防ぐためにも、
大学の支援が必要です。
第三に、
海外との信頼関係です。
研究セキュリティ体制が不十分な大学は、
逆に、
海外の優良な研究機関から、
機微な共同研究の相手として選ばれにくくなる可能性があります。
つまり、
研究セキュリティは、
国際共同研究を減らすためだけの制度ではありません。
適切に設計すれば、
安心して共同研究するための条件
にもなります。
慎重論|最大の危険は「萎縮」と「差別」
一方、
研究セキュリティには、
非常に慎重に扱うべき副作用があります。
最も危険なのは、
出身国や国籍そのものを、
リスクとみなしてしまうことです。
同じ国籍でも、
研究内容も、
所属機関も、
資金源も、
契約関係も、
アクセスできる情報も違います。
国籍だけで判断すれば、
優秀な研究者を失うだけでなく、
差別を制度化する危険があります。
JSTも、
研究セキュリティに関する取組で、
人種や国籍による差別につながらないこと、
研究者の負担を過大にしないことを重視しています。JST
もう一つは、
大学自身が、
「問題になるくらいなら海外共同研究をやめよう」
と過剰反応することです。
リスクゼロを求めれば、
最も簡単な方法は、
誰とも共同研究をしないことです。
しかし、
それでは科学は発展しません。
Japan Compass政策提案
「研究者を選別する制度」ではなく「研究リスクを管理する制度」にする
Japan Compassでは、
現在進んでいる研究セキュリティの方向性を維持しながら、
運用を次のように整理することを提案します。
最初に見るのは、
研究者のパスポートではありません。
見るべきなのは、
技術の機微性。
非公開データへのアクセス。
特殊設備へのアクセス。
研究成果の用途。
相手機関と資金源の透明性。
外部組織との契約や責務。
です。
これらを基に、
低リスク。
中リスク。
高リスク。
のように段階化します。
低リスク研究なら、
通常の申告だけで迅速に進める。
中リスクなら、
専門職が追加確認する。
高リスクなら、
技術・法務・安全保障の専門家を含めて審査する。
すべての研究に、
同じ重さの審査をかけない。
これが第一です。
「禁止」より「条件付きで続ける」を先に考える
第二は、
問題が見つかったときです。
いきなり、
共同研究中止。
研究者受入れ中止。
データ共有禁止。
とするのではなく、
まず、
リスクを下げれば研究を続けられないか、
を検討します。
例えば、
共有するデータを限定する。
特定設備へのアクセスを分ける。
成果公開前の確認を入れる。
契約条項を変更する。
共同研究先に追加情報を求める。
研究担当範囲を分ける。
こうした方法があります。
もちろん、
リスクを下げても許容できない案件は、
断る必要があります。
しかし、
研究を止めることを成功としない
ことが重要です。
低リスク研究には「迅速レーン」が必要
第三は、
研究者の負担です。
研究セキュリティ制度でよく起きる問題は、
重要案件より、
大量の低リスク案件の確認で担当者が疲弊することです。
すべてを詳細審査すれば、
本当に見るべき案件へ時間を使えません。
そこで、
過去に問題がなく、
公開研究で、
機微技術へのアクセスがなく、
相手機関や資金源も明確な共同研究は、
簡略化した確認で進める。
一方、
重要技術。
非公開情報。
特殊設備。
複雑な海外資金。
不透明な契約。
が含まれる案件だけ、
審査を深くする。
これこそ、
「スモールヤード・ハイフェンス」を、
実務へ落とし込む方法です。
大学ごとに同じ調査を繰り返さない
第四は、
大学間の格差です。
大規模国立大学なら、
輸出管理。
法務。
知財。
国際連携。
研究インテグリティ。
を担当する専門職を置けるでしょう。
しかし、
地方大学や小規模大学が、
同じ体制を単独で整えることは簡単ではありません。
この場合、
新しい行政機関を作るより、
既存の文部科学省相談窓口、
資金配分機関、
大学間ネットワークなどを利用し、
複雑な案件を共同で支援できる体制にする方が現実的です。
文部科学省はすでに、
2025年4月10日に研究セキュリティ相談窓口を設置しており、
令和7年度から試行的な取組を開始しています。文部科学省
制度を増やすより、
まず、
既存の支援機能を使いやすくするべきです。
最大のポイント|「安全になったか」と同時に「研究が弱くなっていないか」を測る
研究セキュリティでは、
評価方法が極めて重要です。
例えば、
審査の結果、
海外共同研究を100件中20件中止した。
これだけ聞けば、
「よく守った」
ようにも見えます。
しかし、
その20件に実際どの程度のリスクがあったのか。
条件変更で続けられなかったのか。
優秀な海外研究者を失わなかったか。
研究成果を逃していないか。
を見なければ、
政策効果は分かりません。
そこで、
制度運用について、
個別案件を特定できない形で、
少なくとも、
審査件数。
追加審査になった割合。
平均確認日数。
条件付きで継続した件数。
中止・不採択となった件数。
研究者の追加事務時間。
を公開します。
さらに、
国際共同研究件数。
海外研究者の受入れ。
共同論文。
共同特許。
などが、
制度導入後に不自然に減っていないかも確認します。
守る側だけのKPIではなく、
「開かれた研究環境を守れたか」もKPIにする
ということです。
財源・実施主体・制約
中心となる実施主体は、
内閣府。
文部科学省。
経済産業省。
JST、JSPS、NEDO、AMEDなどの資金配分機関。
大学・研究機関です。
内閣府はすでに2026年度、
特定研究開発プログラムを扱う資金配分機関について、
リスク評価手法。
デュー・ディリジェンス。
組織体制。
教材。
リスク軽減措置のフォローアップ。
などを支援する事業を実施しています。対象候補にはJST、JSPS、NEDO、AMED、JAXA、NICTなどが含まれています。内閣府ホームページ
したがって、
新しい「研究安全保障庁」のような組織を、
今作る必要はありません。
必要なのは、
既存機関の専門職を強化することです。
追加コストは、
研究者本人の直接研究費からできるだけ削るのではなく、
資金配分機関の制度運営費や、
大学の間接経費・共通支援機能として確保する方が合理的です。
今回確認した政府資料には、
全国の大学が研究セキュリティ体制を整備するための追加総額について、
確定した全国コスト試算は確認できませんでした。
したがって、
「年間○○億円必要」
という数字は置きません。
まず実際の審査件数と作業時間を測り、
必要人員を積み上げるべきです。
制約|「何が危険か」を完全に公開できない
研究セキュリティには、
政策評価上の難しさがあります。
審査基準を全部公開すれば、
その基準を回避する方法まで明らかになる可能性があります。
一方、
基準をほとんど公開しなければ、
研究者から見れば、
なぜ共同研究を止められたのか分からない。
恣意的な判断にも見えます。
したがって、
具体的な情報収集手法などは非公開でも、
少なくとも、
どの種類のリスクを評価しているのか。
どのような理由で追加確認になるのか。
本人が誤った情報を訂正できるのか。
判断を再確認してもらえるのか。
という、
手続の原則
は公開する必要があります。
さらに、
高リスクと判定された研究者や研究機関側には、
安全保障上開示できない部分を除いて、
理由の概要を伝え、
事実誤認があれば再確認を求められる仕組みを設けるべきです。
2035ロードマップ
2026~2027年|まず現在の制度を測る
JST-TRUST。
内閣府手順書。
文部科学省の試行。
資金配分機関の取組。
について、
審査件数。
審査時間。
追加確認。
リスク軽減措置。
研究者の作業時間。
を記録します。
「制度を導入した」
ではなく、
実際の運用を見えるようにします。
2027~2029年|資金配分機関ごとの重複を減らす
JST。
JSPS。
AMED。
NEDO。
などで、
基本的な申告項目やリスク項目が大きく異なれば、
研究者は同じ情報を何度も提出することになります。
共通化できる項目は共通化し、
一度確認した基本情報を、
適切な個人情報保護の下で再利用できる仕組みを検討します。
低リスク案件の迅速処理も導入します。
2029~2031年|「守れたか」だけでなく「萎縮していないか」を評価する
重大な情報流出や契約問題。
審査期間。
条件付き承認。
研究中止。
国際共同研究数。
外国人研究者の受入れ。
を同時に評価します。
問題が少ない分野まで規制が拡大していれば、
範囲を狭めます。
逆に、
新しい技術流出経路が見つかれば、
高リスク領域を見直します。
2031~2033年|信頼できる国との手続整合を進める
研究セキュリティは、
日本だけで完結しません。
共同研究相手国にも、
似た確認手続があります。
同志国・研究パートナー間で、
基本的な申告項目。
利益相反確認。
データ管理。
研究セキュリティ研修。
などをできるだけ整合させれば、
安全性を保ちながら、
研究者の重複負担を減らせます。
2033~2035年|「閉じる制度」ではなく「安全に開く制度」へ
2035年に目指すのは、
海外共同研究を少なくすることではありません。
むしろ逆です。
信頼できるルールがあるから、
安心して、
世界中の研究者と研究できる。
本当に守る必要のある部分だけを守る。
それ以外は、
自由に共同研究する。
その状態が、
日本の研究セキュリティの完成形だと考えます。
2035日本再設計白書での位置付け
今回の#065は、
第三部「経済」
に位置付けます。
横断テーマは、
科学技術。
経済安全保障。
教育。
外交です。
#010では、
半導体・AIなどを、
産業政策と経済安全保障から扱いました。
#046では、
研究者が研究する時間を取り戻すための研究基盤を検証しました。
#056では、
博士人材を大学外でも活かす仕組みを扱いました。
#061では、
AI・量子・半導体などを戦略技術に指定し、
研究開発税制で重点支援することの妥当性を検証しました。#061自身も、重要技術へ重点的に資源を振り向ける一方、選定・退出ルールが必要だと整理しています。Japan Compass
今回の#065は、
それらとは異なります。
研究を支援した後、その研究を世界へ開く時に、どのような安全装置が必要なのか。
という問いです。
研究費を増やす。
博士を育てる。
戦略技術へ投資する。
それだけでは、
科学技術政策は完成しません。
同時に、
研究成果を守りながら、
世界とつながる仕組みが必要です。
今日の提言
研究セキュリティという言葉は、
少し怖く聞こえます。
研究。
大学。
安全保障。
本来、
違う世界にあるような言葉だからです。
しかし、
研究セキュリティの目的は、
大学を閉じることではありません。
研究者を疑うことでもありません。
私は、
こう考えます。
研究セキュリティとは、「閉じるための制度」ではなく、「安心して開くための制度」であるべきです。
世界と共同研究をする。
優秀な外国人研究者を受け入れる。
海外の研究設備を使う。
データを交換する。
それを続けるために、
本当に危険な部分だけを見つけ、
そこだけ強く守る。
その判断は、
国籍ではなく、
研究内容と具体的なリスクで行う。
そして、
研究者本人へ、
複雑な安全保障判断をすべて押し付けない。
政府。
資金配分機関。
大学。
専門職。
研究者。
が責任を分担する。
これが必要です。
日本が、
AI。
量子。
半導体。
バイオ。
宇宙。
先端材料。
で世界と競争したいのであれば、
研究セキュリティは避けて通れません。
しかし同時に、
科学は、
世界から孤立すれば強くなりません。
だからこそ、
日本が目指すべきなのは、
「スモールヤード・ハイフェンス」を、本当にスモールなまま維持すること
ではないでしょうか。
読者への問い
もし、
日本の大学が、
世界トップクラスの海外研究者と、
量子技術の共同研究を始めるとします。
研究成果には、
医療。
通信。
産業。
に大きな可能性がある。
一方、
一部は安全保障にも応用できる。
あなたなら、
どうしますか。
「危険かもしれないから共同研究をやめる」
でしょうか。
それとも、
「大学の研究なのだから自由にする」
でしょうか。
私は、
そのどちらでもないと思います。
守る部分を特定する。
必要な条件を付ける。
データや設備へのアクセスを管理する。
そして、
安全になった範囲で共同研究を続ける。
問題は、
海外と研究するかどうかではありません。
日本は、世界とつながったまま、重要な研究を守ることができるか。
これからの科学技術政策では、
そこまで問われるのではないでしょうか。
データ出典・参考資料
文部科学省「研究インテグリティ・研究セキュリティ」
国際連携の必要性、研究インテグリティと研究セキュリティの定義、2025年度からの試行、2025年4月10日の研究セキュリティ相談窓口設置等を確認。
研究インテグリティ・研究セキュリティ|文部科学省
内閣府「研究セキュリティと研究インテグリティ確保に関する有識者会議」
2025年12月26日の「研究セキュリティの確保に関する取組のための手順書」、国際共同研究と重要技術流出防止を両立する政府方針を確認。
研究セキュリティと研究インテグリティ確保に関する有識者会議|内閣府
内閣府「研究セキュリティの確保に関する資金配分機関のリスクマネジメント体制整備伴走支援事業」
2026年度の特定研究開発プログラム、資金配分機関へのデュー・ディリジェンス、リスク評価、組織整備、教材・ツール、軽減措置のフォローアップ支援を確認。
資金配分機関の研究セキュリティ体制整備|内閣府
科学技術振興機構「研究セキュリティ確保への取組/JST-TRUST」
通常の研究評価後に研究セキュリティ上のリスクを確認し、必要に応じて軽減措置・採択後フォローを行うこと、「スモールヤード・ハイフェンス」、2025年度の量子・半導体4プログラムでのパイロット、2026年度の継続を確認。
JST-TRUST|科学技術振興機構
経済産業省「安全保障貿易に係る機微技術管理ガイダンス(大学・研究機関用)」2025年9月24日改訂
外為法に基づく大学・研究機関の安全保障貿易管理、2025年10月9日施行の補完的輸出規制見直し等を確認。
機微技術管理ガイダンス|経済産業省
OECD「Science, Technology and Innovation Outlook 2025」関連公表資料
2025年には各国から約250件の研究セキュリティ関連政策が報告され、政策保有国が2018年の12か国から41か国へ増加。安全保障と研究の開放性・イノベーションの均衡が必要との指摘を確認。
OECD Science, Technology and Innovation Outlook 2025
EU Council「Recommendation to enhance research security」2024年5月23日
“as open as possible, as closed as necessary”、比例性、非差別、基本権尊重、保護主義や不当な政治利用を避ける原則を確認。
Council recommendation on research security|Council of the EU
U.S. National Science Foundation「Research Security」
NSPM-33に基づき、年間5000万ドルを超える連邦科学・工学支援を受ける研究機関へ研究セキュリティプログラムの整備・運用認証を求めること、標準的な研修・ガイドライン等を政府側が支援する仕組みを確認。
Research Security|U.S. National Science Foundation
※本稿は2026年10月6日時点で確認できる公表資料に基づきます。日本の研究セキュリティ制度は現在、特定研究開発プログラム、資金配分機関、大学等で実装・試行が進んでいる段階です。今回確認した資料からは、2026年度の全国的な審査件数、条件付き継続件数、平均審査時間、研究者一人当たりの追加事務時間、国際共同研究件数への影響について十分な実績値はまだ確認できませんでした。このため、本稿では「研究セキュリティ強化によって技術流出が減った」「国際共同研究が減った」といった効果を断定していません。
Japan Compass独自の提案部分は、すべての外国人研究者・海外共同研究を一律に厳格審査するのではなく、技術の機微性、非公開データ・設備へのアクセス、用途、相手機関・資金源の透明性、外部契約・利益相反等によってリスクを段階化することです。低リスク案件は迅速処理し、高リスク案件に専門審査を集中。原則として禁止より条件付きのリスク軽減を優先し、審査件数・時間・条件付き継続率・研究者の追加作業時間等を匿名化して公表し、研究を守る効果と国際共同研究への萎縮効果を同時に評価します。

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